生成魔法
「詠唱というのは魔法を使う上で必要なものなんです。消費する魔力を減らしたり、イメージをしやすくしたり。より強力な事象を引き起こす魔法を使えたりするものなんですよ」
「へぇー」
胸を張りながら、得意げに説明してくる。俺は返事をしながら、頭では別のことを考える。
(もしかして失敗した理由は……それなら、詠唱を習得するのは必須になるな)
「詠唱はどうやるんだ?決まっているものなのか?」
「いえ、確か人それぞれだったと思います。その人がイメージしやすい言葉が詠唱になるはずなんですけど……私も詳しいことはわからないんですよね」
「そっか」
じゃあ、まずは俺の魔法の名前を決めるか。そもそも名前がなければ、どういう詠唱をすればいいか想像すらできないだろうし。
(無から有を創り出す魔法……生成魔法ってところか?)
適当極まりないが、長々と考えるのもめんどくさい。さっさと決めて、さっさと使ってみたいのだ。じゃあ名前も決まったし、さっそく試してみよう。
「ニーナ、もし成功したらこのことは秘密にしていてくれ」
「え?どういうことですか?」
「いいから、約束してくれ」
「は、はい、いいですけど……」
「じゃあ、始めるぞ?」
昨日思い描き、現れなかったあるものを強くイメージする。そして、自分だけの詠唱をする。
「生成、ガンホルスター!」
すると、手の中に現れたのはやはりガンホルスターだった。俺がイメージしていたものと全く同じだ。
「え?え?これ、何なんですか?それに、どこから来たんですか?」
ニーナが混乱してるよ。俺が逆だったら、俺も困惑するだろうけど。
「成功したみたいだな。さてと、次は……」
この魔法がどこまでできるのか確認しなければ!そう思って続けようとしたら、肩を掴まれた。
「レオン君?これ、どういうことですか?」
あ、ニーナが怒ってる。
※ ※ ※
「つまり、レオン君の魔法は何もない所から新しいものを創れる魔法なんですね?」
「まあ、端的に言うとそうだな」
「すごい魔法じゃないですか!何でも創れるんですよね?」
「何でもじゃないさ。この魔法は万能じゃないんだ」
今は夕食時。帰りが遅かった俺たちは2人で飯を食ってる。ちょうどいいので、ニーナに俺の魔法の正体を話してたところである。俺の魔法の正体と特徴はこんなところだ。
生成魔法はその名の通り、無から有を創り出す魔法だ。俺がイメージできるものならという条件付きではあるが、何でも創り出せる。その条件は次の通りだ。
1つはこの魔法では命を持ったものはその対象外であるということ。何度か地球の生き物を創ろうとしたが……すべて失敗した。それほど俺の魔法は万能ではないし、それでは神にも等しい力を持つことになる。そんな力を持っても俺は持て余してしまうだろう。
2つ目には当たり前ではあるが、俺の知らないものは創れないということだ。龍などの空想上の生物は勿論のこと、前世であまり使用してこなかった武器は思い浮かべることができなかった。まあ、イメージができやしないのだから当たり前か。
加えて何かを創るにしても、複雑なもの――――例えば銃や車、チャリなどだ――――はパーツを一つ残らずイメージしきらなければ発動しないということだ。また、複雑なものを創るには詠唱が必須となる。
最後に自身のキャパシティーを超えるようなものは創れない。例えば伝説の武器など効果が付与されたものを創ろうとすれば魔力をごっそりと奪われ、死ぬことになるだろう。魔力が急激に減少すると死に至る可能性があるためだ。
まあ、これは正直予想の範囲内ではあった。前にも思った通り、俺は神ではない。ここらへんができてしまったら、それこそ俺は全能の存在となる。それではこの世界のバランスも崩れてしまう。と判断したんだろう。具体的には神だとか世界だとかが。それでも十分凄いが。
「でも、ほんとに凄い魔法だと思いますよ?」
「まあな。それだけに厄介なこともある」
少し考えてみれば当たり前のことだ。
まず、何も知らないやつは俺が生命すら想像できると妄信するだろう。そうなれば、レオン教とかができて神と敬われるだろう。大出世ではあるが、俺はそういうのはあまり好きではない。ていうか、ぶっちゃけめんどくさい。絶対にごめんだ。ただ、これはまだ比較的にいい方だろう。
他に考え付くものとしては、監禁されて永遠の命やら無限の金やら創らされるといった可能性もある。少なくとも、前世でなら普通にやるやつがいるだろう。
他にも暗殺される、誘拐される、挙句の果てには貴族どもが近寄ってくるエトセトラエトセトラ。公にされれば面倒事しか起こらないであろうことは容易に想像できる。ニーナは8歳だからそんな事は思いつかないであろうが。
「取りあえず、みんなには秘密にしていてくれ。先生にも。先生には時機を見て、俺から話すからさ」
「誰にも話していないんですか?先生にも?」
「そ。いわゆる2人だけの秘密ってやつだ」
「そ、そうですか。わかりました!誰にも話しません!」
また、機嫌が良くなった。ほんと、女の子ってよくわからない。
そうやって魔法の習得に成功し、変化のあった日常。ずっとこんな日が続けばいいと思っていた。だが、神ってやつがいるのなら、そいつはとことん俺のことが嫌いらしい。その話をするには、もう少し時間を進める必要があるだろう。時は俺が11歳になるまで進む………




