能力者狩り(早坂ver)3
早坂は今まさに楠の鉄くずによる四方八方からの攻撃を受けるところだった。しかし突然、周囲の温度が下がり、浮遊した鉄くずが周りの水分ごと氷結し床に落ちる。
「何?貴様邪魔をするのか!?」
「早坂君・・・」
雪だった。身につけている制服はスカートや腹の部分が片方ずつ焦げ落ちている。
「哀原ッ!?」
「貴様ァッ・・・そっちは真炎のヤツが居た方向。まさかヤツを突破してきたというのか!?おのれぇ!!」
楠は一際大きい鉄くずの群れを操り雪に投げつける。
しかしそれらは割って入った早坂の強化された皮膚に阻まれる。
「畜生っ!」
楠は砂鉄を凝縮させ剣を創りだす。その剣をもって早坂に上段から斬りかかる。
その一撃を楠の剣を持つ手を掴み防ぐ早坂。
「フンッ」
しかし早坂を信じられない膂力で吹き飛ばす楠。標的は初めから雪に絞られていたらしく、雪に斬りかかる楠。
砂鉄の剣を鎖で受け止める雪。そのまま楠の腕に鎖を巻きつけて締め上げ、楠の纏う鎧の腹部分に手を当てる。
「何をしている貴様ァっ!?」
雪を弾き飛ばす楠。
「てめぇ!」
激昂する早坂。
「早坂君今です!」
吹き飛ばされた雪が叫ぶ。楠の懐に潜り込む早坂。身にまとった頑丈な鎧。先程雪が手を当てた部分にボディブローを浴びせる。
「ッ!?」
楠の纏った鎧は儚く崩れ去り楠は壁まで吹き飛ばされる。
「何故だ?何故我の最強の鎧が・・・!?」
楠は血の塊を吐きながらも立ち上がり問う。質問に答えたのは哀原だった。
「私の能力です。先程あなたの鎧に触れた際に瞬時に低音で冷やしてから加熱させてもらいました。鉄を操る能力者なら知ってますよね?鉄を生成する時は低音冷やしてから高温で熱して加工しやすくするんですよ。あなたの鎧が鉄でできているならこの法則を利用させてもらったまでです」
「チィッ小さきものが我に楯突きおって」
楠は醜悪な表情で立ち上がる。
「ひれ伏せェッ!」
楠は一瞬力を溜め、解放した。一定の空間の磁力が高まり、早坂と雪は膝と手を床につく。
「フハハハハッ誰も我に逆らうなァッ!」
楠は哄笑する。
「うるせぇよ・・・」
早坂は立ち上がっていた。
「何!?何故俺の発生させた磁場の中で動ける!?」
楠はもはや芝居ががった口調と一人称すらも忘れ驚愕し叫ぶ。
「お前の発生させてるこの空間はお前以外の人間の体内に宿る鉄分に作用し相手の動きを阻害する・・・だろ?つまり俺は自分の体内の鉄分を全て磁力と関係ない物質に変換したってワケだ」
早坂は説明しながら楠の方へ歩き出す。
「なんだと?そんな事が人間に可能なのか!?」
楠は驚愕に凍りついている。
「それが「能力者」ってヤツだ」
早坂は拳を振りかぶる。渾身の右ストレートが楠の頬を直撃し、楠は壁まで吹き飛ばされる。
「勝負あったな。行くぞ哀原」
早坂はパンパンと手をはたき踵を返す。既に楠が発生させた磁場の空間は消滅していた。
「っざけんなよ・・・」
楠は瓦礫をパラパラと落としながら立ち上がっていた。
「・・・俺を見ろ。俺と戦え!俺はまだ戦えるっ!」
身を纏う鎧は破壊され、体はボロボロ。しかし眼には憎悪を滾らせ楠は吠えた。
「楠・・・。てめぇ・・・」
早坂は楠から発散される闘気に若干圧倒され、感嘆とともに呟いていた。
―しかし・・・。
早坂の目の前、楠の居た空間が突如、窓ガラスの側から見えない巨大な手に押しつぶされたような圧力が発生し爆発した。
「ッ!?」
早坂は突如発生した爆風に吹き飛ばされる。
爆心地の中央。巨大なクレーターができ、そこに楠が倒れていた。
「この能力。まさか・・・」
楠は辛うじて残る意識を繋ぎ留め呟いた。
「よォ楠ィ。調子はどうだ?「選ばれし者」の鉄砲玉君?あ、悪ィ「元」・「選ばれし者」の鉄砲玉か・・・」
早坂達のいる校舎とは反対側の方の校舎の一階上。身長170cm黒眼黒髪でサングラスをかけ、茶色いジャケットを羽織った男がこちらを見下ろしていた。
「紫電!貴様ァ!」
楠は倒れたまま歯軋りする。
「おいテメー何者だ?人のケンカに水差しやがって」
早坂は男に問う。
「あぁ?俺か?俺は「選ばれし者」のメンバー紫電晶久だ。言っておくがそこで転がってる雑魚より「選ばれし者」の中での序列は俺の方が上なんだよ」
紫電はサングラスの奥から底冷えのするような眼で早坂を一瞥すると言った。
「あ~ところで楠クン?本題に入るが、たった今さっき君の「選ばれし者」においての正式な除名が決まったよ」
「なにぃ?」
「お前、レオンの奴には随分目をかけてもらってたのにな。残念だよ」
「紫電テメー殺す!とっととそこから下りてこいや!?」
「ア”?何言ってんだテメェ?そんなにお望みなら塵芥にしてやるよ」
紫電は拳を振り上げた。
(あの距離から何を?)
早坂は思った。しかしその直後紫電の拳が振り下ろされる。一瞬風が凪ぎ、その後巨大な圧力が早坂達の居る校舎を襲う。楠の居た周辺は跡形もなくなり、一階までが吹き抜けになっていた。
「ご臨終だな。さてと俺は高校生の雑魚共に用はないしな。帰るとするか」
紫電は踵を返す。
「おいてめえ!今回の件「選ばれし者」の奴らが関わってるのかよ!?」
早坂が問う。
「あ?そんな事は知らん。俺の管轄外だ」
紫電は30度だけ早坂の方に振り向き言った。
「ふざけんなよ!ここまでやっておいて!」
早坂は先程の紫電の攻撃でできたクレーターを指差し激昂する。
「チッうるせぇなテメェ何なんださっきから?俺の今回の「選ばれし者」としての任務はさっきそこに居た雑魚への除名通達だ。「選ばれし者」が黒城?だか何だか知らねえ奴のグループへの暗躍活動ってのは俺の管轄外で知らねえし喋る気もねぇ。俺はただ雑魚じゃねえ奴と派手にやってそいつをぶっ潰せればそれでいい。あ~長々と喋って疲れたわ。あ、それとお前今後「選ばれし者」の邪魔になるようだったらその時は正式に潰しに行くことになるかもな」
紫電はそれだけ喋ると去っていった。
―その時
早坂の携帯が鳴った。
(この番号・・・)
早坂は電話に出た。
「よう早坂ぁ?元気かぁ?どうやら楠をぶっ倒してくれたみたいだなぁ?」
「黒城!テメェ!」
「体育館に来い」
電話はそれだけ言うと切れた。
「ちくしょう黒城!」
早坂は激怒した。この学校襲撃事件。発端に自らと黒城の一件があるならばそれは自分で黒城を倒し、解決しなくてはならない。早坂はそう思った。
「早坂君。私も行きます」
雪が近くに来ていた。
「哀原ケガはないのか?」
「この程度へっちゃらです。それよりも終わらせましょう。黒城さんを倒して平和な学校を取り戻すんです」
雪は強い意志力を秘めた瞳で早坂を見つめた。
「あぁ。学校は相変わらずクソッタレでめんどくせぇけど、それ以上に黒城は気に食わねぇ」
早坂と雪は最後の戦いが待つ体育館へ駆けていった。
―本校舎廊下―
「くっ」
焦げ付いた通路であちこち焦げたセーラー服を纏い真炎こころはかすかな意識を繋ぎ留め立ち上がっていた。
「黒城さん・・・」
朦朧とした意識の中、黒城秀俊の姿だけが心に浮かぶ。
「アタイ行かなかきゃ・・・」
億劫な足に活を入れ歩きだそうとする。その時。
「あら、こころちゃん大分派手にやられたようね?」
「こころちゃん大丈夫ですか?」
泡沫調と紗道陽菜が後ろに立っていた。陽菜はセーラー服から着替えたのか黒いドレスを纏っていた。
調は相変わらず白いワンピースを纏い日傘を畳んで手に持っている。
「なんだてめーらかよ。どうってことねぇこんなもん」
こころは強がる。そんなこころの顔を心配そうに覗き込む陽菜。
「こころちゃん黒城さん今体育館に居るみたいよ」
「!?」
「なんでもそこで早坂って子を待ち受けて戦うみたい」
「なんだって!?黒城さんッ」
―ズブリ
何か鋭利な物体がこころの背中から侵入し、胸から飛び出していた。
「なっ!?」
「こころちゃん。ずっと言おうと思ってたんですけど「黒城さん黒城さん」ってなんていうかちょっと正直かなりウザかったです・・・」
陽菜だった。左手を影に変質させ、こころを貫いている。申し訳なさそうな表情で言う。その背後に伸びる影がニヤニヤと不気味に嗤っていた。
「ホント前からこころちゃんは一途だったわね~」
調は陽気に言う。表情は冷徹な愉悦に歪んでいた。
「てめぇらァ!」
こころは血の塊を吐き出しながらも力を解放した。
こころの躰が炎に包まれ、爆炎が背後の二人に殺到し、陽菜と調は炎に包まれる。
炎が治まる。しかしその中から現れた二人は無傷だった。
「私に炎なんて効かないわよ」
調が水のバリアを作り出し炎から二人を守っていたのだ。
「もう!私のドレスがびしょ濡れじゃないですか!」
陽菜がこころを貫く影を一層深く突き刺す。
「ガハッ」
こころは血だまりを作りながらくずおれる。
「そんなに怒らなくても私にかかれば乾燥もすぐよ」
「やったーありがとうございます調さん!」
血を流し倒れたこころの前で陽菜が無邪気に喜んでいた。
「黒城さ・・・ん」
こころの意識はそこで途絶えた。
「調さん。黒城さんその早坂って人に負けると思います?」
「う~んわからないわね。でもレオンさんの見立てでは9割がた黒城さんに勝ち目はないって」
「そうですかぁ。まぁもうどーでもいい話ですけどね」
「ええ。私達の黒城グループでの暗躍もこれで終わりね。色々利用させてもらって楽しかったわ黒城さん」
「そうですねぇ。それじゃあ私達は元の組織に戻るとしますかぁ。「選ばれし者」の調さん?」
陽菜と調は廊下の暗がりがつくる影に足を踏み入れた。
そのままズブズブと影の中に潜っていき、二人はsks高校から離脱していった。




