パーティー
(それにしても、パーティーねえ………)
時が経つのは早いもので、あの侯爵のクーデター未遂を暴露してから一週間。あの王様主催のパーティーが今日行われているのだ。行われている、という言葉で俺は参加していないのか、というやつもいるかもしれない。一応、参加はしている。ただ、輪の中にはいないだけで。
(ま、正直めんどくせえしな。ここでいいや)
俺がいるのは、会場の隅っこ。壁に背中を預けながら、飲み物をちびちび飲んでいる。勿論、ニーナを見守ってはいるが、今はシルフィがついている。何か問題があれば、言ってくるだろう。
そういえば、あの侯爵は爵位を取り上げられ、処刑されるらしい。無難な判断だろう。ここで妥協すれば、貴族たちが調子に乗るだろうしな。あまりやり過ぎると今度は反感を持たれるだろうから、難しいところだろうが。そういうことで、あの女の子たちも解放されるだろう。そのことで少し安堵しているところもある。
ニーナの方へと視線を戻すと、大量の貴族たちに囲まれ困っている様子だった。けれど、エレナに関わる以上、これは避けられない事態だ。こればっかりは慣れてもらわないとな。まあ、シルフィがいるから、致命的なことにはならないと思うが。
(あー、だるい………)
パーティーというものはめんどくさい。人がやたらと集まってくるし、上っ面だけの笑顔にどろどろの黒い感情が見える。前世でのことがあるからこそ、余計に嫌悪感を持ってしまうのだ。こんなところにいつまでもいたいとは思えない。ニーナのことがなければ、すぐさま帰っている。さっきまでは俺のところへもやって来て、張り付けたような笑顔で話をしに来ていた。が、俺に利用価値がないとわかるや、手のひらを返したように散っていった。だから、今は一人なのだ。
アカネとリースはそもそも参加していないし、エレナも群がってくる貴族の対応に忙しそうだ。しばらくは一人でいることになるだろう。そういえば、シルフィが来てからは一人になる時間がなかった。結構貴重だな、と思いながら、少し寂しさを覚えている自分に驚く。気が付かないうちに、シルフィの存在は大きくなっていたのかもしれない。そのことに苦笑しながら、料理をつまむ。
「失礼?少しいいかな?」
「あん?」
急に声を掛けられ、変な声が出た。声のした方へと目を向ければ、まさにイケメンといった容姿の男がいた。少し長めの金髪を後ろでしばり、エメラルド色の瞳は透き通り、女を虜にするだろう。仕立てられた衣装も容姿を引き立たせ、微笑んでいる姿も絵になるだろう。実際に、後ろを見れば貴族の女どもが顔を赤らめている。気があるのだろう。
「ああ、楽にしてもらって構わないよ。口調も素のままでいい」
「……そう言って、不敬罪にでもするおつもりですか?クリストファ殿下?」
目の前に立っている人物が誰であるかわからないほど、俺の情報網も甘くはない。俺の言葉に苦笑した王子は、首を横に振った。
「いや、そんなことはしないさ。もし疑っているようなら、証人でも呼ぼうか?君の信じられる者を呼んでくるといい。それまでは待つさ」
その言葉は俺に自分を信じさせるためのものだろう。要は信じられないなら、俺の味方を連れてきてもいいと言っているのだ。それに俺に選ばせるということは、自分が連れてきた者だと疑われるのではないかと考えてもいるのだろう。王子の態度に俺は少し興味を持った。
「随分と気前がいいな。何のつもりだ?」
「そんなに警戒しなくてもいいだろう?ただ、雑談をしに来ただけさ」
「そうか?実は妹のことで、便宜を図ってもらいたいとかじゃねえのか?」
疑いの目を向けるが、これにも否定を示す。
「違うよ。聞きに来たのは、あの子のことさ」
「……どういうことだ?」
「君はこの状況をどう思っているかな?この国のことでもいい」
本当に世間話をするように、語り掛けてきた。俺の隣へとやって来て、同じように背中を壁へと預けた。
「さあな。国内の不安をあいつという英雄像を立てることで、仮初めの安心を抱かせているように思えるが」
「痛いところを突くな、君も。けれど、その通りだよ」
王子の顔が一転して、真剣なものへと変わる。
「今のこの国は腐敗しきっている。このパーティーとて、英雄を立てることで国民の不満を散らそうとしてるにすぎない。それに魔族や魔物に襲われ、命を落とす人も珍しくはない」
「何が言いたいんだ、結局?」
「私はこの国を変えたいと思っているんだよ。そのためにも、味方が必要なのさ」
王子の言葉の意味がわからないということはなかった。ニーナからは視線を逸らさず、口を開く。
「わからないな。なんで俺を選ぶ?あいつの方が数段良さそうなものだが」
「……彼女よりも、君の方が力になってくれそうだと思ったからだよ」
「だから、その理由を言えって言ってるんだが」
「強いて言うなら勘かな。昔からこれには自信があるんだよ」
そうかい、と口の中で呟き、ため息をつく。確かに、外れてはいないだろう。貴族社会で通用するのは、ニーナの綺麗さ、純粋さでない。俺のような黒さ、汚さだ。さっきのやり取りで、貴族どもとは十分渡り合えることがわかっている。だから、普通なら了承するべきなのだろう。
「……断る」
「おや、理由を聞いても?」
「面倒だ。俺の手はもう、あいつ一人で手一杯なんだよ。それ以外のことにかまけてる余裕なんざないね」
バッサリと切り捨てておいた。ここでまた粘られても面倒だ。無理なものは無理だと最初にはっきりさせておくのも優しさだろう。今更俺が優しさなんてものを言うのも、おかしな話ではあるが。
「そうか。すまなかった、忘れてくれ」
「ああ」
王子はそれっきり黙り込んでしまった。何を考えているのかはわからない。だが、躓いたことでショックを受けているのかもしれない。メンタルが豆腐みたいなもんだな。
「……せいぜい、お前に同調する貴族を集めることだな」
「……?」
「派閥を作って、無視できないくらいまでに大きくすりゃ、多少は発言力も出るだろ。そういったやつを探して、味方につけるこったな」
「……すまない、感謝するよ」
「別に。独り言を呟いただけだしな」
鼻を鳴らし、料理でも取ってくるか、と壁から離れようとした。そのとき、こちらに向かって駆けてくるやつがいる。まぎれもなく、ニーナだった。
「あ、あの、レオン君」
「どうした?あいつらはいいのか?」
あごでしゃくって示すのは、ニーナを追いかけてくる貴族たち。ニーナはそちらを見て、嫌そうな顔をしていた。そんなにあらかさまにせんでもいいと思うんだが。
「えっとですね。こ、これから、ダンスをするらしいんですよ」
「見事にスルーしたな。で、それがどうかしたのか?」
「あ、あのですね!その、えっと………」
そこで床に視線を落とし、手を握ったり開いたりしている。かと思えば、口を開こうとして、また閉じてなんてこともしている。あまりにもいつも通りの様子だったので、少し吹き出してしまった。
「な、なんですか!私は真剣に………!」
「悪い悪い。……そこのお嬢さん。私と踊っていただけませんか?」
そう言って手を差し伸べると、ニーナは驚いた様子ではあったが、すぐに笑顔になった。
「はい!」
眩しいほどの笑顔で、俺の手を握るのだった。
(……ダンスの《トレース》しておいて助かったな………)
あらかじめ、保険を掛けておいてよかったと安堵する俺もいるのだった。そのせいでか何なのか、エレナにも誘われたのだが……もうやりたくはなかったね。




