意外な助っ人
金属のぶつかる音が鳴り響きます。師匠さんもユーリさんには武器を持たざるを得ないらしく、今はナイフを出して応戦しています。
見ているだけなら、剣の扱いと攻撃できる範囲から、ユーリさんが有利に見えます。それに、魔法も織り交ぜて戦っているので、多彩な攻撃をしているんです。この姿を見ると、ああ、やっぱり騎士団長さんだな、と実感させられるんですが……師匠さんはまだ余裕があるように思えるんです。
これはレオン君の戦いをいつも見ているからでしょうか?レオン君も大体余裕を持ちつつ、戦っているんですよね。漠然とした不安は、ひょっとしたらユーリさんが負けてしまうのではないか、というものなんだと思います。
一度二人が距離を取り、お互いの武器を構え直します。
「……このぬるま湯のような環境で、よくここまで実力を持ったものだ。それは素直に感心しよう」
「……言葉だけは受け取っておこう」
「だが、いかんせん手ぬるい。そんなことでは俺には勝てんだろうな」
ユーリさんがギリリと歯を軋ませます。それは師匠さんに勝てないとわかったからでしょうか?それとも、決定打となるものがないからでしょうか?いずれにせよ、このままの状況がよくないことだけはわかります。
「……いったい、お前は何故そこまでの力を手にしている?」
「そうだな……周囲の人間がすぐに裏切るようなところで、寝る時間も満足に取れず、戦いに明け暮れればこうなれるだろうな。それに耐えられる人間がどれほどいるか、というのは置いておくとしたらだが」
「なっ……!そんな環境で生きてきたというのか!?」
「そうだ。そして、それに対応できた数少ない人間が、俺と《死神》だ。だから俺はあいつを欲している」
私は言葉を失っていました。そんな過酷な状況でレオン君は生きてきたなんて……何も教えてくれない彼を少し恨めしく思い、それ以上に心が痛くなりました。
「……そろそろ終わらせるか。これ以上、無駄な時間は取りたくはない」
「クッ………!」
師匠さんからの圧力が一段と強くなります。その圧力にユーリさんは、一歩足を引いてしまっていました。それも無理はないのかもしれません。離れたところにいる私でも、尻餅をついてしまっているぐらいです。もっと近くにいるユーリさんは、きっとさらに怖いと思うんです。逃げ出さないだけ、すごいんだと思います。
でも、どれだけ言い飾っても、そんなことは綺麗事でしかなくて。今、危機的状況に陥っているということは変わりません。
「両者とも止まりなさい?」
新しい声がその場に響きます。その声は私の知っているもので。その声のする方を向くと、私の予想通りの人がいました。
「ソフィア様………!?」
「御機嫌よう、ニーナさん?助けに参りましたわ」
私の方へとお姫様が近づいてきます。その目は獰猛な獣のようで、私のことをまだ諦めていなかったのか、と少し感嘆してしまいました。
「姫殿下……!?何故こちらに!?」
「ニーナさんたちが行方不明になっていると聞いたもので。助けに来たのですよ。ユーリ、よく守りました。それだけは素直に褒めてあげます」
お姫様が手を叩くと、どこからかたくさんの女の人たちが現れました。軽装の人がいれば、きちんとした鎧をつけている人もいます。剣や槍で武装した人もいれば、杖や本を持っている人もいます。その数はさっきの騎士団よりも多いんじゃないでしょうか。
「戦い続けで疲れているでしょう?そろそろ楽になったらどうですか?」
「……お前はこの国の姫なのか?」
「ええ。ですから、権力も段違いですよ。馬鹿なことをしなければ、生きていけたのに……まあ、ニーナさんともっと仲良くなるための踏み台程度にはなるでしょう。そのことに感謝して、すぐに殺してあげます。皆さん、やってあげて。止めを刺した子にはご褒美を上げますわ」
お姫様の言葉に勢いを増した女の人たちが、師匠さんに攻撃を仕掛けていきます。剣や槍を持った人は近づいて。魔法を使う人はその場で。一斉に攻撃をしていきます。
それを見届けたお姫様は、私の方を向いて微笑みかけます。
「さあ、ニーナさん。私たちもお互いのことをゆっくり話し合いましょうか。私たちはもっと仲良くなれると思いますしね」
「い、いえ……ほら、アカネさんとエレナさんもいますし!」
「あら?勿論、その二人も呼んでもらって構いませんわよ?増えるのはむしろ嬉しいことですし……それに、時間もあることですし」
怪しげな笑みを浮かべながら、私に近づいて来るお姫様。私は後ずさったものの、壁にぶつかってしまい、逃げられなくなってしまいました。
「ふふ、あの男のことなんて、すぐに忘れさせて差し上げます………」
私に手を伸ばすお姫様。もう駄目だ!と思って、目を閉じました。
「そんな時間はないと思うがな」
底冷えのするような声。私はパッと目を開け、お姫様もすぐに振り返りました。
「あ、あなた……何故!?」
「何故と言われてもな。あそこまで錬度の低いやつらに負けるわけもないだろう?まだ、騎士団長とやらの方がマシだったな」
私が師匠さんの後ろを見れば、あれほどいた女の人たちがみんな倒れています。辛うじて立っているのは、ユーリさんだけでした。でも………
「ひ、ひどい………」
ユーリさんの鎧はボロボロで、あちこちが傷だらけでした。なんとか立ててはいますが、それも剣を杖代わりにしてやっと、といった様子です。
けれど、師匠さんは気にした様子もありません。まったくの無表情です。
「当たり前だろう。ここに戦いに来たんだからな。ああなることも覚悟していただろうに」
「でも!」
「……綺麗事を言えば、何かが変わるとでも?お前は鬱陶しいな」
冷たい目で睨まれ、私は声を出せなくなってしまいます。しばらく睨んだ後、はあ、とため息をつきました。
「まあいい。これでお前たちを守るやつはどこにもいない。人質になってもらうぞ。4人合わせてな」
「4人……って、まさか!」
「ああ、そちらの姫にも人質になってもらう。取引が成立するかもしれんからな。役に立たなければ、別の使い方をすればいい」
師匠さんと目が合った瞬間、お姫様は肩を揺らしました。昔のことを思い出してしまったのかもしれません。
「あなたは……あなたの目的は何なんですか!どうしてこんなことを………!」
「……そうだな。まあ、教えてやってもいいだろう」
師匠さんは何かを取り出しながら、自分のことを語り出しました。どうして貴族を殺しているのか。どうして戦い続けるのかを。




