王城
(侯爵)
(まったく、無能なやつらめ!)
賊を逃がしたという報告を聞き、イライラとして机を殴りつける。あの兵たちもいずれ罰を与えねば。あんな無能共には用はない。死刑にするのがちょうどいいかと思いつつ、何かを蹴りつけたのを感じた。ふと下を見てみると、そこには顔を青くするようなものがあった。
(な、何故ここに!いや、まさかこれも狙っていたというのか………!?)
拾い上げたそれは、常に首から下げておいた装飾品だった。これは魔道具になっており、権力を握るためには必要不可欠のものだった。闇市で買い、本物だったら幸運程度に考えていたのだが、予想以上にいい働きをしてくれたのだ。手放すわけにはいかないものだった。
(まあいい。いずれは儂が王となる……そうすれば、すべて儂の思うままよ!)
そう思いながら、気分よく眠りにつくのだった。
※ ※ ※
(レオン)
『とまあ、そんな感じに思ってることだろよ』
『うわーお、陰険。レオン、悪役っぽいよ?』
『うるせえ、元はと言えばむこうから仕掛けてきたことだろ。身から出た錆だっつの』
疾走する俺は、アイテムポーチから侯爵が着けていたアクセサリーを確認する。《解析》で調べてみても本物だったため、安心してポーチへと戻す。
俺がやったことは簡単。単に偽物を創って、落っことしておいただけである。ただ、あの騒動の後のことだ。侯爵は暗殺者の捜索と、暗殺者を差し向けたのが誰かを知ろうと躍起になるだろう。あれを偽物かどうか調べようとは思わないはずである。それに、人というのは安心すると注意が疎かになりがちだ。取り戻した、という安心感からか、それを無意識に本物と思いこんでしまうだろう。そう考えての判断だった。
『それにさー、レオンを特定できそうもないしねー』
『まあな。特定されにくくしてるんだ、見つかったら困る』
さらに念には念をと、侯爵に気付かれたときはしゃがれた大人の声を出しておいた。加えて、チラつかせたナイフもよく使うものではなく、そこら辺の武器屋で買えるような安物である。しかも量産品。これで特定されたら、侯爵の手勢はかなり優秀なことになる。それだけは勘弁願いたいところだ。
『あとはこれからどうするかだが……どう動くかね?』
『え?普通に王様に見せればいいんじゃない?』
『そうもいかねえだろ。ここ、王都だぜ?』
『あー、そっか。あれがあるのかー………』
『そういうことだ。仕方ねえ、道中考えておくか』
そう、王都では行動が束縛されるのだ。とあるもののせいで。それに気付いたシルフィは、呆れた様な顔をしていた。まあ、俺も阿呆らしいとは思ってる。
頭を悩ませる問題に、俺はため息をつくのだった。
※ ※ ※
「……ということですので、報告をした方がよろしいかと。大貴族同士の結婚です、何の報告もなしにはできないのではないでしょうか?」
「ふーむ、それもそうか。そうだね、君の言う通り陛下にも話をしよう」
公爵の屋敷に帰って来たその日、俺は国王に話を通した方がいいだろうということを提案していた。公爵としても、別に反対ではないらしく、侯爵の方へも呼びかけると言っていた。
そして、その数日後。むこうからも承諾を受けたらしく、王城へと向けて出発したのだ。俺は護衛として馬車を守る指名依頼を受けた。勿論俺としても断る理由はなかったため、それを快諾し、護衛についている。その馬車の中で、ニーナと二人になっていた。
「ニーナ。お前に頼みたいことがある」
「はい?何ですか?」
「いいか、今から俺が言うことをすべてやってくれ。それがエレナを救うことにもなる」
「そ、そうなんですか?よくわからないけど、頑張ります!」
迷うことなく頷いたニーナに苦笑し、シルフィに確認する。シルフィは頷き、誰もいないことを俺に教えてくれた。俺はニーナへと視線を戻し、耳に口を寄せてごにょごにょと内緒の話をした。なるべくなら、誰にも聞いてほしくなかったからだ。俺の話を聞いているうちに、ニーナの顔が変になっていく。最後には、怒ったような顔つきになっていた。
「なんですか、それ!私は何もしてないのに!」
「だが、これが確実な手だ。一応政治利用はさせないようにするが、目立つのは避けられないな。そのことについては謝る」
「私はそんなことを言ってるんじゃ………!」
「いいんだよ、俺は別に。目立ちたくもねえしな。それに、俺の言葉じゃ届かねえ。だから、お前に任せるよ」
俺の言葉に、ニーナは黙り込む。どうしようもないことなのだから、気にすることはないのだが。それでも、ニーナは強い眼差しで俺を見てきた。
「……私、頑張ります」
「ああ、頼んだ」
「そっちじゃないです。レオン君がみんなに認めてもらえるように頑張ります!私なんかよりも、ずっと、ずーっとすごいことを認めさせますから!」
「ああ、うん、そう……頑張ってな………?」
何故か変な方向へと情熱を向け始めたニーナを見ながら、どうしてこうなった?と頭を悩ませる。そんなときだった。馬車の動きが止まったのは。
外を見れば、白く綺麗な壁が高くそびえ立っている。王城に着いたのだ。




