早坂+哀原4
「よくもわたくしの可愛いマンホールをいじめてくれましたわね?」
金髪にまるでドリルのようなツインテール。美少女に見えるが見るものにどこか威圧を感じさせる。
常識を覆す飛行物体の能力者。
襲撃者がそこに立っていた。
「しかもせっかく取り付けておいたカメラまで破壊してくれるとは、結構高かったんですわよ?」
金髪ツインテールの少女は尚も言う。
「ん?何だテメェ?」
威嚇する早坂。
「私、知ってる。あの人生徒会長・・・。」
雪は若干、顔を蒼白にさせている。
「あぁ?生徒会長だぁ?」
早坂は生徒会長の顔を知らなかった。なぜなら全校集会等は彼にとって絶好の睡眠タイムである。
「学内における不純異性交遊に、生徒会長の私物に対しての器物破損。これはキツーイお仕置きが必要ですわね」
生徒会長はニコリと笑みを見せる。男子なら一撃で惚れてしまいそうな美貌。しかしその笑みはどこか凶悪だった。
「ふふ不純異性交遊なんてしてませんっ!」
雪は赤面して反論する。生徒会長は雪の反論を一切取り合わず、左手を水平に振るとまるでそれが合図だったかのように生徒会長の近くに先ほどのマンホールが浮遊してくる。
雪達の周りで活力を失っていたマンホール群も再起動する。
「さぁ第2ラウンドの開始ですわよ」
マンホール群が再度雪達にめがけて殺到する。
「ちぃっキリがないんだよコイツら!」
早坂は自らや雪に殺到するマンホール群を蹴落としながら歯噛みする。
「早坂さんここはさっきと同じように引きつけててください」
雪は早坂にそう言うと鎖鎌を持ち直し生徒会長に突進する。
「そこを退いて下さいっ」
校内の屋上に退路は一つ。生徒会長の後ろのドアしかない。生徒会長にある程度のダメージを与え、早坂と屋上から脱出する。雪はそんな算段だったが、生徒会長に届くはずの刃はあっけなく躱される。
二擊、三擊、雪は刃を振るうもまるで遊ばれているかの如く、生徒会長には届かない。
ある程度斬撃を繰り出したが、鎌の刃が生徒会長に届く前に、マンホールがその間に割って入り、雪の刃は防がれる。
雪はマンホールの盾の間から垣間見える生徒会長の氷のように冷たい瞳孔と眼が合った。
「・・・っ」
背中から冷水を浴びせられたような寒気と悪寒とおぞましさを感じ、雪はステップで後退する。
次の刹那。今しがた雪の頭があった箇所を迅風が通り抜け、雪の白い髪の先の毛が数本切り払われていた。
「遊びは飽きましたわ」
そう言う生徒会長の手元付近には浮遊し回転するマンホールの蓋があった。それには磨き上げられた刃が幾本も飛び出していた。
「終わらせて差し上げましょう」
そう言い放ち、冷たい瞳で雪を睥睨する生徒会長。
「哀原!あぶねぇ!」
背中に衝撃が走り、雪はその場から突き飛ばされる。何度か転がった後、雪は元いた場所を見た。
早坂が肩に傷を負っていた。別の場所から飛来した刃付きマンホールから雪をかばったのだ。
「早坂さんっ」
雪は悲鳴をあげた。・・・また私のせいで他の人が傷ついてしまった。
「ハッこの程度、屁でもねぇぜ」
早坂はそう吐き捨て、気丈に生徒会長を睨みつける。雪の心中は絶望が支配していた。この生徒会長には絶対勝てない。二人共殺される。
恐怖は雪をその場に座ったまま縫い付けた。体中の汗が一気に冷たいものに変わる。
「生徒会長さんよぉ!この借りは後日きっちり返させてもらうから覚えとけよ?」
早坂は肩に傷を負ったまま立ち上がる。そして雪の方向へダッシュしてくる。
「ちょ!ちょっと早坂さん!?」
雪は早坂に担がれていた。
「よっと」
何を思ったのか早坂は屋上から飛び降りる。絶体絶命を感じ雪は悲鳴をあげそうになる。しかし二人に壮絶な地面の激突は訪れなかった。
あろうことか早坂は雪を担いだまま、校舎の壁を走りながら落下のスピードを殺したのだ。
「・・・逃げられましたわね」
屋上で生徒会長は呟いていた。
「ふぃ~こんな時の為に良壱の奴から壁面走行を習っといてよかったぜ」
地面にて雪を下ろした早坂は得意げに言っていた。雪は信じられない出来事に口をパクパクさせていたが、
「あの、早坂さん怪我が・・・」
見ると早坂の傷はさっきまで血が噴き出していたものの今は、出血が止まっている。
「あぁ?コレか?さっき言ったろこの程度、屁でもねぇって。」
見ていると学生服の破れた部分までは戻らないものの早坂の肩の切り傷はみるみる塞がっていく。
「っとここもあぶねぇみたいだな」
見ると、マンホールの蓋がいくつか上空を飛行している。おそらく偵察用マンホールには予備があったらしい。
偵察用マンホールは尚も諦め悪く周囲を巡回している。その時、キンコンカンコンと予鈴が鳴った。
マンホール群は巡回をやめ、それぞれ何処かに飛び去っていった。雪は心底ホッとした。
あの生徒会長。現在の自分では全く歯が立たないばかりではなかった。むしろ先ほどのは本来の実力とは程遠かったのではないか?
雪は先ほどの生徒会長の超人的な能力。圧倒的余裕な態度を思い出し、薄ら寒いものを感じていた。
次回は視点がかわります。