二度目の転生
暖かい日差しが降り注いでいるのを感じ、俺の意識は覚醒した。肌に心地良い風が吹き抜けていく。目を開けると、木々の隙間から木漏れ日が覗いている。体を動かそうとすると、違和感を感じる。自分の体であるのに上手く動かすことができない。この感覚を俺は知っていた。
(ありえないと思っていたんだがな……)
不意に影がかかった。誰、いや何の影か確かめるために目を向ける。そこには、40代くらいで茶髪の男がいた。どこか年寄りが放つような温厚な雰囲気があり、背丈もそれほどあるようには見えない。せいぜい160㎝ちょっとくらいだろう。
「sd、zmxkctrjw!」
何を言っているかわからないが、悪人には見えない。とりあえず、すぐに死ぬということはなさそうだ。驚きの表情から考えるに、何故こんな所に?といったところだろう。
(分かってはいたが、まさか死に際に思ったことが実現するとはな……)
その男性の瞳に映る赤子の姿を見る。どうやら、俺はまた転生してしまったらしい。
※ ※ ※
俺は元々日本人で、大学生だった。一度留年したとはいえ、特にこれといってやりたいことがなかった。だから、別に焦りなどは感じていなかった。仲のいいやつらからからかわれたのは、結構ムカついたが。大学で専攻していたことは……いや、別にいいか。特に大したことでもない。誰かが知りたいことでもないだろう。そもそも、過去を詳細に思い返したところで今が変わるわけでもないのだ。どうでもいいことなど放っておくとしよう。
友達は多い方ではない。留年生だから声を掛けるのにも躊躇われるのだ。未だに大学での友達はゼロである。ん?なら仲のいいやつらなんていないんじゃないのか、って?だから最初に言っただろう。多い方ではない、と。別にいないわけではないのだ。中学の頃の……もっと正確に言うのなら、物心ついた頃からの腐れ縁のやつらならいるのだ。今でも連絡は取り合ってるくらいには仲がいい。というか、友達が多いとめんどそうだ。多くなくても、その分仲がいいやつがいれば十分だと俺は思ってる。
大学にはそろそろ慣れて、授業中に寝たり、内職したりとし始めた。まあ、真面目なやつなんて大学に入れば少ないものだ。これが普通なのだろう。良くも悪くも大学生活は日常となっていたのだ。
今思えば、あの頃は幸せだったのだろう。未来の事を考えられる余裕があったし、争いや陰謀なんてものは小説やドラマの世界のことだと考えていた。それか、どこか遠くの国でのことだと。自分には関係ないとそう無意識のうちに思っていた。そう、非日常に関わることはなかったのだ。あんなことが起きるまでは。