~三話 多分、恐らく、きっと、名前~
言葉は相変わらず分からないが、よく聞く音がある。
「AA」
「AA」
「AUA」
この三つ。一つ目と二つ目は一見すると同じように聞こえるのだが、なんとなく発音が違うのだ。
三つの言葉は両親が私に向けて言う事が多い。ううむ、果たして何を言っているのだろうか。私に何を伝えようとしているのか。
確かなのは二文字であること。三文字で有る事だ。
よくよく話を聞くと、この単語は日々の会話の中にも紛れている事がある。
早く言葉を学ばなければ、両親の望みにも答えられないというものだ。貴族というものは優秀であれと願うものだ。
なんとか聞きとろうとしている内に、ある事を思い付いた。
そうだ。私も経験があるではないか。
我が子に対し、執拗までに呟く言葉を。
そう考えて何度か聞くうちに、私は理解した。
両親が私に語りかけているのは、どうやら私がお母さんだよ、私がお父さんだよというものと同じなのだと。この国では二文字の単語で、父と母を表しているようだ。
そしてもう一つ。少しずつだが、確かに一音一音が違う事に気付いた私が悟った事。
「タツヤ」
それが私の名前らしい。
名前が分かった。一歩前進である。
これでやっと自己紹介が出来るというものだ。
初めまして。私の名前はタツヤという。
ちなみに前世の私の名は、アルフリード。誇り高きエルフだった明記しておこう。
というわけでやっと主人公の生まれた世界が分かりました。異世界が地球人にとっての異世界だなんて誰が言った?