能力研究所(良壱&哀原)
目が覚めた良壱は、雪を抱えながら学園の外壁を飛び越えて海の上を走っていた。右足が沈む前に左足を出して水面を駆け抜ける。足が濡れる以外は、順調に目的地に向かっていた。
哀原を抱えつつ、もう片方の手でスマホを操作する。画面には地図が記され、そのなかに進行方向を現す赤いポイントがあった。
「あ、あの。あの人たちの居場所、何でわかるんですか?」
「ん? さっきさ、今の段階でだが3種類の能力を使う野郎殴ったときに、あいつのポケットからペンが落ちてな。そこに書かれてた企業名と薬品の匂いから場所を断定した。それをネットで検索しただけ」
「な、成る程。それなら、何で走ってるんですか!? 海の上を!」
凄まじい速度で海面を走る良壱の上で、下を噛まないように悲鳴染みた声をあげる雪。人間に抱えられると言うより、モーターボートに括り浸けられている気分である。
「電車やバスより早いからだよ。俺は楓を取り戻したい。それも一秒でも早く。だからショートカットしてる。あんたを抱えてなかったらもっと飛ばせるが、約束は俺も守る。舌かむからもう喋るな」
あまり話した事のない相手に会話は続かず、その後雪が悲鳴をあげる度に速度の調整や揺れの軽減に手惑いながらも数分で目的地の製薬会社が見える。
「でかいな。この距離からもはっきり見える」
「大きい会社だね。あそこに早坂君が」
製薬会社の前にたどり着いた良壱は、水面でスライディングの要領でブレーキを掛ける。そのまま沈む前に飛び上がって大地に着地する。その間、雪が絶叫をしたのは言うまでもない。流石にやり過ぎたと頬を掻く良壱。
「とりあえず、約束通り連れて来たぜ。ここからは別行動だ」
「え、あ、……はい」
「先に乗り込んだ連中が結構暴れてると思うから警備は薄いと思う。まぁその割に静かすぎる気もするが、行くか行かないは任せるよ」
「小柴君は、行かないんですか?」
入口は一つしかないように見えるが、まるで良壱は別行動をとるかのような言葉に疑問を抱く。だが、彼女の問いに彼は行動で答える。かれは足元の意思を拾うと、ブンっという音が聞こえる速度で投擲。それは、製薬会社の最上階のガラスをぶち破る。
そして、姿勢を低く構えて、一気に跳躍した良壱は、身軽な動きで窓の縁を次々にとび越えて最上階に到達する。そのまま下の雪を見下ろして「じゃ」と言い残して建物に入る。
突然のショートカットに雪は言葉を若干失う。
「気にしないでおこう」
雪は覚悟を決めて、一人で製薬会社に突入した。一方最上階から突入した良壱も最上階のフロアにて因の対決をする事になったのだった。




