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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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大都市の異変

 「お、お前……いや、あ、あなた様はもしや貴族様では………」

 「まあ、いろいろとあってな。すまないが詮索しないでくれると助かる」

 「は、はいっ!申し訳ございませんでした!」

 「代わりと言っては何だが、身分証を発行してくれるか?家を出る時に持ってくることができなかったものでな」

 「は、はいっ!喜んで!」


 身分証の発行はすぐに済んだ。むこうも変に問題を起こしたくなかったんだろう。すまんな、オッサン。こっちもここで面倒事は起こしたくないんだ。ニーナの方も問題なく終わったようで、こっちに近づいてきた。ちなみにアカネは先に都市の中に入っていた。ただ、どちらも驚いた様子だ。ニーナなんか口をパクパクさせていた。


 「おい、アカネ。お前家は持ってんのか?」

 「う、うん……でも、レオン様、その………」

 「礼として俺らを泊めろ。それでチャラにしてやる。そんでもって話はそこに着いてからだ」


※               ※               ※

 「そ、それで……話を聞いてもいいのかな?」

 「まあな。つか、ちょっと待て」


 そう言って、スムーズに門を通るための秘策―――――――ウィッグとカラーコンタクトを外す。これで元の黒髪黒目に戻ったわけだ。


 「「ええっ!?」」

 「ほんと仲いいな、お前ら……あそこで引っかかるかもしれないと思って何もしてないとでも思ったのか?」


 そう、どうもアカネの話を信用するのなら、悪魔憑きに対する風当たりは強い。最悪入れてくれない可能性だってあった。なら、とりあえず入るまでは変装しておいた方がいい。そう考えてのウィッグとカラコンだった。色は貴族に多い金のウィッグと緑のカラコン。案の定誤解してくれたようで、サクサクと話が進んだ。入ってしまえばこっちのものだ。出歩くならフードを被ればいいし、金をある程度稼いだらここを出ていくつもりだったしな。にしても、便利だよ。生成魔法。これぞ噂のチートという奴だろうか。うん?アカネの話が間違ってたときは、だって?別に困ることないだろ。魔法のことはぼかしながら、適当に説明してやると、アカネが目を輝かせた。


 「もしかして、これがあったら私も………!」

 「それはないな」


 変装は向こうがこっちを知らないからこそ、初めて成立するものだ。よほど凝ってやれば気付かれないこともないが、この程度の軽いものではただ染めただけとそう変わらない。つまり悪魔憑きとしてすでに有名であるこいつはどうしようもないのだ。そのことも教えてやると、目に見えて落ち込んだ。


 「そっか……」

 「いずれにせよこれは一時しのぎにしかならねえし、仲間できても気が休まねえだけだと思うがな。秘密がばれれば即行で解散だろ?」

 「……うん、そうだね。ごめんなさい、変なこと言っちゃって」


 まあ、ある意味当たり前っちゃ当たり前ではあるのか。悪いことばかり続いてて、目の前にいいことがあれば飛びつきたくなるものだ。それが辛ければ辛いほどに。勿論、そうならないやつだっているにはいる。だが、そうでないやつの方が圧倒的に多いのだ。それに………


 (こいつの話もどうやら本当らしいしな……)


 都市内でのこいつを見る目。間違いなく同じ人間を見る目ではなかった。例えるなら、まるで汚物でも見るかのような目。そんな目を見てきたことがあるからこそ、勘違いで片付けることはできなかった。そして極めつけはこの家。一部の部屋からしか生活臭がしないのだ。恐らくアカネ自身の部屋、リビング、キッチン。トイレを抜けばこのくらいだろう。まだ部屋があるのに、だ。母親が長期出かけている、という可能性もあるが、この状況で子を置いていくとすればそれは――――――――――


 (こいつを捨てた、だ)


 こいつの言動と行動を考えるに、それは弱いように思える。恐らく死んだ、で合っているのだろう。そこでアカネがいきなり声を上げた。


 「そうだ!ベッド二つしかないんだけどどうしよう!?」

 「普通に女二人で一つ、俺が一つでいいんじゃねえか?でかさにもよるだろうけど」

 「え、えっとね。一つ子供用のだから小さいんだ。だから、その………」

 「私とレオン君でどうでしょう!?」

 

 ……何言ってるの、こいつ?いきなり飛び出た問題発言に眉をひそめる。すると、アカネがさらなる爆弾を投下してきた。


 「だ、だめだよ!何かあったらどうするの!わ、私なら大丈夫だから、私とレオン様でいいんじゃないかな!?」


 ………頭イカれてんのか、こいつら?そもそもナニしたところで俺まだ出ねえだろうが。それをわかってるのか?わかってないだろうけど。

 あまりにぎゃーぎゃーうるさいから、妥協案を出してやった。


 「なら、ニーナが小さいやつ使って、アカネが大きい方使えばいいだろ。俺は床で寝るよ」


 前世じゃ立って寝るのも珍しくなかったからな。今更だろう。雨風凌げれば十分だ。そう思っての発言だったが、二人そろって反対してきた。


 「「それはだめ(ですよ)!」」

 「何なんだ、お前らは……」


 本当にめんどくせえ………上を見上げて、ため息をつくのだった。


※               ※               ※

 結局、俺はソファーを借りて寝ることにした。二人とも散々渋っちゃいたが、どうせいつまでも終わんないだろうと一喝して納得させた。そして――――――――


 (情報収集に勤しむ、ねえ……ますますガキらしくねえな………)


 夜。俺はアカネの家を抜け出して、都市ヘと出ていた。まあ、目指すは間違いなく……


 (酒場だな)


 情報収集なら定番である。理由としてでかいのが、酒を飲むと話しやすくなることだ。秘密やらなんやらをな。適当に歩き回り、それらしい場所を探す。


 (さてと、ここか)


 中に入ってざっと見まわすと、ちょうどいい所にいい人物がいた。よし、あいつにするか。


 「悪いが、隣いいかな?」

 「え!?あ、あなた様は!?」


 声をかけたのは、昼間に俺の身分証を発行したあの門番のオッサン。一人で飲んでるのもちょうどよかった。


 「しっ。私は今一市民として来ているのだ。そんなにかしこまらなくてもいい」

 「あ、ありがとうございます。と、ところでここへは何の御用で」

 「いや、なに、少し疑問に思ったことがあってね。探偵の真似事さ。情報を集めたいのなら酒場に行けとはよく言うだろう?」

 「ははっ、それは確かに言いますな。どんなことを聞きたいので?」

 「おっと、その前に、だ。これで一杯やるといい。引き換えに情報を渡す、というのでどうかな?」


 投げて渡したのは大銅貨一枚。そこそこの金額なので舌も回るようになるだろう。宿代も浮いたことだ、これくらいはいいだろう。にしても、冗談が通じてよかった。もししくってたら、やばいところだったぜ……


 「い、いいんですか?こんなに貰っちまって」

 「構わないさ。その代わり、私の質問に答えられる限り答えてくれ」

 「承知しました」


 むこうも恭しく頷いた。


 「まず第一にだが、この都市に来ている人数だが少なくないかな?これだけの大都市ならばもっと人の出入りが多いものだと思うが」

 「鋭いですな。確かにここ最近は減る一方なのですよ」

 「と言うと?」


 聞き返すと、誰かに聞いてほしかったらしく、身振り手振りも交えて話し始めた。


 「なんでも、ゴブリン共が増えてるらしいんですわ。冒険者たちが狩ってるはいいんですが、全然減りゃしねえ。だから人の出入りが少なくなってるんです」

 「ふむ。だがそれだけなら護衛を付ければいいだけの話ではないか?」

 「ああ、それともう一つ。この近くの村で出たらしいんですわ、魔族が。騎士団が出動しに来なすってるらしいですが、それが余計に不安を駆り立ててますな」


 そう言うと、体をブルリと震わせた。だが、俺としてはその話には首を傾げざるを得なかった。


 (ん?それは俺が何とかしたやつか?ただ、別のやつの可能性もないとは言い切れんな……それも合わせて調べておくか)


 「次にだが、門の近くで悪魔憑きに会ってな。何故ここの住人はあれを避けるのだ?」

 「はい?そりゃあ……気味が悪くありませんか、あの色?」

 「なるほど。ちなみにそれは誰からそうだと教えられたのだ?」

 「お袋からですが………何故そんなことを?」


 不思議そうに聞き返してくるが、これについてはあらかじめ用意しておいた嘘で誤魔化しておく。


 「私の領は少々閉鎖的なようでな。そのようなことはなかったのだ。それでふと疑問に思っただけだ」

 「そうですか。そんなところもあるんですねえ」

 「ああ、不思議なものだ」


 (どうやらこの問題は随分と根深いもんらしいな……やっぱりすぐにどうこうできるもんでもないか)


 その後、ある程度何人かに聞き込みを続け、酒場を後にした。

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