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~八話 闇魔法の使い手~

 いきなりでなんだが、見知らぬ人が来た。

 母が言うには兄の息子で、それが『いとこ』というものらしい。私とは随分年齢が離れているが、一体いくつなのだろうか?

 そもそもこの世界の人は童顔で見た目から年齢を推し量るのが難しい。それは父や母を見れば分かる。

 まぁそんな何才かも分からぬ従兄殿であるが、名を『ケイクン』と言う。

 男ながらやや長めの黒い髪。黒の上着に黒のズボン。見事に黒一色である。

「いい加減厨二病は卒業した方が」

 というのは父の言だ。『チュウニビョウ』というのが何を指すのかは分からないが、これまでの事を考えると、職業なのではないか。

 労働力となるならば子供でも働く。それは当然の責務であり、事実そうしなければ生きていけない。

 私ももう数年もすれば働く事になるのだろう。その時はケイクン同様、チュウニビョウと名乗る事になるのだろうか?

 そう言えば貴族というのは何をすればいいのだろうか。恥ずかしながら私は人間の貴族というものを余り知らない。土地を治める者だと言うのは知っているが、エルフと人間ではそのあり方が決定的に違うのだ。

 まぁそれは良い。今はこの従兄殿の話である。

 父母がケイクンに私を任せ、どこかへ出かけた。うむ、私にも経験はあるからな。野暮な事は言うまい。

 それで件の従兄殿はと言えば……二人が居なくなったのを確認すると、おもむろにノートを取り出し、何事かを書きこんでいる。

 何をしているのだろうか。そう思えば突然立ち上がり、右手を額に当てながら何かを叫び出す。

「闇に染まりし暗黒の炎よ! 我が声に従い、顕現せよ! 黒き怨嗟の炎に焼かれるがいい! ……ううん、なんか違うな。最後のはもっとこう……締める為には技名か。そうか。ならダークナイト……いや、地獄の……煉獄の……」

 かと思えば再びノートに向かい、カリカリと何かを書きだしている。

 たまに私に向かって「お前はどう思う? 達也」と聞いてくるが、何をやってるのか分からないのでなんとも言い難い。……いや、まだ言葉は発せないのだがな。

 そんな事を何度も何度も繰り返し、やがてうとうとと眠気が来た時、今まで以上の勢いで従兄殿が叫び出した。

「地獄の釜より生まれし黒き炎よ。堕ちし聖なる焔よ。我が両腕に宿り、その全てを喰らいつくせ! セイクリッド・ヘル・フレイム!」

 ビビビッと私の身体にまるで電撃でも受けたかのような衝撃が走った。

「あーうー、うあー!」

「おっ、今日一の反応。これか、これが良かったのか!」

 従兄殿が先程から行っていたのは魔法式の構築だったのだ!

 聞き慣れた魔法名が危険を知らせてくれる。が、いつまで経っても警戒していた魔法は発生しない。

 魔力不足か、それとも詠唱の確認で魔力を用いていなかったのか、いずれにしても心臓に悪い事をしてくれるものだ。

 先程の魔法には覚えがある。かくいう私も唱えた事のある魔法だ。

 『ヘル・フ・レイア』

 ヘルというのは魔界という意味で、レイムは炎を表す。

 単純な話、魔界に存在する炎を呼びだす魔法なのだが、この魔界の炎というのは非常に厄介で、一つ扱いを間違えれば術者すらも焼き殺す恐ろしい魔法なのだ。

 私も扱えるようになるまで苦労したものだ。

 基本的に魔法というのは魔力量が足りなければ発動しない。ある一定の量さえ与えれば、最低限は発動し、それ以上の量を与えれば威力が強力になる。

 ところがそこは強欲な魔界の炎。多少の魔力量の少なさは目をつむり、召喚される。これだけなら良いのだが、召喚後に足りない魔力を補うように術者の命を喰らってしまうのだ。

 もっとも、あまりにも少量であれば炎を呼びだすための門も開かないので問題はない。

 実際過去には魔界の炎に抱かれて死んだ事例もある。

 とにかく、簡単に唱えてはいけない魔法なのだ。

 しかしレイアの上位系であるレイムを唱えようとするとは、もしかしたら従兄殿は闇魔法の使い手なのかもしれない。闇魔法の中でも注意するべき魔界属性を扱おうとは。その恐ろしさを知っているからこそ、魔力をこめなかったのかもしれない。

 そう言えば、今の私は魔法を使えるのだろうか?

 ふと思いたち、以前の感覚で魔力を集めてみる。

 うむ。微弱ではあるが、身体の中心に力が集まるのが分かる。尤も、赤ん坊の身なので量が少なすぎる。これを魔法として扱っても何も出来ないだろう。

 であれば、だ。

 詠唱をしてみよう。

 久しぶりに聞く魔法名に感化されたのだろう。テンションが上がっているのが自覚出来る。

 どうせ魔法は放てない。なら従兄殿のように、魔法名だけでもバァンと言ってしまうのが良いのではないだろうか。こういうのは気分だ。

 そうだな、折角闇魔法の使い手が居るのだ。私も闇魔法を唱えるとしよう。

「ただいまー」

「あうーへうあー、あうあうー」

 属性を選択。式の構築を開始。

「ん、おかえりなさい」

「へあー、あー、へうあー」

 闇魔法、特に魔界属性は厳重なロックを掛け、事故が起こらないように固定。

「特に何もなかった?」

「大丈夫だよ。この短い時間で何か起こるとも考えられないし」

「あうあー、あー、えいあー」

 術式を固定。準備は完了。

「達也? どうしたの?」

 魔法名を唱えるこの一瞬が最も緊張する。スッと息を吸い込み、勢いよく……

「へう、ふあいあー!」(ヘルフレイア!)

「圭君! 達也に何吹きこんだの!?」

 魔法を唱え終えると、体内にくすぶっていた僅かな魔力が霧散し、急激な眠気が襲ってくる。案の定魔法は発動しないが、魔力不足により身体が悲鳴をあげているのだ。

「フ、その年でヘルファイアを唱えるとは……将来は有望だな!」

「ちょーっとこっちにきなさい」

「え、あ、ちょ、すみません。いや、何もしてないんですけど、いや、まじで」

 懐かしい疲労感に身をゆだね、私の意識はブラックアウトしていった。

 これは余談であるが。

 この後、「お前が最初に喋った言葉は『ヘルファイア』だった」と生涯に渡ってからかわれるのだった。


闇魔法の使い手(厨二病)


パパ、ママより先にヘルファイア。さすが異世界人は常識にとらわれない!

はい、これで現状考えていたネタは全て尽きました。

これにて定期更新終了となりますが、完結にはしません。いつか完結するの?と聞かれても、完結はしません。

何かネタが思い付いたら気が向いた時に書こうかなーってレベルです。なお、アイデアはネタが思い付き次第容赦なく採用する方向です。


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