能力者狩り(早坂ver)
新章突入
「能力者をターゲットにした暴力事件?」
銀行強盗事件から数日たったある日の放課後、生徒会室で会計の新井美遊は書記の虹草子に聞き返した。
「そう。被害者はどれも能力者ばかり」
草子は椅子に腰掛け、難しそうな小説のページをめくりながらそう答えた。
最近マン・ホール島において、暴行・恐喝事件が頻発している。暴力・恐喝事件というと犯人はチンピラなどが考えられるが、被害者は高位の能力者ばかりでただのチンピラには犯行は不可能と思われる。
何故か現場には抵抗した痕跡がなく、被害者は誰もが事件の際の記憶を一部失っている。
「まったく、退院早々またけったいな事件が起きとるもんやわ」
車椅子に腰掛けた美遊はそう呟いた。
入院費がかかる。学費が勿体ない。時間が勿体ない。暇。などの理由で美遊は早々に病院を飛び出していた。
もっとも銃撃による骨折はまだ完治しておらず車椅子の生活を余儀なくされているが、本人曰く牛乳を飲んでいればそのうち骨がくっつくらしい。
「また新手の能力者ってヤツかいな?」
「その線が妥当」
「まったくこの島に住んどると退屈せんわ」
美遊はそう苦笑した。
―マン・ホール島、とある路地裏―
「くっ。何で能力が発動しないっ!?」
一人の男が恐慌状態に陥っていた。彼の電撃を操る能力を持っている。 その能力で目の前のチンピラ風情の男達をスタンガンよろしく気絶させる。
そのつもりで先ほどからいつものように能力を発動させようとするが、肝心の能力がどうやっても発動しない。
「ハーハッハッハ無駄なんだよ!」
男達の一人が哄笑し、取り囲まれた一人の能力者の男がかざしてた手を足で蹴飛ばす。
「ぐっ」
なんの能力も有していなさそうなチンピラ風情の男共に対し、能力が発動しないことで一方的にやりこまれている。能力者の男には恐怖よりも驚愕が優っていた。
「オラッ」
後ろから別の男に背中を蹴飛ばされ、能力者の男は路地裏の水溜りに頭から突っ込む。
能力者の男はそのまま為すすべもなくチンピラ風情の男達にリンチされた。
一人の能力が使えない能力者の男を複数人で暴行した男達はもう飽きたのか暴力の手を止める。
しかし、その頃にはもう能力者の男はボロボロになり意識が朦朧としていた。
「ハッ。散々俺たちを馬鹿にしてた能力者のクソ野郎がざまあねぇや!」
男の一人が哄笑する。
「じゃあラストにボスの作った曲「記憶の消失」聞いてもらおうか!」
男は意識の朦朧としている能力者の耳元に携帯音楽機を置き、スイッチを入れた。
能力者の男の意識はそこで遮断され、目覚めた時には何故自分が無能力者のチンピラ共に遅れを取ったのか、細部の記憶が曖昧になっていた。
哀原雪は学校帰りでスーパーマーケットを目指し急いでいた。今日こそはタイムセールの激安卵を手に入れる。
前回は美遊に妨害されてしまっていたが、今回は美遊は強盗事件の際の怪我で車椅子生活。今日はジャマされまい。
雪の足は自然と早くなり、普段あまり使わない路地裏をショートカットの為に使った。
しかし、それは大きな間違いだった。
「おい姉ちゃん。そんなに急いでどこにいく?ちょっと俺らと遊ばな~い?」
いきなりガラの悪そうな男達に声をかけられてしまった。
「なんですかあなたたちは?」
雪は問う。
男達はニヤニヤと笑いながら雪を取り囲み近づいてくる。手にはスタンガンや鉄パイプなど色々な武器をもっている。
「ヒャハハハハー」
男達の中の一人がスタンガンを構え、雪を昏倒させようと襲いかかってきた。その表情は狂的な笑みが貼り付き、大きく哄笑した口元から涎が出ている。
「・・・っ」
雪はそれを躱すと男の脇腹に手をあてる。
「!?」
男は雪に襲いかかった体制のまま脇腹から凍りついた。
「ヒューさすがは能力者サマだぜ」
残った男達は逃げず、その中の一人が口笛を吹く。
「どうしていきなり襲いかかってくるんですか?」
雪は再度問う。
「なんで襲いかかってくるかっだって?俺たちはなァ俺たち無能力者を馬鹿にする能力者共が許せねぇんだよ。あと女子高生を拉致ってオモチャにしたいってのもあるけどなァ?」
男は舌なめずりしながら言った。捕食昆虫めいた眼がランランと狂気をたたえている。
雪はゾワっとした生理的悪寒を覚えた。
「さっきの見なかったんですか?残りのあなた達も冷凍保存して警察の人に引き取ってもらいます」
「それはお断りだなァ姉ちゃん。まぁ落ち着いて話そうや。音楽でも聴きながら」
そういうと男は携帯音楽機を取り出し、スイッチをいれる。
「・・・? 音楽なんて流れてこないじゃないですか?」
男の出した音楽機器からは何も聞こえてこない。雪は半ば呆れて問う。
「コレでいいんだよ。今素敵な周波数が姉ちゃんの聴覚を刺激してるんだろうからよォ」
そういうと男はスタンガンを手に持ち襲いかかってきた。先ほどと同じようにスタンガンの一撃を躱し、男の脇腹に手を当てる。
男はその体制のまま、凍りつく・・・筈だった。
「なんかしたかァ姉ちゃん?」
男は卑しげな眼で雪を補足すると、雪の胸元にスタンガンを押し当てた。
「!?」
雪の制服のボタンが飛び、雪の全身に電流が走る。雪はその場に崩れ落ちた。
「ヒャーハッハッハざまあねぇなァ能力者さんよぉ!」
男は哄笑する。
まともにスタンガンの電流を浴びた雪は指1本動かせなかった。恐怖が体を支配し、汗が滲んでくる。
「さ~てと、んじゃコイツ持ち帰ってお楽しみしようぜ」
男は獲物を捉えたボス格のハイエナの如く周りの男達に指示した。
その時、鈍い衝撃音を残して男は壁の方に吹き飛びめり込んだ。
「オッス哀原。なんか不味い状態になってんじゃねぇか?」
早坂だった。
「は・・・や・・さかく・・ん?」
雪は電流であまり自由にならない口で途切れとぎれに言った。
「帰り道のショートカットしたらなんだこの状況は?」
早坂は周りにいる男達を見て言った。
「邪魔すんじゃねぇよクソが!」
残りの男達が襲いかかってきた。
早坂は鉄パイプを振りかぶった男の一撃を躱すとその男の腹にボディブローを決める。男は悶絶して地面に倒れた。
反対側からもうひとり男がナイフを握って襲いかかってきた。
「フン」
早坂は左手をかざし、ナイフの一撃を受ける。ナイフは強化された早坂の左腕の皮膚に跳ね返され刃こぼれすら起こす・・・筈だったが、ナイフは早坂の学生服の袖の上から早坂の皮膚を貫く。
「!?」
「バカがっ!」
ナイフを持った男は嬉しそうに笑うと左足で早坂の脇腹に蹴りを入れようとする。
それを早坂は右腕でガードするが、男はナイフを振り回して襲いかかってくる。
「なんで能力が発動しねぇ・・・?」
早坂は男の攻撃をかわしながらも呟き、連撃の合間を縫って右足で男の腹に蹴りを入れた。男はナイフを取り落とし、悶絶して地面に倒れた。
早坂は自分の左腕を見る。いつもなら能力で血液が傷口に集まりすぐに瘡蓋ができるという人並み外れた再生力ですぐに怪我が完治するのだが、血はとめどなく溢れてくるばかりで一向にふさがらない。
「はや・・・さか・・・く・・ん」
見ると雪は自由にならない口でそれでも目で何かを訴えかけてくる。
目線の先には始めに吹き飛ばして壁にめり込ました男が気絶しており、その付近に落ちている音楽機を指している。
「?」
早坂はその音楽機を手に取る。音楽機からは何も流れていないが、再生モードに入っており何かを再生している。
早坂は停止モードを押した。
すると早坂の左腕は能力を思い出したかのように再生を開始した。
「どうなってるんだコリャ?」
早坂は呟いた。
その時だ。
「俺の舎弟共がずいぶんお世話になったみてーじゃねぇか?」
身長170cm、黒髪で全体的に黒めの服を着たホストのような出で立ちの男が立っていた。
「なんだてめーは?コイツらの兄貴分ってところか?」
「あぁそんなところだ。ここまで俺の可愛い舎弟共をいたぶってくれたんだ。少々痛い目じゃあ済まねぇぞ?」
「てめーらこそ、女相手にここまでするたぁ。てめーもギッタンギッタンにして務所送りにしてやんよ」
「一応、名乗っておくか。俺は黒城秀俊。お前は?」
「・・・早坂一哉だ」
「そうか早坂。悪いがケーサツ共が来る前に終わらせてやるよ」
黒城は左手をポケットから出した。
「音楽室」
黒城はパチッと指をならした。その音は路地裏に響き渡った。
「俺の能力の一つサウンド・ルーム。さっきの音の音波が届いた範囲内ではどれだけ騒音を出そうが外部に漏れることはない」
「なんだと・・・?」
「音響手榴弾!」
黒城は指を背後の路地裏を挟む壁の方に向けて指を鳴らした。
すると背後の壁が爆発し、瓦礫と化して狭い路地裏に降り積もる。
「つまり逃げ場はねぇって事だ」
黒城は暗い瞳で早坂を眺めて言った。
「ふざけろぉ!」
早坂は黒城に突進した。
「音響手榴弾!」
「ぐわっ!」
早坂の目の前の空間が爆発した。
「音響地雷原!」
今度は地面がボコボコと隆起しだし爆発する。
「!?」
早坂は横に飛んで爆撃によるコンクリート塊などを回避する。
近づくことができない・・・。早坂は黒城という男を冷静に分析していた。
その時、カチャリと音がして首筋に何か冷たい物が押し当てられている感覚がした。
振り向くと藍色の瞳と目が合う。
早坂の首筋に突きつけられているのは拳銃。
その拳銃を握るのは少女で、身長140cm、ウサギの耳のついたフードを被り、青いウェーブががった髪、下はミニスカートを履いている。表情は乏しく、虚ろな青い瞳が早坂を見据えている。
「「動かないで下さい」」
声の発生したのは少女が拳銃を持つ手とは逆の手に持った携帯端末からだった。本人はまったく口を動かしていない。
「なんだよすみれ?今いいとこなんだ邪魔するなよ」
黒城は不満そうにぼやく。
「「そうはいかないわお兄ちゃん。いくらこの一帯の音が消せてるからって、さっきの爆発の衝撃を不審に思った近隣の住民が警察に通報したわ」」
すみれは携帯端末を操作している。その表情は一向に動かない。
「「警察の人達が来る前にずらかるわよお兄ちゃん?能力者じゃない人も無闇に傷つけたくないわ」」
「チッわかったよすみれ。おい早坂ァ。この落とし前は後日きっちりつけさせてもらうから覚悟しとけよ?」
すみれは携帯端末をしまい、代わりに何かボール状の物体を取り出すとそれを地面に投げつけた。
ボール状の物体は地面に当たると壊れ、中から白煙が立ち込め、辺り一帯を覆った。煙玉だ。
「くっ何だコレ!?」
煙が収まった時、そこに黒城の姿もすみれという少女の姿も倒れていた男達の姿もなかった。
「畜生!何なんだアイツら!?」
早坂は壊れた煙玉を蹴飛ばし叫んだ。
「早坂君・・・」
見ると雪がまだ地面にへたりこんでいた。
「悪いですが、体が動きません。家まで送ってもらえませんか?」
雪はやっと自由になったらしい口で申し訳なさそうに言った。若干俯いて顔が赤くなっている。
「しょうがねぇな」
早坂は雪をおぶって雪の家に向かった。
その途中。早坂は黒城という男とはきっとまたすぐ闘う事になるだろうと予感していた
キャラ紹介は次回。