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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第1章 異世界転生編
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 俺は急いだ。森の中、枝から枝へと跳びつつ先へと進んでいく。目的地は魔族の確認された場所だ。

 孤児院を出たのは朝早く。魔力強化を使いながら全速力で進んでいる。現在魔力強化は全身を強化するのなら、最大で9時間持つ。更に言うのなら、今強化しているのは脚部と視力のみ。半日くらいなら余裕で持つ。今のこのペースで進めば、今日の夜には現地に到着できるだろう。ただ、それだと魔力切れと激しい疲労で満足に戦うことすらできない。そのため、途中で休憩と睡眠を挟むつもりだ。この事も含めて考えると、目的地に着くのは明日の朝と言ったところか。とにかく、一刻も早く魔族を倒さなければ。


※     ※     ※

 移動を続け、時刻は午後6時程度。俺はもう目的地近くに来ていた。昼間は最短ルートをかなりの速度で駆け抜けていたのだから、当たり前ではある。その代わり、魔力はほとんど底をついた状態となってしまった。今日はここで夕食を食べ、寝ることにした。夕食は前世での携帯食料だ。味も食感もすこぶる悪いが、明日に備えるためにも食わなければいけない。今の状態で魔族と戦っても勝てるわけがない。普段の俺でも勝てるのかはわからないが。だがもうここまで来たのだから、腹をくくるしかないだろう。

 先生には恩義を感じている。死んでしまったら困る。孤児院にいるやつらだって、死んでしまったらきっと悲しいだろう。でも……


(まさかここまで、大事に思ってるとはな)


 何よりもニーナを、俺の初めての友達を死なせるわけにはいかない。今の俺にとっては、何よりもニーナが大切なんだろう。そのためにも、明日は負けるわけにはいかない。そんな思いを胸に眠りについた。


※     ※     ※

 どうやらちょうどいい時間になったようだ。魔力は全快したようなので、行動を開始する。時間帯は朝ではなく、夜が明けるか明けないかといった微妙な時間帯だ。この時間帯は人が最も寝ている時間であるため、奇襲をかけるにはぴったりなのだ。どこでそんなこと知ったのかって?聞かないでくれ……

 目的地に到着すると、複数の気配がする。見てみると、異形の者たちが集まり寝ているようだ。数は約20。多いのは黒い狼の様な獣か?だが、俺が知っている狼は翼も角も生えていない。そして、中央には人型で角としっぽの生えた痩せぎすの怪物が存在した。


(あれが魔族か?そんなに強そうに見えないな……)


 だが、油断していると痛い目を見るだろう。時間をかけずに始末しよう。そう考え、殺すための武器を創り出す。


「生成、M-9コンバットナイフ」


 創り出したのは前世でよく使用していた軍用ナイフ。前世では廃れつつあったが、俺は気に入っていた。まあ、そもそも俺はあんまり最新型の装備を使っていなかった。レールガンやレーザーガンも、あの時代には実は存在した。ただ、高いうえに使い勝手が悪かったため、俺はこういった普通のナイフや拳銃などを好んで使っていた。だから、ほとんどの最新型装備は創り出せなかったのだが。師匠もあの世界ではこういったアンティークな(?)武器を好んでいた。それもあの人の特徴ではあっただろう。


 音を殺し、魔獣たちに近づいていく。一歩一歩慎重に。ばれたら、まず命はないだろう。少しずつ接近していくと、1匹の近くまで来た。そして、ナイフを心臓に突き立てる!心臓があるのか分からなかったが、息絶えたところを見るとやはりあるのだろう。完全に息絶えたことを確認した後、次の1匹へと突き立てていく。

 10分もしない内に、俺と魔族を除き息をしているものはいなくなった。俺は疑問に思ったことがあったため、ピアノ線で魔族を縛り上げた。そして、首の頸動脈があるであろう所にナイフを当て、その魔族を起こす。


「ん………?なんだ?」

「黙って、俺の質問に答えろ」


 そこで完全に意識が覚醒したようだ。目を見開き、唾を飛ばす勢いでこちらに怒鳴りつけてくる。


「貴様、何者だ!私に何をした!」

「いいから、俺の質問にのみ答えろ。魔族はみんなお前みたいに弱いのか?」


 危険感知能力から見ても、筋力から見てもやはりこいつは強いとは思えない。今後魔族と遭遇するかもしれないため、ここら辺で情報収集しておいた方がいいだろう。そう思ったのだが、この魔族はいまいち危機感がないようだ。


「この、貴様こんな事をしてただで済むと思っているのか!」

「早くしろ」


 そう言い、その魔族の爪を剥がす。拷問術もある程度なら前世で学んだ。


「グアアアアア、わかった話す、だからやめろぉぉぉぉ!」


 そこで、魔族は一度間を置く。痛みに耐えているのかもしれない。やっぱり弱いな。


「私は下級魔族だ。魔族の中でも弱い部類だろうさ」


 魔族は吐き捨てるようにそう言う。引っ掛かったのは下級、の部分。ということは、中級や上級もいるのだろう。


(やはりか、道理で弱いはずだ)


「次の質問だ。お前に他の仲間はいないのか?」


 村を滅ぼすには数が少ないと思う。どこかに仲間が隠れているのかと思ったのだが……その言葉を聞いて、下級魔族は笑い出す。


「フッ、ハハハハハ!そういうことか!貴様は知らないのか!私はここに足止めをするためにいるのだよ!別の中級魔族がへカルトンへと向かっているさ!ついでに言えば、その近隣の村は見せしめに皆殺しにされるだろう!」

「なん……だと………」


(じゃあ、今魔族の本隊が向かっているのは……)


 俺たちの村、なのか………?俺がしたことは、逆にニーナたちを危険にさらすことだったのか?

 足元がガラガラと崩れていく感覚。この魔族から知った情報は、俺にとって最悪とも言えるものだった。


「答えろ!その魔族たちはいつお前たちと別れた!?」

「ククク、昨日の昼だ。もう間に合わないだろうさ。まあ、どのみちお前には関け」


 その瞬間、こいつの心臓にナイフを突き立てていた。だが、分かっている。そんなことをしても意味がないことは。拳を地面に叩きつける。

 俺は正義のヒーローになった気分でいたのだ。俺ならどうにかできる。俺ならいつもの日常に戻すことができる、と。自分自身の行為に酔いしれ、その結果がこの様だ。


(どうすればいい?どうすれば間に合う?どうすれば……)


 ニーナを助けられる?タイムリミットは近づいている。このままでは………

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