能力者狩り(学園ver)2
背中にはブースターとバッテリーを完備し、見た目がヒロイックなアーマーを纏う人物を見て良壱はこめかみを押さえた。
「あれって弟の龍馬君か?」
「あぁ。あんな特撮ヒーロー衣装着てる奴は、愚弟以外いないな」
楓と良壱が現れたヒーロー姿の人物を見て、それぞれ呆れと驚きの感想を述べる。一方運動場でガッツポーズしているアーマーを着た良壱の弟、龍馬を真が剣でドツく。
『ぐわー、やめたまえ! 頭部の装甲が凹んでしまったじゃないか!!』
「黙れオタク! 私の経験知稼ぎの邪魔すんな!」
『絶対に今の気がついてなかっただろうに! 俺が助けなきゃぐわーー』
「私一人で十分なんだよボケ」
迷うことなく振り下ろされた剣で、少年を護る頭部装甲が凹み。それに対して文句を言った段階で鋭い一撃が右肩にヒットする。少年自体は鎧で痛みを感じないが、自分のお気に入りの鎧を傷つけられてショックを受ける。特に肩のアーマーに関しては無残にも外れ、地面に転がった。
『なんてことするんだ! 俺がこのスーツ作るのに何日徹夜したと』
「黙れスーツごと一刀両断するぞ」
『ぐぬぬ。まぁいい俺の能力ならこの程度』
龍馬は、マスクの中で号泣しながら肩の外れたパーツを能力でくっつける。良壱の弟、龍馬の能力内容は『錬鉄』。金属を強化し変形させる能力である。それによってくっつけられ、凹みも無くなった自慢の鎧に満足し腕を組んで何度も頷く。
その様子に「けっ」と唾を吐く真。2人の関係は、同級生で古くからの知り合いである。力関係は見て分かる通り真が上で、下の龍馬は常に折檻されているが一切懲りていない。そんな関係の二人は、龍馬に吹っ飛ばされた狂戦士が起き上った事に気がつく。
「てめぇええ!」
「こいつは私が貰った!」
『さ、させん!』
先に飛び出した真。遅れて背中のブースターと脚のローラーで加速する龍馬。良壱の弟である彼は、兄と同じく長身ではあるも、運動神経においては兄とは正反対でポンコツである。勢いよく跳び出したものの、ブースターとローラーをコントロールできず転倒。ブースターの勢いを保ったまま、うつぶせで地面を滑る羽目になる。
『うおーーー』
「其処で寝てろ!」
地面を不本意な動きで滑る龍馬を踏み台に真が狂戦士に向かって跳び上がり、剣を横に振りはらう。だが、彼女の斬撃を狂戦士は歯で受け止める。さすがにその行動は想定していなかった真は、顎の力で身体を持ち上げられ地面に叩きつけられる。その拍子に剣を手放してしまい、金色の髪が黒に染まる。
「やば」
能力を解除された真。すぐに再起動しようとするも間に合わない。なにせキーアイテムの剣は襲撃者の元にあり、その男は破壊的な暴力にて拳を振り下ろした。咄嗟に両腕でガードしようとするもリミッターの外れた怪力をか細い両腕では小枝のように折られるだろう。
「うぉらああ」
『こんちくしょう!』
腕を振り下ろす男に、地面を滑っていた龍馬が地面を両腕で押す事で跳びはね。勢いの乗った頭突きを御見舞した。ブースターの勢いで頭突きを喰らった男は3m程吹っ飛ぶ。勢い余った龍馬は今度は前のめりに倒れるがブースターが止る。
『これは、調節大事だな。けど、ブースターなければ戦える』
「よけいなことすんなよ! 龍馬のくせに!」
『はははは、今日こそは馬鹿にさせない』
「うぁあああ」
『兄貴みたいにスマートにはいかないが、こんな機会滅多にないんだ。いかせてもらう』
恐ろしい形相で怪力まかせの拳を振るってきた狂戦士。その攻撃をアーマーの耐久力で受け止め逆に拳を振るう。最初の右ストレートは交わされるも、左ストレートは男の腹を捉える。下から上に突き上げる機械仕掛けの強化筋肉での一撃は、素人のへなちょこパンチですらも破壊力を生む。
およそ一tのパンチが襲撃者の体を浮かせる。其処に追撃で蹴りを繰り出すも、タイミングが外れて空振りする。
「うぉおおお」
『もう倒れるのは御免だ。このやろう』
実に素人くさいノロノロとした動きの龍馬。彼の攻撃を受けた狂戦士が彼の足を掴んで倒そうとするも、それに応戦し両腕で男の肩を掴んで持ち上げる。ウィンチのような力で持ち上げられた狂戦士は、身体を捩って龍馬の頭部を殴る。
『ぐっまた凹んだ。頭部の装甲は薄いからやめてくれー』
「うぉおおお」
殴られてはたまらないと狂戦士と両手を組んで力試しをする。ギリギリとパワー勝負になり、リミッターの外れた人間よりも長年かけて開発した強化外骨格のパワーが優れ、男の腕を捻る事に成功する。
『ふむ。パワーは改善の余地があるが強化された人間一人なら問題なく……やば』
腕を捻りあげて相手を拘束。そこで分析を始める龍馬だが、彼のマスク内側のモニターにアラートが走る。
『バッテリー切れ間近……』
元々エネルギー効率が宜しくない上に、さらに転けたり凹んだりとダメージが重なった結果としてバッテリーが切れそうになっていた。
バッテリーが切れたらパワードスーツは只の重りでしかない。
しかし、龍馬に残された時間は10秒ほどだった。
『ぬおおお』
徐々にパワーが落ちていき、力負けしていく。上から押さえ付けられるように龍馬は方膝をついて耐える。残り2秒になった段階で龍馬は、掴んでいた右手を放し、解放されたことで振るわれた拳を受け止める。そして、右手に内蔵された兵器を使用した。
『超振動波!』
右腕の装甲に組み込まれた強化筋肉とは別の機械が激しく内部で回転。瞬時に凄まじいエネルギーを産み出しそれを狂戦士の腹部に押し当て……放った。
凄まじい振動の波が狂戦士の肉体を中から攻撃していく。それと同時にバッテリーが切れた龍馬は仰向けに運動場に倒れる。
機能を停止し、身動きがとれない龍馬。彼の筋力では、首を少し起こすのが限界だった。
『大ダメージを与えたと思うが……非殺傷設定ではどうなるか……やばい倒れない』
「かっ」
超振動波受けたのが常人なら、卒倒し3週間は入院するほどのダメージを負っただろう。しかし、襲撃者は痛みを感じない。故に体は限界でも止まることはなく、身動きのとれない龍馬に迫る。
「うぉおおおがう」
『お?』
龍馬に迫る狂戦士は、突然真横から迫った光の奔流に吹っ飛ばされて、野球場の電柱に激突。そのまま意識を失う。
「雑魚が……お前も雑魚の癖にしゃしゃり出るから今みたいな事になるんだカスが」
光の奔流の発射主は、狂戦士の落とした剣を拾い覚醒した真だった。彼女は毒を吐きながら動けない龍馬の鎧を何度も叩いた。
『ぐわーー。やっぱりお前攻撃すればよかった‼』
「お前のへなちょこパンチなんぞ喰らうか。木偶の坊!」
狂戦士3名を事実的に無力化した二人の一年生。この状況下でもマイペースな二人は、SKS学園の本質を表しているとも言えた。
学園の生徒は皆化け物揃いだという事実。二人の抵抗を機に、学園側の反撃が始まった。




