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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第1章 異世界転生編
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《死神》再降臨

(何とか間に合ったか)


ニーナを魔族たちから庇う様にして立つ。そして、今の状況を確認してみる。今の俺が立っている位置は、村の人たちと魔族たちの間。その村人たち寄り。いや、村人たち寄りと言うよりは、その村人たちから少し離れたところで座り込んでいるニーナのすぐ前だ。ここから魔族たちまでの距離は50mあるかないかといったところか。

 敵の数はあの狼もどきが約50、子鬼のような醜い魔物――ゴブリンってやつか?が約30、豚の様な大柄な魔物――こいつはオークか?が約20いる。そして何より、未明程に会った魔族とは全く違う威圧感を持つ魔族が3体。いや、今戦闘ができるのは2体か。つまり、敵の数は102体程度というわけだ。想定していたより数が多いが、最悪の事態になっていないだけましだろう。まだ誰も死んでいないし、人質が取られているわけでもない。その二つの事態が起こっていたら、俺は後悔してもしきれなかっただろう。


「レオン君……?本当にレオン君なんですか?」

「そうだよ。悪かった、留守にしてて。でも、間に合ってよかったよ」

「あの、レオン君!どうするんですか!魔族がいて、これじゃあ………」

「大丈夫だって。俺に任せとけ」


 後ろで怯えているニーナに向かって、安心させるように笑いかけてやった。そして、再び正面に向き直る。

 とは言ったものの、どうしたものか?正直、普通にやれば負けると思う。この数相手にまともに戦えば、あっという間に敵に囲まれてアウトだろうし。それに、こっちには戦えないやつらが後ろにたくさんいる。敵が1体でも後ろに抜ければ、そこで死人が出ることは間違いない。


「あなたがレオンとか言う人間ですか。あなたは出来るだけ惨たらしく殺してあげましょう。その方があなたの後ろにいる人間もより絶望するでしょうし」


  魔族のうちの一体が顔を歪ませる。いい性格してるよ、あの魔族。それはさて置き、有利である点がいくつかある。

 まず、あいつらは人間自体を侮っていること。あの落ち着いたやつはあまり油断してないが、それでも俺を侮っている。ここで有利に働くのが俺の見た目が子供だということだ。やつも強そうな人間には注意を払うのだろうが、今あいつは俺に注意を払っていない。おそらく、あいつは俺のことを囮か何かとでも思っているんだろう。次に、俺の力が知られていないということ。これは大きなアドバンテージだ。なぜなら、戦い方がわからないことやどんな武器を使うか知らないことは戦場では最も避けたいことの一つ。それらを初見で見破るのはなかなか大変だ。まあ、俺ならやれと言われたらできてしまうのは否定しない。そして最も大きいのは、魔族の内の1体を戦闘不能にしていること。俺としては、あいつら魔族が一番厄介と感じていた。なのでやつが周囲を注意せず、撥ね飛ばすことができたのは僥倖だろう。まあ、単にイラついて撥ねたってのもあるが。

 後はいつ攻撃を仕掛けるか。こっちから攻撃を仕掛けないと、勝機はない。向こうは数の上では、こっちを完全に上回っている。受けに回ると、完全に相手に呑まれる。タイミングが大事だな。


「あんたら、中級魔族ってやつか?」

「ああ、そうだな。よく子供がそんなことを知っているものだ」

「まあな。アンタの部下がペラペラと喋ってくれたよ」

「フン、馬鹿を言わないでください。私たちだって、あそこからここまで来るのに1日半掛かったんですよ?ましてや、あなたの様な脆弱な人間が私たちよりも早く移動できるわけがないでしょう」


 馬鹿なのはお前だよ。心の中でそう突っ込む。確かに、ただの人間なら不可能だろう。ただの人間なら、だが。でも、お前は知らないだろ?俺が普通じゃないことに。生成魔法を使用でき、別の世界で過ごしたことがわかっていない。それに、俺が見た目通りの年齢じゃないことにも。そして何より……


(俺が地獄で育ってきたことを知らない)


 ただ前にも思った通り、普通にやれば数に蹂躙されるだけ。そして何よりも、今のぬるま湯に浸かり続けてきた俺では魔族を殺せるかどうか。僅かな可能性があるとしたら、《死神》に戻ること。それしかない。前から恐れていた事態になったようだ。もう一度あの頃に、地獄で暮らしてきた頃に戻らなければいけないなんて。


※     ※     ※

 さて、ここでどうやって下級魔族の場所から村まで辿り着いたのだ?と思う人もいるかもしれない。その答えを教えておこう。なんてことはない。勘のいい人なら思いつくのではないだろうか?最短ルートは森を突っ切る道。つまり、道のない道を行かなければならない。この世界で暮らしている人ならば、馬を呼び出そうとしただろう。だが、生成魔法は生物を創り出すことができない。ならばどうするか。簡単だ。俺は元々地球にいた。それなら……バイクが創れるはずだと。大体、前世でもよくバイクを乗り回していた。死んでしまったあの子をあちこち連れまわせたのも、バイクがあってこそだと言えよう。え、車?あれはだめだ。銃弾なんかが当たる面積が大きい。あの子を忘れなかったのも大きいが、あの子が忘れないように言ってくれたのがいい方向にはたらいた。感謝してもしきれない。だから、あの子への感謝はみんなを救うことで返す。そう、同じ過ちを繰り返さないことで。


※     ※     ※

 もう一度、ニーナの方を見る。そして、村のみんなを見る。自分の戦う理由を確認するために。目に映るのは、不安気なみんなの顔。そして、俺のことを心配してくれる友達の表情。最も大事な人の命が自分に掛かっている。


(迷う必要なんか無いか)


いつでも戻ってやろうじゃないか。冷酷無比なあの頃に。自己暗示をかけるために目を閉じた。


(思い出せ!あの頃の感覚を!)


「ん?なんだ?」

「どうかしたのですか?」

「いや心なしか、あいつの雰囲気が変わったように感じてな」

「何をおかしなことを。そんなわけないでしょう」


 魔族たちの会話が聞こえてくる。その油断がお前を殺すよ。さあ、本領発揮といこうじゃないか。髪の毛をくしゃくしゃと掻き回し……目を開いたときにはスイッチが入っていた。


 そうして、異世界にて再び《死神》は降臨した。

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