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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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都市外の異変

 「それでそれで?これからどうするの?」

 「ゴブリンがどれくらいいるのか調べるんだよ。だりいからとっとと終わらせて、帰る」

 「ということは戦うの!?」

 「なんでそうなる?戦わねえよ、めんどくせえし」


 呆れた目をするが、こいつは気付かないようだ。どころか、更にペラペラと喋り始める。


 「えー、面白そうだと思ったのにー」

 「っていうか、なんでお前はそこまで俺に戦ってほしいわけ?」

 「だって凄かったもん!あの村で魔物とか魔族とかバッタバッタ倒してくの見てて、興味湧いたんだから!」

 「……見てたのか、お前?」

 「うん!ねえねえ、どうやったらその年でそんな風に戦えるの?知りたい知りたい!」

 「………その話はやめろ」


 あの世界でのことなんて思い出したくもない。《戦闘形態》になったのだって不本意なものだった。興味本位で尋ねられても不快なだけだ。イライラしていると、予想を覆すような返事がきた。


 「……うん、それならいいや。あんまり楽しそうじゃないし。ゴブリンのいるところだっけ?」

 「ああ」


 少し意外だった。こいつのことだから無理矢理にでも聞き出そうとするかと思ったのに。驚いたような視線を送るが、やはりそれにも気付いた様子はなく、前をふよふよと飛んでいた。


 「いつか教えてねー」

 「まあいつか気が向いたら、な」


 こいつも別に悪いやつではないのかもな。少しは信じよう。いつまでもあの世界に縛られるのもよくない。疑わなければ、殺さなければ生きてはいけないあの世界に。そこで、こいつについて少しは知っておいてもいいかと思い、質問してみた。


 「そういやなんだが、お前ら精霊って普通は見えないもんなのか?」

 「うん、そうだよー。だからちょっと寂しいんだ。同じ精霊とか見える種族とかでしか話すことはできないし。なんでだろうねー?」

 「要は紫外線とか赤外線みたいなもんだろ。お前らがそこにいても感受性がないから、感知することができねえんだろうさ」


 普通に思いついた推測を口に出してみた。すると、この精霊は面白いように食いついてくる。


 「え?何々、赤外線と紫外線って!?初めて聞いたよ!」

 「ん、ああそうか。まだ知られてねえのか。まあ、ヘカルトン内に戻ったらな」

 「よーし、そういうことなら早く終わらせちゃうんだから!ゴブリンがいるところはねえ、あっちとかあっちとかあっちだよ!」


 一瞬阿呆なのかと思ったが、一つのことに思い当たる。


 「……複数あるってことか?」

 「そう!」

 「そうか……聞きたいんだが、集団でいるのは何ヶ所だ?それと大体でいいから、数も教えてくれ」


 精霊は集中するように目を閉じて、口を開いた。

 

 「うーんとね、集団だったら……20ヶ所くらいかな?数は………バラバラだけど大体30体はいると思うよ?」

 「もう一つ質問だ。普通はこんなに集まることはあるのか?」

 「ないよ、絶対。30体の集団が一つくらいだったら普通にあるけど、こんなに集まるのは異常だよ」


 なるほど。これはもしかするとだが……俺の推論があっているかどうかを確認するために、この精霊に再び問いかけ始める。


 「わかった、こっからは確認だ。いいか?」

 「えー?戻ってからじゃダメ-?」

 「そうか、残念だ。答えれば面白いもん見せてやろうかと………」

 「なんでも言ってみなさい!」


 心変わるの早いな。まあ、いいけど。扱いやすいし。思いついた確認事項を聞いていく。


 「まずは、だ。ゴブリンたちの集団内に人間、それも女の反応はあるか?」

 「うん、あるよー」

 「次に、ゴブリンは他種族を使って繁殖する。違うか?」

 「その認識で合ってるよー。オークと並んで女の敵って言われてるよー」

 「ゴブリンたちの中に強い個体、もしくは異常な個体がいる」

 「うん、いるねー」

 「ゴブリン以外にも魔物がいたりは?」

 「いるよー」

 「これで最後だ。近隣に飛び抜けて異常な個体がいる」

 「それはいないかな-」

 「そうか。ある程度絞れた。ありがとな」

 「いえいえ、どういたしまして」


 こいつ、思ったよりも使えるかもしれん。とそこで気付くが、いつまで俺はこの精霊のことをこいつって呼んでるんだろ?いつまでもこいつこいつ呼ぶのも味気ないので、さりげなく……ではなく、ド直球に聞いてみた。


 「ところでお前に名前あんのか?」

 「ないよ?付けるような人いないし」

 「ふーん?呼ぶとき面倒だし付けとくか。適当になるだろうけどいいか?」

 「おお-!いいよいいよ!かわいいのでお願いします!」

 「難しい要求してくんな……シルフィとかどうだ?」

 「うん、それでいいよ!」


 いいんだ……適当なのに………。ちなみに風の精霊の女王(勿論前々世からの引用である)、シルフィードをいじって作ったものなんだが……本当に何の捻りもないんだよなあ………とはいえ、面倒にならずに済んだからほっとしてもいるんだが。


 「でさ、でさ!面白いものって何!?見せて見せて!」

 「すぐそれか、お前は……ま、頑張ったから見せてやるよ。もうひとふんばりするんだしな」


 俺のその言葉に、シルフィはげんなりとした顔になった。


 「ええー、まだするの-?」

 「だから見せてやるんだろうが。我慢しろ」

 「はーい。で、何見せてくれるの?」

 「魔法だよ、俺のな」

 「魔法?それって凄いの?」

 「とびっきりのやつだ。今必要でもあるからな」


 とあるものをイメージし、魔力を練り上げていく。そう。この静かな夜にピースメーカーなんぞぶっ放せば、ゴブリン共に勘付かれる。調査に来てるのに、難易度上げて臨むとかただのどMである。だからこそ、あれの出番だろう。


 「生成、ウェルロッド」


※               ※               ※

 ウェルロッド。前世で俺がよく使用していた銃のうちの一つだ。この銃にはあまりいい思い出がないのだが……この状況だ、やむを得ないだろう。それにこの銃は便利であることを否定できないしな。


 この銃は前回説明した回転式拳銃とは違う。自動式拳銃だ。自動式の長所は弾倉と呼ばれる部分に弾丸を詰め込むため、回転式と比べ装弾数が多いという部分にある。また、自動式はシリンダーの個室に一つずつ弾丸を入れなければいけないのと異なり、弾倉を交換することで弾丸を装填することができる。つまり、回転式よりも長く、そして素早く撃ち続けることができるのだ。

 勿論欠点もある。弾丸をより多く打ち出す自動式はジャム、要は弾詰まりを起こしやすいのだ。また回転式に比べると、ジャムを起こしたとき次弾発射までに少々時間がかかる。それでもやはり、自動式が選ばれることが多いのだが。


 話を戻そう。実はこのウェルロッド。ボルトアクション方式という作動方式を備えているため、引き金を引けばすぐに撃てる、というわけではない。一度撃ったら銃の後部に付いているボルト(取っ手のようなもの)と呼ばれる部分を引き、弾薬を装填する。言い換えると一度撃つ。銃の後部の取っ手のようなものをひねって引く。元の位置に戻す。また撃つ。という面倒な手順が必要なのだ。さらに、この銃。あまり威力がある方ではない。俺が持っているMk-Ⅱは撃つ場所を間違えると大したダメージを与えられないほどである。

 では、何が優れているのか?それはその消音性にある。皆さんはサイレンサーを知っているだろうか?正式にはサウンドサプレッサーと言うらしい。銃に消音機能を付けるあれのことである。さて、皆さんはサイレンサーをどういうものと思っているだろうか?大体は音を消すもの、と認識してるであろう。事実、俺もまたそうだった。だが、違うのだ。サイレンサーは音を消すものではない。音を抑えるものだ。そもそも無音で撃てる銃など存在しない。レーザーガンでさえも音を立てていたのだ。実弾を撃つ銃なら尚更である。無音で撃つことができるのはテレビの中でだけなのだ。

 では、何故サイレンサーを付けるのか?サイレンサーを付ければ、大きくなり取り回しが悪くなるといった欠点があるのに、だ。答えは抑える、ということにある。そもそも銃は威力が大きくなればその銃声はうるさくなるものだ。持っていた銃の一つに滅茶苦茶うるさい銃もあった。そうなったときに耳がやられる可能性だってある。要は最も大きな理由として使用者、もしくは使用者の近くの人間の耳を保護する効果があるのだ。他にも銃声を銃の音だと認識させないためであったり、重心を安定させるなどという効果もある。よほどのことがない限り、サイレンサーは付けておいた方がいいのだ。


 やっとウェルロッドの話になるのだが………このウェルロッド、最高の状態で撃てば35dB程度にまで音を抑えることができる。40dBが図書館の中くらいの音の大きさであるわけだからいかに静かであるかがわかる。それもたった3dB違うだけで約1.4倍音が変わるのだから、まあ驚異の消音力である。さらに、この銃は目標と密着させることで音を抑えるような構造になっている。上手く使えば隣の部屋にいても発砲に気が付かない、なんてこともあり得る。加えてウェルロッドは持ち手の部分と銃身が取り外し可能であるため、携帯しやすい。つまるところ、暗殺に特化したような銃なのだ。そう、ウェルロッドは『暗殺銃』とも呼ばれる代物なのだから。


※               ※               ※

 「え!?今どこから出したの!?凄い凄い!」

 「今のが俺の魔法だよ。説明は帰ってからだ。とっとと終わらせて帰るぞ」


 はしゃぐシルフィをなだめつつ、最後にやるべきことをしにかかるのだった。

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