冒険者ギルド
「レオン君、朝ですよ!起きてください!今日はやることがあるって言ってたじゃないですか!」
ニーナの声で目を少し開けるが、やはり眠気が勝つ。もう一度目を閉じて寝ようとする。
「……眠い………無理だ…………昼までは寝かしてくれ」
「それで大丈夫なんですか?」
「……大丈夫だ………最悪、お前だけなら何とかなる…………」
「……それはなんだか嫌です」
「……まあ、そん時は………どうにかする…………」
「わかりました。お昼までですからね?」
「……おーう」
再び、微睡みの中に身を委ねた。
※ ※ ※
「なんか悪いな、待ってもらっちまって」
「いいですよ、せっかくの冒険者登録ですから!一緒に登録したいですし!」
「ん、そうか」
嬉しそうな顔で返事してくる。まあ、実際にはこいつに変な虫がつかないようにとか、妙なやつらに騙されないようにとか思ってやってるんだが……ニーナには黙っといた方がいいかもな。
「そっか、二人も冒険者になるんだね。私としてはレオン様が冒険者登録してないことに驚きなんだけど」
「結局、お前はその呼び方のままなのか……それはともかく仕方ねえだろ。道中、冒険者ギルドなんざなかったんだから」
朝――――――とは言っても、寝過ごしたから昼になっちまったわけだが―――――――飯を食いながら、これからの予定について話す。今日は冒険者ギルドに登録をしに行く予定だった。
簡単に冒険者ギルドの役割を説明してしまえば、役所みたいなとこだ。冒険者を登録し、ランク付けによって強さを整理、何かがあったときに依頼という感じだ。それに加えて魔物の討伐に応じて報酬を出す、というものもある。これにより冒険者の魔物を討伐するという意欲を上げる。結果、安全になるということになる。ここら辺が冒険者ギルドに期待されていることなのだろう。主に国とか領主とかに。それに自分で魔物の素材を売ってもいいんだが、それだとぼられることがある。というよりそれがほとんどだろう。冒険者ギルドならそんな心配もないからこそ皆使う、というわけだ。
「でもレオン様、大丈夫?ここは、その………」
「冒険者ギルドってのは大体、大きな街に出ないとないわけだろ?ここで無理なら他でも無理な可能性の方が高いだろうさ」
アカネが心配そうに声を掛けてくるが、黙殺しておいた。俺はここでは変装しないで登録しようと思っていた。いちいち変装して、依頼を受けるのが面倒だからだ。ここは貿易の中枢都市。当然いろいろな人種、種族が集まる。だからこそ他よりは可能性は高いと踏んだのだが……最悪の事態を考えておいた方がいいからな………
「ねーねー、そろそろ教えてくれない?昨日はぐらかしてたこととかさ-」
……こいつどうしよう。シルフィが俺の服の袖を引っ張ってくる。普通のやつには見えないからなあ。頭の痛いところである。
「……少し静かにしてろ。二人の時にちゃんと説明してやるから」
「ほんと?嘘じゃないよね?」
「……ああ」
「じゃあ、静かにしてよっかなー」
機嫌が良くなったシルフィを横目に、軽くため息をつく。はあ、これで頭痛の種が少し―――――本当に少しだが―――――何とかなった。まだまだ問題が山積みだから嫌になってくるけど。
「さて、出かけるか。あんまり遅いと明日に回す羽目になりそうだしな」
「そうですね!早く行きましょう!」
楽しそうだな、ニーナ。俺は面倒事が起きる気しかしないんだが………そんなことを考えながら、飯をぱくつくのだった。
※ ※ ※
(で、結局こうなったわけか………)
「なんでですか!私だけよくて、レオン君が駄目なんておかしいです!」
「だがなあ、嬢ちゃん。そいつは悪魔憑きなんだぜ?何するかわかったもんじゃねえじゃねえか?」
うわあ、テンプレみたいな荒くれ冒険者に絡まれた……筋肉がかなりついていて、肌色も茶色い。ボディビルダーに似てるかもしれない。で、頭はツルッツルだった。まさに筋肉ダルマといえそうだ。しかも、ギルドの職員もまともに対応しないし。想像以上に酷いな、これは………ニーナは怒り心頭といった感じだし、アカネはオロオロしてるし全く役に立ちそうもないな。その冒険者にニーナが食って掛かる。
「なんでそんなに黒が駄目なんですか!なんで誰も髪の色が違うだけで、そうまでできるんですか!」
「に、ニーナちゃん、相手は………」
「おかしいです……おかしいですよ………」
とうとう涙まで流し始めてしまった。それだけ悔しかったのかねえ?別に、俺は気にしてないからいいのに。
「まあ、ニーナの方はともかく、ギルドカードは作らせてくれよ。そんくらいは構わねえだろ?」
「どうしてレオン君も悔しがらないんですか!」
ええ?俺が悪いのか?困った顔をニーナに向ける。
「そう言われてもなあ……どうせそんなに期待しちゃいなかったし、何するかわからないってのもわからなくはないからな………」
「そうそう、わかってんじゃねえかガキのくせによぉ。わかったらとっとと帰れや」
にやにやと笑いながら、筋肉ダルマが威圧してくる。とは言っても、師匠と比べればあくびが出るくらいの威圧だが。
「カード作ったらな」
「おい、聞こえなかったのか?『とっとと』帰れっつったんだ。今すぐ帰れってことだよ。頭悪いのか?」
周りが笑い始める。どうでもいいけどさ。面倒事は起こしたくもないから、黙って無視する。
「ついでに、そこの生意気なガキにも言っとけよ?泣いてるだけじゃ、何も解決しねえってな」
それもまたごもっとも。そんなことは前世で嫌というほど叩き込まれた。それを言われても今更感が半端ないのではあるけれど。右から左に聞き流していく。というか、職員対応しろや。ガン無視している職員を見つつ、そう思った。
「それに、お前みたいなガキに何ができんだよ?あまり調子に乗ってるようなら、現実ってものを教えてやらなきゃなあ?」
それにしても、ガキガキうるさい。それしか言えないなら、随分と語彙力がないものだ。呆れの視線を送るが、そいつは気付かないようだった。
「役立たずは消え失せろや。ここはお遊びの場所じゃねえんだからな」
同調する声がいくつも聞こえてくる。よく見れば、後ろの方にはギルドの職員まで交じってる。……それでいいのか、公的機関?
「……まってください」
まだ文句言うつもりか、ニーナ?もういいよ、面倒なだけだし。さてと、どうすっかな………次のことを考えていると、驚くような行動に出た。
「謝ってください!レオン君は役立たずなんかじゃありません!何度も私を助けてくれたんですから!」
おいおい、なんか喚いてるオッサンに突っ込んでったんだが……何やってくれちゃってんの、あいつ。
「いちいちうるせえな、てめえも。纏わりつくんじゃねえよ!」
そいつが腕を振り上げ………そこで、プツンと何かが切れた音がした。
「……何しようとしてやがる」
振り下ろそうとした腕を受け止めていた。
「ああん?生意気なガキに教育してやろうと思っただけだが?」
「なるほど、つまりは殴ろうとしてたという解釈でいいんだな?」
「だったら何だってんだ?」
にやけた顔が近づく。どうせくだらないことでも考えているのだろう。
「せっかくだから、それを教えてもらおうと思ってな。確かここには、訓練用に開けた場所があったはずだな?」
すると、やつは一瞬呆けた様な表情をし、更に笑みを浮かべた。阿呆な男が女の前でかっこつけたがっている、とでも思っているのだろう。
いいだろう、お前の思惑に乗ってやる。ただし、恥をかくのはお前だがな。ニーナを傷つけようとしたことを後悔させてやる。
(レオン)結局、どこに行ってもトラブルが起きるなあ……




