能力研究所(良壱&哀原)2
お待たせしました。
雪と良壱は、互いに気不味い雰囲気ながらも地下室を進み。自動ドアの前に立つ。すると2人が来る事を想定して自動ドアのロックが外される。
扉が開いた先には、医療器具がたくさんある広めの空間だった。そして此方を見て不敵に微笑む宮原と腕を組んで此方を見ていた。雪は早坂を見ると驚きと喜びから前に飛び出しそうになる。
「早坂君!」
「感動の再会だね」
早坂に駆け寄る雪、彼女に道を譲るように脇に避ける宮原。駆け寄った雪は、早坂が怪我をしていないか確認して安緒の表情をする。それを早坂は冷めた目で見ている。
その横で宮原と良壱は視線だけで威圧していた。宮原が動けば良壱も動くつもりだが相手は動く気配が皆無だった。
「俺を此処に呼んだってことは、覚悟はしてるんだろうな」
「あぁ、君に殴られた痛みは今も残ってるからね。ぜひ仕返ししないと」
「それで、楓は何処にいる?」
「教えると思うかい? ただ、君じゃ見つけられない所にいるよ。それといいのかい彼女」
宮原が視線を早坂に移せば、早坂は自分の身を案じる雪の首を絞めて彼女の体を持ち上げていた。突然の行為に雪は早坂の両手を掴むも抵抗できない。そして初めて彼の眼が自分を凍えるような冷たい目で見ている事に気が付く。
「あ、はや、くん」
「誰だお前。宮原、この女もだよな」
「そうだよ。ちゃっちゃと始末してね」
早坂は、雪の首を絞める力を強めていく。宮原の言う事を聞いて、まるで雪の事を敵だと言わんばかりに冷たい視線。酸素が頭に行かず、さらに理解出来ない状況下で雪の思考は徐々に空白に染まって行く。涙を流しながら早坂に手を伸ばすも邪魔そうに避けられる。
「どうなってる」
「世の中は便利になりつつあると言う事さ。いやー悲劇ってこうやって簡単に演出できるんだね。おっと」
予想通りの悲劇に笑みを浮かべる宮原の隣を良壱が駆け抜けて、その手を早坂の顔面に伸ばす。それを見ていた宮原は、掌から電撃を放つ。精密なコントロールで飛ぶ電撃を良壱は、足で金属の医療器具を宮原に向かって投げる。さすがに帯電した金属を受けたくない宮原はそれを交わす為に電撃を一時停止する。
そして、宮原を振り切った良壱の手が早坂の顔面を掴む。
「その手を離せ、でなければ後悔する事になるぞ」
「そうかい、けどこの女は囮なんだよ」
「な」
早坂は、すぐに雪を掴んでいた手を離して良壱の右腕を掴み、右足で両足を払う様にして一本背負いを決める。突然の行動に驚く良壱を片腕を押さえつける事で拘束する。
「いや、ナイスだよ早坂君。そのまま押さえておいてくれないか」
「俺ごとかよ。まぁいいけどよ」
良壱は、腕を捻られ床に押し付けられながらも宮原を見れば、両手から電撃をあやとりのようにチャージしているのが見える。それは早坂毎自分や酸欠で動けない雪を亡き者にするつもりだと。早坂を振りほどこうと力を込めるも何故か力が思うように入らず動けない。
「畜生」
良壱にできた行動。それは動ける脚でへたり込む雪を蹴飛ばし、その行動をを見ていた早坂の一瞬のすきをついて背に乗る彼の襟首を掴み前に投げる事だった。
「ぐ」
「おあ」
電撃を放った宮原。しかしその攻撃は投げられた早坂に直撃しただけで雪と良壱は、ノーダメージだった。直ぐに起き上がり、宮原と電撃を受けた早坂から離れた良壱。それを狙って宮原が鉄針を射出。あわてて側にあった診療台を盾にして防ぐ。金属製の診察台に突き刺さった鉄針を見て、一安心するも自分の右腕を見て違和感を覚える。
(全身の強化が霧散して行く。それに右手の感覚がおかしい)
右手を先程から握ろうとすると手首が動き、肩を上げようとすれば 右指が動く。おそらく早坂の能力で強化を散らされ、右手の神経を変に集められたのだろう。おかげで信号が混乱して、利き手が馬鹿になった。
診察台の影から、様子を見れば此方を見て宮原が構えており、早坂も電撃のダメージから抜け出ている。雪はと言えば、良壱が蹴り飛ばした位置で動かなかった。
「お前、俺ごとやるのはいいが外すなよ」
「ごめんごめん。でも君だってキチンと押さえておいてよ」
攻撃を受けてもなお早坂は宮原に従うスタンスのようだ。早坂が何らかの措置を受けているのは明白。けれど良壱の頭には、早坂を救出すると言う目的は皆無だった。診察代の影で、良壱は呼吸を整える。息を吸って吐くごとに脳内の無駄な物を吐きだすイメージで。己の目的はただ一つ、自分の生きる理由を救いだす事。
「どうしたんだい小柴君。強気な君らしくもない。影に隠れてないで出てきたらどうだい」
「いいじゃねぇか。あの診察台ごとブッ飛ばせばよ」
宮原の煽りを無視して良壱は、手甲を装着する。そしてゆっくりと立ち上がって2人を見据える。完全に良壱の思考が戦闘と楓の奪還に向けられた事で彼の気配が一変する。
「ん?」
「へぇ、君の能力を封じたのにまだそんな目が出来るんだ。早坂君やっちゃって」
宮原の指示に渋々と言った表情で、従う。早坂は現在能力が全開の状態。対して良壱は、能力が上手く発動せずに右腕が使い物にならない。けれど、良壱は前に出た。
「死にに来たか」
強化した良壱ならまだしも、生身の良壱では早坂の攻撃を受ければ良くて骨折、悪ければ内臓破裂である。前に突き進みながら左手を自分の前に出した良壱は、早坂が飛びあがって蹴りを繰り出せば、それを左手でいなし、体勢を崩した彼の喉元に手刀を入れる。
「ご」
喉を容赦なく潰され、地面落ちると喉を撫でながら早坂が呼吸困難になる。早坂が倒れた隙に前に飛び出した。針を展開していた宮原は良壱をハチの巣にするために射出した。けれど、倒れている早坂を左手で掴んで彼を盾にする。
「おま、え」
盾にされ、体中に針が刺さった早坂。けれどその程度で倒れない早坂は右手で良壱を薙ぎ払う。直撃の寸前に左手で攻撃を逸らし、ダメージを軽減した良壱。それを見た宮原は「身体能力は上がっていない。だが、動体視力は強化している。へぇ、怪力任せかと思ったら、能力を封じられる事を想定した戦いもできるのか」と評価していた。
けれど、筋力が強化されている早坂の攻撃を逸らし続けるのは限界がある。足元を払われ、擦れ違いざまに腹部を蹴られる。口からは血を吐きだし、確かなダメージに息が切れ始める。だが、途中でちょっかいをかけるように宮原が鉄針と飛ばしてくる。
「いい加減慣れたぜ」
「く」
打ち払う左手を掴まれ、力任せに放り投げられる。受け身も取れずに傍にあった診察台に突っ込み、壁際の棚にぶつかる。その際に棚のガラスが砕け、棚自体が良壱に向かって倒れる。棚に潰される前に立ちあがって背中で受け止めたが、痛いものは痛い。集中力を極限にまで高めた良壱は、意識の端で痛みを感じつつどうやって相手を倒そうか思案していると。
(うふふ)
何か幼い少女の声が聞こえ、周囲を見渡すが誰もいない。唯一この中で女性は雪だが、放心状態でとても笑い声を出せそうにない。気のせいかと視線を前に向ければ「うお!?」極限まで高めた集中力が吹っ飛ぶくらい驚いた。
診察台を盾にしながら様子を窺おうとした良壱の前に、両手を膝に置いてこっちを見て驚いた良壱に驚いている少女、いや幼女が居た。黒髪が身長を凌駕するほど伸びており、あどけない表情で尻餅をついていた。
これはさすがに驚かずにいられない。ひっくり返って手足をバタバタするたびに髪にからまって行く。集中力が途切れ、思わず立ち上がった良壱目掛け早坂が投げた椅子と鉄針が襲い来る。宮原は電撃を使えば一瞬でおわるのが良壱の手段全てを封じる遊びをしていた。早坂と言う盾を持ってすれば、これはただの弱い者いじめにすぎなかった。
故に急に驚いて立ち上がった良壱が不可解だった。
「早坂君。もう一回突っ込んで」
「また俺ごとかよ」
「奴に考える時間の与えるのは危険だからね。それに能力封じは長くないだろ。君の役割を果たしてよ」
しぶしぶ早坂が良壱の元へ向かう。それを後方からサポートする宮原。しかし良壱は何故この場所に子供がいるのかで混乱していた。髪の毛に短い手足を囚われながらも少女は宮原が拉致の逃亡防止に撃ってる弾幕の中をあるいてくる。
「ば、ばか!」
良壱は、左手でこっちに来るなと言わんばかりでジェスチャーする。だが、よたよたと此方に来る子供は止まらない。奇跡的に攻撃を受けていないが時期に串刺しだろう。もう無視して楓の事に専念しようかと思った時、一本の針が少女の髪を切る。
「おわ」
その瞬間、ほぼ反射的に前に飛び出して少女を抱えたまま、反対側の診察台に飛び込む。
(痛い)
良壱の救出のせいで頭を打ったのかおでこを押さえながら講義する少女。「馬鹿、なんでここにいるかとかは置いておいて、ここから動くな。死ぬぞ」
良壱自信なぜ助けたのか分からない。彼女が突然現れた理由も分からない。さっきまで彼女の気配や匂は感じなかった。けれど実態があり、彼女はここにいる。理解不能で意味不明な事態だが、良壱は見捨てられなかった。だから大人しくしていろと命じる。すると少女は首をかしげてケラケラ笑い出す。
「何を笑って」
(今回は見えるだけじゃなくて、話せるし喋れるのね。こんなこと滅多にないわ)
「何行って」
「誰と話してるんだ」
良壱は少女と話しているとき、早坂が良壱の襟首をつかんで再び地面に投げる。投げられた良壱はバウンドして全身に痛みを感じながらも走って再び距離をとる。
そして逃げた物陰で少女が頬杖を付きながら彼の前に表れる。
(助けてあげましょうか?)
「あ?」
(能力使えないんでしょ? だから私が助けてあげようか? さっき助けてくれたし)
「話にならん」
子供と会話してる暇はないし、急に移動したコイツが不気味だと思い冷たく接すると少女は良壱の首を両手で締め付けた。万力のような力のせいで良壱は動けない。強化が使える良壱であっても振りほどけない圧力があった。
(粋がるなよ。お前私が力を貸さないとなぶり殺しにされるぞ)
いたいけな少女から豹変して、瞳の奥に闇を抱えた女性の表情をする少女。顔は変わっていないのに別人のような彼女は良壱を見て確定事項だと言わんばかりに言い切った。
(こう見えても私はお前を救えるだけの力はあるんだぞ。どうだ、なんならより素晴らしい力をお前に与えてもいいんだよ?)
まるで悪魔か魔女のように良壱に迫る少女。けれど良壱はその手を掴んで「いらん! 親切の押し売りは、害悪でしかない」と言い切り、少女はポカンとしていたがその手を離した。
「見てろ。能力が無くたって俺は俺だ」
そう言って奮起した良壱が立ち上がると、彼の左手には巨大な銃が握られていた。
(未来が、また大きく動くのね)
少女は立ち上がった良壱を見てそういった。




