死
血臭。この世界で生きてきた俺には慣れた臭いだ。
何故、こんな事になったのだろう?ふと、考えてみる。
自分は報酬さえ貰えば、再び依頼を受けるまでその依頼主とは干渉しない。そのことは彼らにとっては周知の事実だろうに。
だが、彼らは内心恐怖していたのだろう。《死神》と呼ばれている自分にいつ牙をむかれるのかと。いや、今となっては呼ばれていたか。だから、きっと今回の依頼――彼らにとっては作戦だが――をした。
俺は千切れて下半身がなくなった、自分の体に目をやる。内臓――あれは腸だろう――がはみ出ている。
即死していないのか不思議なレベルの怪我だ。だが、もう長くは生きられないだろう。
いつかは死ぬだろうし、そのときはろくな死に方をしないだろうとは思っていた。思えばこの戦いと人間の黒い感情が渦巻く世界でよく今まで生きてこれたものだ。運が良かったのかもしれない。主に悪運だろうが。まあ、もう十分生きただろう。
天井が崩れはじめる。人生最期に見る風景は、天井の崩落らしい。自分の死体は発見される時、肉片と血溜まりが残るだけで原型を留めていないだろう。なかなか悲惨な最期だ。どこか他人事のように笑う。ああ、そういえば師匠たちと同じ運命を辿ることにもなるのか。どんな皮肉だ。笑みが自嘲気味になる。
死ぬ前に自分の思い出が瞼の裏を流れていく。これが走馬燈なのだろう。そうしているとある事に気付く。
(そういえば、女の人と付き合ったことがなかったな)
こんな世界では仕方がないとはいえこれはいかがなものだろうかと思う。
(もし次の人生があるのなら、そういうことを考えてもいいか。まあ、ないだろうが)
瓦礫が近づいてくる中、そんな事を考える。そう確信するのはある理由があるからだった。
(さようなら、クソッタレな世界)
瓦礫が視界を埋めていく。
そうして、《死神》と恐れられた男の人生は幕を閉じた。