早坂+哀原3
雪と早坂が屋上で焼きそばパンを咀嚼していると不意に上空で何かが光った。
それは黒くて円形状の物体で、まっすぐに落下すると早坂が腰掛けた近くにおいてある焼きそばパンの詰まったコンビニ袋を直撃した。
「・・・ッ!?」
雪と早坂の二人はかつて焼きそばパンの袋があった場所を凝視する。そこには原型を留めた焼きそばパンの姿はなく、砕けたコンクリートの欠片と土煙があり、コンビニ袋の切れ端と微かに焼きそばパンの残骸が確認できるだけだった。
「ああ”!?俺の昼飯がぁ!?」
絶叫する早坂。そこで晴れてくる土煙。姿を現したのは何故かマンホールの蓋。
「マンホールの・・・蓋!?」
絶句する雪。マンホールの蓋はガギッと音を立ててひとりでにコンクリートの床から外れるとそのまま浮遊し、上空に戻っていく。その様子を言葉を失い、ただ呆然と眺める雪と早坂の二人。
マンホールの蓋はある程度の高度まで上昇するとそこでふわふわとまるでUFOのように滞空する。
雪と早坂は尚もその様子を言葉を失い眺めていたがそこである事に気づく。上空を滞空しているマンホールの蓋は一つではない。
一つ二つ・・・合計六つのマンホールの蓋が雪と早坂の周りの上空を妖しく漂っていた。
完全に囲まれている・・・。
六つのマンホールの内一つがピカッとなんらかの信号を発した。
次の瞬間残り5つのマンホールが雪と早坂に襲いかかった。
上空からおよそ60kgの飛行物体が5方向から接近してくる。
コンクリートの床を穿つ攻撃の連続を雪と早坂は辛くも回避する。
「おいなんなんだよ!?このマンホールの蓋どもはっ!?」
想定外の事態にあわてる早坂。
「おそらく何らかの能力者・・・」
この異常事態を能力者の仕業以外ありえないと判断する雪。
「・・・うざってぇ!!」
早坂は落下してくるマンホールの一つを蹴りで床に叩き落とす。
しかしそのマンホールはしばらくすると何事もなかったように上空に戻っていく。
そこで雪が何かに気づく。
「早坂さん・・・あれ」
「ん?なんだ哀原?」
雪が指差す方向を見ると、そこには六つのマンホールの内唯一明らかに攻撃に参加していないマンホールが上空を停滞していた。
「あのマンホールだけ何故か襲ってきませんよね?」
残り五つのマンホールが猛然と襲いかかってくる中、雪は冷静に自分の推理を展開する。
「あのマンホールの蓋は偵察役なんじゃないでしょうか?おそらくあのマンホールには監視カメラが取り付けてあってそれを使ってこのマンホールの能力者は私たちの動きを見ているんじゃないでしょうか?」
「・・・」
早坂は雪の頭部を直撃しようとしたマンホールを蹴落としながらも雪の推論を聞いている。
唯一攻撃に参加していないマンホールからチカッと何かの反射光が煌き、それを視認した雪は自らの推理が間違っていない事を確信する。
「早坂さん!ひとまず周りのマンホールを引きつけてください!私があれを狙い撃ちます!」
そう言って雪は自分のバッグが置いてある方向に向かって走る。早坂は雪の言っている意味がいまいち分からなかったが応える。
「分かった!こっちは任せとけ!」
自分のバッグの元にたどり着いた雪が取り出したのは、鎖鎌だった。研ぎ澄まされた鎌の刀身と柄の部分から長い鎖が伸びその先に分銅がついている。
雪は鎖付きの分銅を振り回し、力を込める。
狙うは上空に滞空する一つのマンホール。それに装着された監視カメラ。
「えいっ」
雪は鎖を解放した。
遠心力でスピードを増した分銅はマンホールに装着された監視カメラに直撃する・・・はずだったがその寸前でマンホールは位置座標をずらし分銅の一撃を回避した。
しかし雪はその回避は折り込み積みだった。
限界まで伸びきった鎖を自分の方向に引く。すると分銅は再度マンホールめがけて接近する。
―バキッ
快音を立ててマンホールに装着された監視カメラは粉砕された。
直撃されたマンホールはフラフラとグラウンドのどこかにフェードアウトする。
残りのマンホールも能力者からの制御を失ったのか、それぞれ屋上の床に落ちてくる。
「ふう・・・なんだったんだ一体?」
マンホール群の襲撃をキックで退けていた早坂が呟いた。
―バタンッ
その時屋上のドアが勢いよく開いた。
「よくもわたくしの可愛いマンホールをいじめてくれましたわね?」
金髪にまるでドリルのようなツインテール。美少女に見えるが見るものにどこか威圧を感じさせる。
常識を覆す飛行物体の能力者。
襲撃者がそこに立っていた。