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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第6章 魔族覚醒編
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異世界に来た理由

 「そう構えなくてもいい。私は敵ではないのだから」

 「そうは言っても、自分よりは強いやつには警戒しちまう性質でね………」


 目の前に立っている男は、はっきり言って強くはなさそうだ。華奢な手足、女のように細い腰。情けなく笑う顔は毒気を抜かれるほどに整っており、現れた瞬間にその場にいる女が骨抜きにされていた。この世のものとは思えないほどに、そいつの容姿もスタイルも完璧だったのだ。

 それもそのはずだろう。シルフィに確認すれば、頷いて肯定された。やはり、か。


 「てめえ……人間じゃねえな?」

 「……やはり気付くか。恐ろしいね、君は。私が選んだだけはある」


 男は降参だ、と言うように両手を挙げた。そんな仕草の一つでさえも気になってしまうようで、ほう、という息が聞こえてきた。……あの男、殴っていいかな。


 「……どういうことだよ?」

 「そのままの意味さ。君は私が呼んだんだ。この世界を救ってもらうために」


 男は椅子を指し、座ってくれと促した。仕方がないのでそこに座ると、さも当然と言った様子でニーナとアザミが横に座った。まあ、いいけどさ。


 「君は本来、死後の世界に行くはずだったんだ。それがルールだったからね。君も心当たりはあるだろう?」

 「まあな。けど、どうして呼んだ?それがわからん」


 俺が睨みつけると、男はため息をつく。まるで現状を憂いているかのように。


 「自己紹介がまだだったね。私はテスカシュヴァラ。この世界の神なんだ」

 「……へえ、その神様がまたどうして?」


 予想の斜め上を行かれたが、表情を崩すことはなかった。言いたいことの一つや二つや三つや……いや、これ以上数えると、マジに殺したくなるのでやめよう。先を促した。


 「今、この世界には別の世界からの侵略が行われている。それが聖属性魔法と暗黒属性魔法なんだ」

 「聖属性は天使。暗黒属性は悪魔が干渉してる。そういうことか?」


 俺が説明の途中で口を挟むと、テスカシュヴァラは目を瞬かせていた。


 「それを、どこで………?」

 「あの場にいた天使っぽいやつが気になった。天使と対立するであろうものは悪魔。そこからそう推測を立てたわけだ。ハッ、単純すぎて笑えちまったな」


 あまりにありきたりな設定だし。もう少し捻りを入れてほしかったところだ。テスカシュヴァラは頷き、話を続ける。


 「1000年前、魔皇帝はそこまで力を持っていなかった。だから、悪魔に頼ったんだ。どうか、もっと力をくれと。その結果、魔皇帝は悪魔に支配されてしまった。魔族を救いたいと思っていた純粋な願いは、魔族至上主義という歪められた思想になった。さらには、暗黒属性で魔族たちを歪んだ考えへと変えた。それが魔族の残虐性の正体なんだ。抵抗できたものはごく僅かなんだよ」

 「その少ない例がトーラ、ってわけか。で、悪魔が我が物顔でこの世界を闊歩してたから、天使共が黙っていれなくなった、と?」

 「そう。天使たちは苦しむ人間たちに対し、勇者という形で選ばれし者に自分を宿らせた。それが聖属性魔法の正体。悪魔と天使は、魔族と人間の体を借りて代理戦争をしているんだ」


 そこで言葉を切り、俺を見た。そして、深々と頭を下げる。


 「このままでは、いずれ世界はどちらかに管理されてしまう。だからお願いだ。君の力を貸してほしい。最強の名に恥じない力を持つ君なら、この世界をきっと救えると私は信じている!どうか、悪魔と天使をこの世界から追い出し、平穏な世界を取り戻してくれ!」


 それは必死な様子だった。周囲の貴族や王様でさえ、その姿に胸を打たれていた。この思いも、先ほどの言葉にも嘘はない。本気でそう考えているのだ。


 (まあ、どういうかなんて決まっているよな)


 俺は深呼吸をし、答えを言った。


 「嫌だ、めんどくさい」

 「「「「「………………………………はい?」」」」」


 その場にいる全員が目を点にした。いや、でもそうだろ?俺はため息をつきながら、理由を口にする。


 「だって、前世で散々戦ってきたし。もう戦いには飽き飽きなんだよ。それが一つ。俺はそんなに強くねえし、ましてや世界丸ごと背負うとかストレスで胃に穴が開く。それが二つ。加えて、ニーナとアザミで手一杯だ。三つ。後は……お前の顔がむかつく。四つ。で、これが一番だが。めんどくせえ。まっぴらごめんだね。他のやつにでも頼れよ。ほら、おあつらえ向けに勇者がいるじゃねえか。そいつにでも頼ったらどうだ?」


 俺が肩を竦めていると、神(?)から制止の声が掛かった。そろそろウザったくなってきたな………


 「待つんだ!君が望まなくても、戦いは君を巻き込もうとする!君がイレギュラーな存在である限り!君の守ろうとするものが転生者である限り!」

 「……どういうことだよ?」


 神(?)は俺が再び座ると、胸を撫で下ろした。そして、真剣な顔つきになる。


 「君の親はいない。それは当然なんだ。君の肉体を創ったのは私なんだから」

 

 無言で先を促す。正直、いい気はしなかったがな。


 「君が前世で死んでしまったとき、たまたま私の魔法に引っ掛かった。その魔法は強く、良識がある者の魂を呼び寄せる魔法だった。君の魂はその条件に合っていたんだよ」

 「強いはともかく、良識はねえと思うがな」

 「だが、あの世界の中では君はまともだった少ない例だ。だからなんだろうね。君をこの世界に繋ぎとめるため、私は肉体を創った。当初の予定では、四属性すべてに適性を持つはずだったんだが……何者かの妨害が入ってしまった。そのため適性はあるのに、使えないという体になってしまったんだ」

 「迷惑な話だな、そりゃ」


 はあ、とため息をつく。なんで俺の人生がそんな風に決められたんだか。殴りたい気持ちでいっぱいだな。


 「けれど、幸いにもそちらはどうにかなったようだね。風属性の精霊。火属性の聖剣。水属性の龍。土属性の魔槍。すべてを従えたんだから。嬉しい誤算だったよ。ああ、話が逸れたね。このままでは魔力すら放出できない身体になってしまう、と考えた私はせめてもの対策として、《魔力放出》というスキルを付けたんだ。そのおかげで魔法が使えるようになったと言ってもいい」


 なるほど、そういうことだったのか。だから、このスキルがない魔族時には精霊魔法が使えなかったのか、と納得する。同時に、生成魔法が使えなかったのも、それが理由かと納得できた。


 「結果として、不完全な状態で。どこに転生するのかわからなかったんだが、ここでも幸いはあった。それは先代の勇者の近くへと飛ばせたことだ」

 「先代勇者?」

 「ふむ、それはルアンのことじゃな。私がまだまだ若造のときは世話になった」

 「いえいえ、大したことはしていませんよ。それは誇張のし過ぎです」


 先生は笑っているが、俺は頭を抱えたかった。道理でカイのやつが気になったはずだ。そりゃ、勇者なのだったら聞き覚えもあるだろうよ……ほら、ニーナも驚いてるし。


 「この者も天使を宿していたが、攻撃的な天使ではなかった。さらには、いい付き合いができていた。だから、下手な権力者よりもずっと信用のできるところに送れたんだよ。それが幸運だった」

 「ふーん、まあ、先生には感謝してるが……てめえにゃ全然感謝できんな」


 いまだに先生に対してだけは敬語を使ってるのも、そこら辺が理由だ。え、王様?敬意は払うが、感謝まではしてねえかな。と思う。


 「それは手厳しいな。ただ、君が潰れてしまったり、戦わなったりする可能性もあった。だから、あの世界から二人の魂を呼び出したんだ」

 「おい、まさか………」

 「そう。君の隣にいる二人は私が呼び寄せた。君のためにね」


 あの子にせよ、アザミの前世にせよ。どうして前世の知り合いがこうも都合よく出会えたのか、と疑問に思ったが、そういうことだったのか。ギリリ、と奥歯の軋むような音が鳴った。手が腰の銃へと伸びる。

 けれど、その手は二つの手によって止められた。見れば、ニーナとアザミが止めていたのだ。駄目だ、と言うように。


 「……私は今、幸せですから。だから、やめてください」

 「旦那様。私は旦那様にまた会えて嬉しかったです。不満はないですよ」

 「……………そうか」


 俺は銃から手を放し、テスカシュヴァラへと視線を戻す。


 「……世界を救うつもりはない。これまでも、これからもな」

 「だが………!」

 「ただ」


 目の前のやつが肩を震わせた。


 「もしも、こいつらに何かをしてくるなら。俺は全力で叩き潰す。それが人間であれ、魔族であれ。天使であれ、悪魔であれ、な」

 「あ、ああ……それを聞けただけでも十分だ。ありがとう」

 「それと、もう一つだけ」

 「うん?」


 俺は立ち上がり、やつへと近づいていく。やつは疑問符を浮かべていたが、何かを言う前に俺は頭を下げた。


 「やり直す機会をくれたことと、あいつらに会わせてくれたことには感謝する」

 「ああ、そういうことか。気にしないでくれ。手前勝手なことだとは理解しているのだから」

 「そうだろうな」


 頭を上げ、俺はテスカシュヴァラの左頬に渾身の右フックを放っていた。この行動には流石に貴族や騎士たちも立ち上がった。


 「……もし、次に変なことをしてみろ。次は殴りで済ますつもりはねえ。人の魂は玩具じゃねえんだよ」

 「……しっかりと記憶しておくよ………」


 やつはよろよろと立ち上がり、二人にも頭を下げていた。騒然とはしていたが、これで幕引きになったかと一息をついた。

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