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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第5章 王国革命編
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生と死の狭間

 「……また、あの夢か」


 目を開ければ、眠る前と変わらない天井があった。一つ違うところがあるとすれば、辺りはすっかり暗くなってしまったということぐらいだ。

 上半身だけ起こし、部屋を見回す。俺の周りに集まっていたやつらは解散し、この部屋には俺一人となっていることがわかる。そのことに笑い、再びベッドへと倒れ込んだ。


 (そりゃそうだよな……こんだけ情けねえ姿見せれば、幻滅されても当然さ………)


 声を押し殺したかのようにくつくつと笑い……すぐにやめた。何も面白くなどなかったからだ。

 仰向けのまま、腕を目を覆った。寝たとしても、あの夢をまた見ることはわかっている。それなら、寝るだけ無駄なのだ。


 (これから、どうしたもんかな………)


 死ぬことは怖くない。慣れたというのもおかしな話だが、理解できると同時に恐れるものではなくなった。ならば、何が怖いのか。そんなものは決まっていた。


 (あの子に……ニーナに、嫌われるのが怖いんだ………)


 師匠と戦えば、まず間違いなく魔皇帝を越えるぐらいの激しい戦いとなる。そうなれば、必ず未来は決まってしまう。……俺は、魔族へと変わってしまうのだ。そのとき、あの子はどう感じるだろうか?


 何故騙していたのか、俺を詰るだろうか。


 どうして黙っていたのか、ただひたすらに泣くだろうか。


 それとも、それでも俺と共にあろうとするだろうか。


 もし。もしも、また一人で生きていくことになれば、俺の心は耐えてくれるだろうか。今もこんなに痛いのに。彼女の傍にいれなくなるだけで、こんなにも傷ついているのに。

 俺には何が正しいのか、知ることはできなかった………


※               ※               ※

 無数の腕が追ってくる。俺はそれから逃げ続ける。心のどこかでは、これが夢だとはわかっているのに、逃げることをやめることはできない。まるで、永遠に逃げ続けろと言われているように。


 「あらあら、《死神》さん?頑張って逃げないと、追いつかれてしまうわよ?」

 「……上機嫌だな、アリス」


 逃げる俺に、付き纏うかのようにアリスがくっついて来る。狂ったかのようなこの笑みは、もう慣れてしまった。いつも俺の背中に張り付いているかのようなアリス。最初は恐ろしく思ったものだが、今となってはそれが当然と思えるようになっていた。慣れというのは怖いな、と冷静な部分がそう考える。


 「ええ、嬉しいわ。あなたがとても滑稽だもの。そんなあなたを観察することが、唯一の楽しみなのよ」

 「……そう、か………」


 終わらない逃走。消えない罪。これが俺に課せられた罰なのかもしれない。お前はずっとその闇を抱えて生きていけ、という。

 しばらくすると、いつものように段々と意識が覚醒に近づいていく。あまりの悪夢に、体が起きようとしているのだろう。ここ最近はこれがほとんどだ。


 「あら、こんな時間。またね、《死神》さん?私たちからは逃げられないわよ?」

 「……わかって、いるさ………」


 どれだけ善行を積み上げようと、一度してしまったことが消えることはない。だから俺は苦しみ、もがき、無様な姿を見せている。


 (いったい、俺は………)


 どうして生きているのだろう。最近はそう思うようになった。勿論、ニーナを守るため。そう決めていたはずなのに。アリスに、あの世界の人間に、俺が殺してきたやつらに。会うたび、思ってしまうのだ。


 ――――俺は本当にここにいていいのか、と。


 ふと、情景が変わった。真っ暗で何も見えないところから、ぼんやりと明かりがついている河原へと。俺は目の前に流れる大きな川に驚きながら、砂利の上に立っていた。


 「……こんばんは。隣、いいですか?」

 「え、あ、ああ…………!?」


 隣に座った人物を見て、俺は絶句してしまう。だって、その人物は………!


 「お久しぶりですね、お兄ちゃん。それとも、私は覚えていませんか?」

 「……忘れられる、わけないさ………」


 あのときと変わらない幼さ。あのときと変わらない儚さ。あのときと変わらない可愛らしさ。

 俺を兄と呼んだ、あの子がそこにはいた。


 「やっぱり、覚えていてくれたんですね」

 「ああ……君は、どうしてここに?君も………」


 俺に復讐しに来たのか?その先を言おうとしたら、口を塞がれていた。小さな手の平で。


 「その先は言っちゃ駄目ですよ。ここは生と死の狭間にある場所ですから。言霊もとても強くなるそうです。行ってしまったが最後、実現してしまうかもしれないんですよ?」


 俺が口を閉じたのを確認すると、手を放した。もう一度よく見れば、ほんの少しだけ変わったところがある。


 「背が、伸びたんだな………」

 「あれ、そうですか?自分じゃよくわからないんですけど……それにしても、よく気付けましたね」

 「まあ、な………」


 それっきり、二人で黙り込んでしまう。俺としては非常に居心地が悪いので、さっさと退散したいのだが。そういうわけにもいかないだろう。……これは俺の問題なのだから。


 「……君はどうして俺のところまで来たんだ?憎かったり、怒っていたりするからか?」

 

 少女は驚いたような顔になったが、優しい笑みで首を振った。


 「いいえ。そんなことは思っていませんよ?」

 「なら……何故?」

 「ただ、会いに来ただけです。本当にそれだけ」


 今度は俺が言葉を失う番だった。俺に恨み辛みがないはずがないのに………


 「私はあなたを責めません。仕方がなかったのも知っていますから。でも、応援もできません。私ができるのは、ただ会うことだけ。その先の道は、あなたが決めなくちゃいけないんです」

 「それは………」


 言われなくてもわかっていた。けれど、知らず知らずのうちに、誰かに求めてしまっていたのだろうか。俺が行くべき道はどこなんだろう、と。それを見透かされたんだろうか。

 

 「あなたが生きる道です。他の人の意見は聞いてもいい。でも、それに流されないで。あなたの幸せは、あなたにしか決められないんですから」

 「俺、は………」


 再び少女の方を見ようとして……そこで目が覚めた。起き上がれば、寝る前と変わらない部屋だった。誰もいないことも含めて、寝る前と何も変わっていない。


 「失礼しますわ。具合はどうですか?」


 少女の言葉を頭で反復させていると、エリーゼが部屋の中へと入って来た。


 「……まあまあ、かな。どうした?」

 「いえ……ニーナさんの姿が見えないもので。どうしたのかと思ったのです」

 「そうなのか」


 俺は念話でシルフィに頼み、ニーナを探してもらうように言った。だが、様子は芳しくないようだ。いつもならばすぐに答えが帰って来るのに、返事がなかなか来ない。


 『レオン!大変!』

 『どうした?』

 『ニーナちゃん、グリフォンに乗ってどこかに行っちゃった、って!もう城の中にいないらしいよ!』

 『…………え?』


 パキッ、と。何かが割れたかのような、そんな音が聞こえた気がした。

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