能力研究所(楓ver)
今回は良壱のヒロイン。楓が主人公の視点ですね。
雪が解放されてからしばらくたった頃。突然のメールにて埠頭に呼び出された楓。急なメールで『すぐに来てほしい』といった内容だったため、慌てて駆け付けたが、灯台近くのテトラポッド群に辿り着いても美遊の姿は無かった。
「美遊さん! いるんですか?」
波がテトラポッドに当り、潮が宙に舞う。僅かな水滴が彼女の肌に弾かれる。周囲を見渡しながら美遊を探していると「楓」と灯台のてっぺんから声が聞こえる。
「美遊さん」
「来てくれたんやね。呼んでから2分で来るなんて、本当に真面目な子やね」
灯台のてっぺんで、明るい光に映し出される美遊の表情はどこか悲しげで暗い何かを抱えていた。いつも飄々としている彼女に何かあったのだろうか? と心配になり彼女の方向に手を伸ばそうとした時「ごめんな楓」と美遊が告げる。
「え」
灯台の壁を強く蹴って楓の傍に着地した美遊は、間髪いれずに楓の顔面に周り蹴りを繰り出す。身体強化され常人を越えた膂力と演算による回避不可能な速度での一撃。この一撃で仕留める筈だった。
「これは、私に対する。いえ、SKS学園に対する敵対行為と捉えてよいのですか?」
「あちゃー、ほんまに敵わんわアンタ」
美遊の必殺の蹴りを、楓は片腕で受け止めていた。強化された蹴りを同じく強化した動体視力と筋力にて完封した。だが、多少の心の揺らぎからくる判断時間のタイムラグが彼女のこめかみに傷を作り、それが顎まで流れる流血を描いた。
「一応、必殺のつもりやったんやけどな」
「何故あなたがこのような行動をとっているかわからないし、灯台から飛び降りた上でのこの重い一撃。正直驚いています」
「それやったら、そのまま気絶なりしてくれたらよかったのに」
繰り出した足を戻して今度は、死角からのボディーブローに切り替える美遊。経験から楓との長期戦闘は危険だと判断したためだ。
「もう一度聞きます。貴方は敵? それとも」
「楓、あんたの頭が固いくせに妙に優しい所、嫌いじゃないけど。今は目障りよ」
「そう」
「」
死角からのボディーブローを肘で撃ち落とした楓は、美遊との問答の末にニヤリと笑いながら美遊の脇腹に肘を入れる。その速度を見切った美遊は、その肘打ち以上の速度で後ろに跳ぶ。だが、そこに楓の回し蹴りが彼女の足をすくい取り、後ろに倒れ込もうとする美遊と瞬時に距離を詰め彼女の顔面目掛けて拳を振り下ろす。
どーんという爆音とともに埠頭が揺れ、波が高くなる。その震源地は、コンクリートの床に倒れる美遊の顔面。その真横で地面にめり込む楓の拳だった。
「どうやら自分の速度に振り回されてる節がありますね。美遊先輩」
「あんた、今ので仕留めとかな後悔するよ。あんたと良壱だけやないんよ。強化の能力は」
美遊を見下ろしながら殺気の籠った目で見つめる楓。逆に今のは危なかったと焦りながら、それでも止めを刺せなかった楓の甘さに辟易とする美遊。そんな美遊の表情にキレた楓が声を高らかに荒げる。
「強化能力に目覚めたばかりの赤ん坊がほざくなよ! あなたは、その力を理解する前に私に潰されるんだ。いや理解なんてさせない。私の……良壱の……絶対に」
「ぐっ」
急にブちぎれた楓が、自分より背に高い美遊の襟首を掴んで片手で持ちあげるとテトラポッド目掛けてボールのように投げる。自分が投げられた速度と着地地点との距離を計算した美遊が空中で姿勢を立て直して、テトラポットに着地する。それを追いかけるように長い黒髪を振り乱しながら、足場としては最低なテトラ群を駆け抜けた楓の飛び蹴りが迫る。
「あまいで」
飛び蹴りなら、幾ら速くても演算で位置を割り出して迎撃できる。美遊は、楓の攻撃にカウンターを決めるために地面を強く蹴って蹴りの構えをとる。
このままでは、回避されて手痛い一撃を受ける楓。彼女は、自らの長い髪を強化してワイヤー以上の強度にしたまま、真横のテトラポットに巻き付けてブレーキをかけカウンター狙いの美遊の蹴りを回避。回転運動に乗ったまま、美遊のテトラポットの真下に潜りこむ。
「やっぱり能力の使いなれ方が違うな。けどアンタには負けられへん」
テトラポットのジャングルと言った場所を小柄で身体強化を施された楓は、縦横無尽に移動する。すでに視力の強化で夜でもハッキリとした視界を確保した彼女は怒りで美遊を倒す事しか考えていなかった。
「そこか! ちっ」
美遊も能力を用いて相手の動きを先読みするが、フェイントも盛り込まれた動きに翻弄される。この点は、能力の使用してきた年期による経験の差とも言える。所々で奇襲を仕掛けてくる楓の攻撃を美遊も回避しながら二人は、どんどん埠頭から海岸沿いに向かってテトラポッドを駆け抜けていく。
「たとえ相手がアンタでも負けられないんや!」
美遊は、背中から愛用のショットガンを取り出しそれを楓目掛けて引き金を引く。射線から外れるようにテトラポットの影に隠れる。特殊弾頭の散弾全てがテトラポットに命中する。そこで美遊はテトラポットの何処から楓が飛び出しても打ち抜くつもりだった。楓は強化はできても爆発的な再生能力は持っていない。
ゆえに脚にダメージを与えれば、後は的である。そう考え銃を構えると、想定外の事態が起こった。いや正しくは、相手は楓。学園でも有数の物理攻撃の達人であり怪物であると知っているなら想定するべきだった。彼女がテトラポットその物を投擲してくる可能性を。
「ほんまに難儀や」
ポンポン飛んでくるテトラポット。それを回避する美遊。彼女が避けた後は爆撃の後のように水しぶきが上がり、埠頭が破壊される。ブチギレた楓は始めてみるが、ここまで容赦なくなるとは美遊も思っていなかった。
「どうしたんだ先輩? 私に後悔させるんじゃなかったか? その程度が『良壱』と一緒の強化だと、ふざけんな!」
「はや」
テトラポットを避けるのに集中し楓を見失う。その隙に楓は自分が投げたテトラポットに掴まって接近。再び髪の毛を使って美遊のショットガンを持つ手を絡め取り、首の力の身で彼女の体を振ります。振り回された美遊は壁に受け身すら取れずに激突する。
彼女の肺から空気が漏れる。そのせいで酸欠に近い状態となり意識が薄れていく。楓の移動速度を押さえるために埠頭を選んだ。そのおかげで楓はまともな速度は出せない。けれども怪力は健在で逆に自分が追い込まれる始末。楓を舐めていた訳ではないが、流石に今回のような怒りで暴れる楓は予想外だった。
「許さない……」
動けない美遊に止めと言わんばかりに楓が走り出す。渾身の一撃を敵と認識した美遊に御見舞するために。
だが、其処で邪魔が入る。前に飛び出した楓を突然、強力な電撃が襲った。冷静さを失っていた楓は攻撃に対する意識が遅れモロに浴びてしまう。突然の電撃に強化をする暇もなく意識を飛ばしてしまう楓。その勢いのまま地面に倒れた楓を見て、血が流れる腕を押さえる美遊が電撃の主を睨みつける。
「今度はお前か! 健太。よくも私と楓の戦いを邪魔しおって!」
激昂する美遊を見てあざ笑うかのように宮原健太が、闇夜の海で笑う。




