暴露
「……そうか。それで日取りはいつになっておるのだ?」
「はい、1ヶ月ほど後に行おうかと。いずれまた、招待状をお送りいたします」
「わかった。私からも祝いの言葉を送ろう」
「はい。ありがたきお言葉です」
ちらりと前方を見れば、肩を震わせている公爵の姿が目に入る。どうやら感極まっているらしい。まあ、王様から祝われているのだから当然と言えば当然か。侯爵とその息子の方を見ると、こちらはあまり変化がない。顔を見ればどんなことを思っているのかわかるのかもしれないが、ここからではわからない。なので、最初から諦めている。どうせあいつらはここで終わるしな。
話を注意して聞いていると、そろそろ切り上げるような雰囲気だ。そこで俺はシルフィへと念話を送る。さて、そろそろこの阿呆らしいことも終息させよう。
「へ、陛下!少し、お話があるのですが!」
ニーナが裏返させた声を上げる。それが少しおかしかったので、肩を震わせていると、ニーナから少し睨まれてしまった。ニーナもこんなに偉い人と話すのは初めてのことだし、緊張しているのだろう。俺は大丈夫だ、とウインクをしてやり、言葉を促させる。王様の方も、興味はありそうだったしな。
「ほう、そなたは誰かな?」
「あ、その、ええっと……あ、はい!ニーナと申します!冒険者をしているものです!」
「そうか。ではどんな話かな?重要ではないことならば、後回しにしてほしいのだが」
王様は遠回しにこちらを量ろうとしているようだ。そんなことにはニーナが気付くはずもないだろうが。そこら辺は追々教えていくか。ニーナは深呼吸をして、自身を落ち着かせながら口を開く。
「いえ、とても重要なことです」
「ほう、というと?」
「私はこの結婚に反対を申したいと思っています。というのも、この結婚は王家にとっても悪い結果をもたらすからです」
「ふむ?何故そう思うのかね?」
王様の目がスッと細められる。その目にニーナは凍り付き、声が出せなくなってしまったようだ。口をパクパクとさせるだけで、声にならない。けれど、ニーナに興味を持ったならそこで勝てる。なぜなら……
「はいはーい!それは証拠があるからなのです!」
今のニーナにはシルフィがいるからだ。俺があいつについているように言っておいたのだ。シルフィは別に緊張した様子もなく、ペラペラと話し始める。
「まずは何からにするー?そっちの侯爵が企んでることからー?それとも、こっちの公爵の状態を治すことからー?」
「……待て。そなたは誰なのだ?」
「あたし?あたしはねー、精霊だよー。ニーナと契約してるの。だから力を貸してるわけ!」
ここで一つ嘘をつかせる。こういう嘘をつかせたのは、そちらの方が都合がいいからだ。王様は首をひねっているが、それよりも気になることがあったようだ。シルフィに向かって口を開く。
「まあ、今はお主がどういった存在なのかは詮索しないでおくとしよう。それで?侯爵が企んでいたこととな?」
「お、恐れながら陛下!そのような得体のしれない者と口を利く必要はないかと!」
ここで侯爵が動く。慌てた様子で話を遮ろうとするが、王様の方はそれを見て怪しいと思ったらしい。ぴしゃりと一喝した。
「ほほう?何もやましいことがなければ、証拠などというものを見せてもらっても構わないだろう?それとも、やましいことでもあるのか?」
「そ、それは………」
「話を続けるとよい、精霊とやら。でっち上げでなければ、最後まで聞くとしよう」
「へー、言ったね?じゃあ、まずはこれから!そこの侯爵の帳簿だよ!どう見てもおかしいところがあるよね!」
シルフィが取り出したのは侯爵の帳簿。王様は持ってこられたそれを見て、段々と表情が変わっていく。読み終えたときには、完全に表情が抜け落ちて、無となっていた。なかなかに怖いものだ。
「……これはどういうことかね、マクニード侯爵?妙に出費が多いが?それに、そのほとんどが武器類だな?」
「そ、それはですね!自領に強力な魔物が現れまして………!」
「ふむ?それならば、一言あってもいいはずだが?」
「それは……そう、報告している暇がありませんでしたので………!」
「そうならば、結婚などということをしている暇はないのではないか?」
「ああ、いえ、その………」
この証拠だけでも、王様は疑いを持ったようだ。疑惑の眼差しを侯爵へと向けている。侯爵の様子はたじたじ、といった様子だ。それもそうだろう。急にこんなことにもなれば、対応できるはずもない。さらに、シルフィがまた動く。
「次行くよー?はい、これ。その侯爵の日記ね?」
「……ま、待て!」
その瞬間、侯爵が飛び掛かろうとした。それを見て、王様が立ち上がる。
「衛兵よ!侯爵を取り押さえよ!」
王様の言葉に兵たちが集まってくるが、少し遅い。このままでは奪われるかもしれない。ああいう輩は恐ろしいものだ。何をするかわからないからこそ。だから。
「ぐあっ!」
それよりも先に、俺が動く。関節を極めて、動けなくする。王様は驚いていたが、兵たちが集まって来たときには彼らに任務を引き渡す。ここで出しゃばるつもりはないのだ。王様は今度こそ日誌を受け取り、読み始めた。そして……
「……侯爵よ。申し開きがあるのなら聞いてやろう」
「へ、陛下!それは虚言にございます!その者らの謀り事にございます!」
「そうか……だが、これは貴公の文字だな。真似ただけとは到底思えぬ。それに加え、わざわざここに公爵家との結婚の後に、と書いてあるな?他人のものとしらばっくれることはできんぞ」
「陛下!」
「言い訳は裁判で聞く。連れていけ」
侯爵は最後まで喚いていたが、王様は聞く耳を持たなかった。それはもう黒だと断定したからだろう。それに、冗談程度で済む話ではないのだ。クーデターを起こそう、というのは。
「感謝しよう、娘と精霊よ。もしこのまま放置していれば、私の命が……いや、私たちの命が危ぶまれたかもしれぬ。そなたらには褒美を与えねばな」
「い、いえ!私は別に………!」
「あ、そうだ。これもやっとかないと」
シルフィがアクセサリーを取り出す。それを見た王様は、不思議そうな顔をしている。
「うん?なんだ、これは?」
「これはねー、公爵に催眠を掛けてた魔道具だよー!これを壊せば、万事解決なのです!」
「なんと!フォードハイム公爵が反乱などを起こすことはないと思っていたが……催眠を掛けられていたのか!」
「そうみたいよー」
「ふむ。ならば、破壊してくれ。公爵からも話を聞きたいのでな」
「いいよー」
シルフィは兵士にアクセサリーを渡す。兵士は恐らく後から《鑑定》をするのだろう。綺麗に壊し、王様へとそれを渡した。壊すと同時に、公爵の様子が変化する。いきなりエレナに駆け寄り、抱き寄せたのだ。
「エレナ……!すまない!本当にすまない………!」
「父様………!」
エレナも正気に戻ったことがわかったらしい。目尻に光るものが見えたが、見ないふりをしておいた。それが優しさというものだろう。
「喜んでいるところすまないが……公爵よ。何があったのだ?」
「はい。正直に申しあげます」
公爵が状況を説明していく。その内容は俺が《解析》で見たものと同じだった。
何度も何度も、侯爵の息子と娘の結婚を申し込まれ、それを反対していたこと。だがある日それを諦め、相談を受けることになったこと。その場で催眠を掛けられたこと。そして、意識はあるのに娘を侯爵の元へと嫁がせることを、自分の口で言ってしまったこと。顔を悔しさに歪ませながら、王様へと話していった。
「陛下。私はどうなろうと構いません。ですが、娘に罪はないのです。せめて、娘だけは見逃してくれませんか」
公爵は最後に、クーデターを直接的にではなかったとはいえ、手伝ってしまったことを悔い、自分は罰を受けると明言した。そして、その代わりにエレナを見逃してくれとも。あの侯爵とはえらい違いだ、と思っていると、王様はふっと笑った。
「安心せよ。そなたは正直に話し、罰を受けようとした。それだけでも十分である。だが、何もなしというわけにはいかんだろう。そこで、だ」
王様はニーナを見る。ニーナはびくっと肩を震わせたが、責めるわけではない。怖がることもないだろう。
「そこの最大の功労者を労うのだ。よいな?くれぐれも満足のいかぬと言われぬようにな。この国の貴族が皆、あのようなものだと思われても困る」
「は、はっ!謹んで受けさせていただきます!」
「それと、ニーナと言ったな?いずれこの城にて、パーティーを開かさせてもらう。それに参加してもらえんかな?」
「ふえっ!?あ、ええっと、そのぉ………」
ニーナはうろたえ始めていたが、これも予想の範疇。シルフィを通じて、参加してもらうように言っておく。
「は、はい……わかりました」
「そうか!助かったぞ。そうと決まれば、段取りも決めねばな。フォードハイム公爵。貴公にも手伝ってもらうぞ?」
「はっ!」
どうやらまとまりそうな話の様子に、ほっとするのだった。そして、面倒事が舞い込んでこなければいいんだが。と願うことも忘れなかった。……無理なのはわかっているけどさ。




