代償
(終わったか……)
戦闘が終わったことを確認すると、目を閉じてもう一度開く。そうすると、俺は元に戻った。銃をホルスターに収め、まだ使えそうな武器を回収する。本来ならこんなことは必要ないのかもしれないが、いつまたこんなことがあるのかわからない上、前世での癖でもある。仕方がないことだろう。
(それにしても……問題なく戻れちまったな………)
《戦闘形態》。俺はあの状態のことをそう呼んでいる。今の、と言うより意識を変えていない状態のことは《通常形態》と呼んでいる。何故2つの状態があるのか?答えはそんなに難しいことではない。そうでもしないと、俺の精神が耐えられなかったのだ。俺は元来、極度の面倒臭がりの性格であった。だから、悲鳴を上げた俺の精神はこう考えたようだ。ならば、人を殺して悲しい、嫌だ、などなど。そんなことを感じることさえも面倒だと考えればいいと。その結果生まれたのが、人を殺すことさえ何も感じない怪物だった。この怪物のおかげで、正気であることができたとも言えるのだが。
武器の回収がてら、本当に魔族たちが死んでいるのか確認しておく。あの魔族が本当のことを言っていなかった可能性もある。まあ、その心配は無用だったようで、きちんと死んでいることがわかった。咄嗟の判断だったとはいえ、ピースメーカーを選んだのは間違いではなかったみたいだな。
勿論、これ以外の銃も前世ではいくつも持っていた。だが、それでもピースメーカーを創り出したのには理由がある。まず、前世で最も慣れ親しんだ銃であることだ。あの短時間でイメージするのには、相当使い込み、それこそ部品1つ1つさえも瞬時に思い出せるような飛び道具が必要だった。弓矢の方がイメージするのは楽なのだろうが、人質を取られた状態で矢を放つには時間がかかり過ぎる。
もう1つの理由は確実に弾が出る銃でなければいけなかったこと。拳銃には回転式拳銃と自動式拳銃の2つの種類がある。(単発式、複銃身式もあるのだが、ここでは省略する)ピースメーカーは回転式拳銃に分類される。回転式拳銃の特徴として挙げられるのは信頼性が高く、装弾数が少ないということだ。回転式拳銃はいわゆる回転するもの(シリンダーのこと)のある銃、自動式拳銃といえばエアガンの様な感じと表現すれば想像しやすいだろうか?念のため自動式拳銃の補足をしておくと、グリップ(銃を握る部分のこと)の所にBB弾を入れる容器(実銃では弾薬を入れる容器――弾倉と呼ばれる部分。ただ、弾倉は発砲した際に次弾を供給するものだから、この説明は厳密には正しくないのかもしれないが)がある感じと言ったら、更に分かりやすいか。
回転式拳銃の特徴としては次のようなことが挙げられる。まず、信頼性が高いということ。回転式拳銃は自動式拳銃と比べ、構造が単純で堅牢であるのだ。そのため正常な状態を保ちやすく、暴発(銃から意図せず弾丸が発射されること)が起こりにくい。また、次弾を素早く発射できることも自動式(めんどいから略す)と比べて、いい所であるだろう。問題点としては、装弾数が自動式より少ない、弾薬の再装填に時間がかかるというものである。自動式のことや回転式の発射作動のことも話しておいた方がいいのだろうが、それはまた別の機会に。……別に、俺が面倒だと感じているわけではない。断じてない。面倒だと感じているのは作者だろう。あくまで、俺ではない。何度でも言おう。面倒と感じているのは俺ではない、作者だ。
まあ、誰に言うわけでもない説明と言い訳はあったが、この2つの理由からパッと思いついたのがピースメーカーだった。若干勘に頼った判断でもあったが、結果がいいから気にしない。面倒だもの。
「さてと……」
武器を漁り終えたら、ニーナのもとへ向かう。気絶しているようだが、安心して気が抜けたのだろうか?まあ何にせよ、無事でよかった。
次に、村の人や孤児院のやつらの無事を確かめようと目を向け……それに気づいた。皆が俺を見る目に。それは俺に感謝している目ではなかった。それは………
(恐怖……か)
助けたのにどうして?そんな気持ちはない。わかっていたはずだ、こうなることは。村を滅ぼす魔物の群れを一人で倒した。それだけ聞けば、いいように聞こえるだろう。だが、それはこうも言い換えられる。一人で村を滅ぼせる、と。しかも、それをしたのはまだ子供なのだ。怖くなるのは当たり前だろう。殺すことを躊躇していたりしたなら、まだ話は別だったかもしれない。でも、俺は前世での慣れのせいで、そんなものは露ほどもしなかった。これが更に拍車をかけているのだろう。
悲しくない、そう言えば嘘になる。それでも、あそこで手を出していなかったら、もっと後悔していただろう。だから、これでよかったのだ。大切なものを守れた。それで十分じゃないか。そう自分に言い聞かせる。
(もうそろそろ、潮時かな……)
※ ※ ※
真夜中。俺は孤児院の外にいた。
あの後、魔族たちを埋めてやった。一応、情報を吐いてくれた礼もある。面倒ではあったが、それを忘れてしまっては何かを失ってしまう気がした。そして、飯を食ってから仮眠をとらせてもらった。起きたら夕方で、夕飯も食っといた。ニーナはまだ寝ているらしく、食堂には来ていなかった。飯を食ってるときにも変化を感じていた。いつもは積極的に話しかけてくる女子たちが、全くと言っていいほど話しかけてこないのだ。それだけじゃない。みんな、俺と目も合わせようともしなかった。分かってはいたが、結構傷ついた。
みんなが食堂から寝室へと戻る中、俺は1人食堂にいた。あるものを完成させるために。完成したのは皆が寝静まった頃。ちょうどいいタイミングだった。用事を終えて、今は夜の村をぶらぶらしている、というわけだ。
(11年……長いようであっという間だったな………)
いろんなことがあった。笑って、馬鹿して、友達ができて、働いて。大変なこともあったし、怒られたこともあった。でも、それでも楽しかった。前世での不幸が霞んでしまうぐらい。だから、本当はこんなことはしたくない。仕方はないとわかっていても。これが夢ならよかったのにな……
孤児院の前へと戻って来る。俺の過ごした大切な場所。家の様なものだった。ここには、思い出がいっぱい詰まっている。多くの思い出が。俺の11年が。
(もうそろそろ……行かなきゃな………)
俺はこの村へと急ぐのに使用した改造バイクを押して歩く。向かうのはこの村の出口。俺は今日、この村を出るのだ。
食堂では、先生とニーナに向けて手紙を書いていた。最も親しくしていたのはニーナだし、先生に何も言わずに出ていくのもどうかと思ったからだ。
本当はこの村を出たくなんてない。だが、村の人たちの気持ちもわかるのだ。俺は兵器の様なものだ。有事の際は必要とされるが、平和な時は必要のない――いや、寧ろ邪魔なのかもしれない。そんなもの。そんな危険極まりないものは、一緒にいるだけでも不安を与えてしまう。ニーナだってほっとして気絶したのではなく、恐怖で気絶してしまったのかもしれない。これでいいんだ。俺は異物だから。こんなことが起こらなくても、いつかはこうなる運命だったのだろう。
村の出口に着く。もう着いちゃったか。
「あれ………?」
頬を何かが流れ落ちる感触。拭ってみると、自分の涙である事に気付く。
(こんなに大切だったんだな……)
失って初めて気付くもの。これまでいくつも経験してきたが、ここでも経験するなんてな………
(もう少し……涙を拭ったら、また頑張るから………また、歩き出すから………少しぐらいは許してくれるよな…………)
しばらく、そこで涙が収まるのを待つ。もう時間だ。別れの時間だろう。
(じゃあな、みんな……先生、すみません………それと…………)
「達者でな、ニーナ………」




