魔族接近
「レオン君、こっち来て~!」
「ずるいわよ!あたしの所に来て~!」
「わかったから、少しは落ち着けよ……」
女子たちは今日も順調にませているようだ。やめてくれないか?ニーナが何か怒り始めるから!
「お、もうこんな時間だ。仕事行けよ、お前ら」
「「「ええぇぇぇぇ!」」」
「時間なんだから仕方ないだろ?俺もこれから仕事あるんだし。雇先を困らせるんじゃねーよ」
「ううぅ、はーい」
「残念だよぅ」
ほんと、ませ過ぎなんじゃないか?それとも、女ってこういうのが普通なの?呆れながら、立ち上がって出口に向かう女子を見送る。
「じゃあ、また後でね~!」
「はいはい、わかったから早く行け」
そう言って、手をシッシッと追い出すように振りながら女子たちを見送る。そして、教室内には俺とニーナの2人になった。うむ、今日も不機嫌だ。
「レオン君は全然、ほかの女の子たちにどう対応するか決めませんね?そんなに女の子にちやほやされたいんですか?」
「棘があんな、最近のニーナは……そうじゃなくて、どう対応すりゃいいのか分からないだけだって」
「本当にそうですか?嘘をついてるんじゃないでしょうね?」
「なんでそんなに突っかかってくるんだか……俺は悲しいよ、うぅ………」
と言って、泣く真似をする。というより嘘泣きをする。俺は演技が得意な方なので、当然……
「え?レオン君?言い過ぎたかもしれませんね……ごめんなさい………」
「いや、別にいいけどさ」
「レオン君!また騙しましたね!今日という今日こそは許しませんよ!」
このやり取りもいつも通りだ。うん、今日もニーナをからかうのは楽しい。胸の辺りをポカポカと叩いてくるニーナをいなしながら、いつも通りの様子に苦笑していた。
「俺らも早く行こうぜ。あんまりふざけてると遅刻するぞ?」
「いつもふざけているのはレオン君ですー!」
走って追いかけてくるので、適当に逃げた。こういう日常も悪くないと思えるくらいには、今の俺は安らぎを得ていた。
※ ※ ※
あれから3年の月日が流れ、俺は11歳となった。相も変わらず、女子には人気だ。孤児院内限定だが。しかも、その中にはニーナは含まれていない。それどころか、ニーナは俺のこと嫌ってるんじゃないか?この頃怒ってばっかだし。魔法の調子も発現以降、順調だ。だから一応、前世でいつも身に着けていた改造ベルトを創っておいた。このベルトは一見ただのベルトに見えるが、ベルト内にはピアノ線が仕込んである。暗殺にも使っていたし、下手なワイヤーよりも強度がある。便利だから、いつも持ち歩いてたんだよな。ただ、武器は未だに創っていない。それをするのは怖いからだ。《死神》と呼ばれていたあの頃に戻ってしまうのではないか?そんな気がしていた。ここは紛争地帯でなければ、陰謀が渦巻いてるわけでもない。無理に創ることはないだろう。そう判断したうえでの結果だった。
他には、本格的に働き始めたということか?3年前は病院の手伝いだけであった。だが、今は店番や荷物の積み込みなどもやってる。むしろ、荷物の積み込みが一番多い。今の俺は下手な大人よりも力がある……どころではない。俺はこの村一番の力自慢と腕相撲をしても余裕で勝てる。まあ人間が出せる力を超えているため、当たり前っちゃ当たり前なのだが。だから、病院の仕事が比較的簡単に済むときは、力仕事を手伝わさせられるというわけだ。金は結構貰えるからいいけどさ。
この時は想像だにしていなかった。俺があの頃に戻ることを。いや、戻らざるを得なかったか。再び《死神》となるなんて、予想すらできなかっただろう。あんなことが起こらなければだが。
※ ※ ※
「そういえば、レオンちゃん知ってるかい?魔族のこと?」
「魔族……ですか?光の勇者が倒した魔王の手下の?」
俺は今、隣の村に行く行商人の荷物の積み込みを手伝っている。病院は今先生とニーナだけで回せるので、そっちの心配はない。忙しくなったら、呼びに来るだろうけど。そんな中、手伝っている最中に行商人の人からそういった話が出た。手を動かしながら、行商人の人と話す。
「そうそう、その魔族。実は最近この近くで確認されているみたいなんだよ」
「その話は間違っても、俺みたいな子供にする話じゃないと思うんですけど」
「いや、ごめんごめん。レオンちゃんって、子供なのに下手をすると大人よりもしっかりしてるからね。ついこういう話をしちゃうんだよ」
そりゃ、中身90過ぎだし。この歳で子供みたいにはしゃいでるやつは、頭があれなやつくらいだろうよ。まあ、そんなことをわかれという方が酷ではあるのだろうが。
「でも、それ大丈夫なんですか?正直に言うと、この村に来たら滅びますよ?」
「まあ、確認されたらしいのはこの村の3つ先くらいの村だからねぇ……すぐにどうこうって話じゃないと思うよ?それに今、討伐隊がこの村の方面に向かってる最中みたいだし」
「え?なん………あ、そうか」
この村からそう遠くないところには、ディルロス王国有数の貿易都市へカルトンがある。そこに被害が出る前に辺境の村で食い止めようという算段だろう。こういう言い方はどうかとは思うが、辺境の村ならいくら被害が大きくてもよい。おそらく村で実際に戦い、どれほどの被害が出たかによって、どの程度戦力を投与するかを決めるのだろう。端的に言えば、小を捨てて大に就くといったところか。この人はそこまで予想はしていないだろうけど。俺が気付いたことにむこうも気付いたらしい。
「相変わらず理解力高いねぇ、レオンちゃんは。それに隣村やこの村の近辺の村が戦える人を集めて、その魔族を追い払おうと考えているみたいだよ」
そんな動物じゃないんだから、大人しく追い払われるわきゃない。何もしないよか少しはましだろうが。にこやかにそう言っている行商人の人を横目に、暢気なもんだと思っていた。
この時の俺は暢気なものだった。魔族の話はあったが、何とかなると思っていた。この魔族の接近が後の俺の人生に大きな変化をもたらすとは露知らず。ただただ平和に、楽観的に生きていた。