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Efectors-エフェクターズ  作者: STTT
能力犯罪編
19/87

能力犯罪(良壱ver)4

「たく、大馬鹿野郎。はぁ」 


 前髪を手で掻き上げながら、気を失った楓を肩に担ぎあげる良壱。まだ脇腹のダメージは癒えていない状態だが、彼女が再起動する前に彼女を操る能力者を見つけ出さねばいけない。良壱の目的は、楓を倒す事ではなく彼女の救出なのだ。


「ん? こいつ香水なんか使ってたか?」


楓の体を抱き上げて、肩に担いだとき、極限まで強化された5感が違和感を訴えかけてきた。そこで良壱は思案する。この香水は先程2階で待ち構えていた男と同じ香りだと。

だが彼の知る楓は、化粧などはしていない。それが凄く引っ掛かった。


(もうひとつ、香水の出所のような臭いがする……)


5階の大きな会議室にて、楓と犯人の両方と共通の臭いを発する人物は、人質の中にいる。それ即ちなんらかの関係者であるということだ。良壱は嗅覚を強化しながら怪しい人物を探る。掴まった草子や美遊含め30人以上人数がいる中で一人を探るのは中々に骨が折れる。


 さらに強度を上げるかと楓を抱え直すと、彼の制服の裾を何かが引く。咄嗟にその存在を殴りそうになるも正体を目視した段階で拳を止める。拳の先には、大変おびえた表情をした少女が震えながら、彼の裾を掴んでいたからだ。


「ひっ」

「ごめん。また銃を持った奴かと思った。君は人質か?」


 敵でないために戦闘態勢を解く良壱。楓を抱えたままだが腰をおろして少女の目線に合わせる。彼女は気絶した楓をオロオロした目で見ながら、良壱に応える。


「う、うん。怖いお兄さん達が、急に。そのお姉ちゃんが助けてくれたんだけど…」

「そうか、怖い思いしたな。怪我とかは無いか?」


 良壱が少女を気遣うと、少女は涙を流しながら彼に飛び付き、泣きはじめる。それに対してよろけそうになるも少女を抱き上げる。すると少女は、涙で目を濡らしながらも彼と目を合わせて、呟いた。


「お兄ちゃんも、お姉ちゃんと同じく、私達の味方してくれるよね?」

「え?」


 口角を上げながら良壱の頬に触れ、怪しい言葉を発する。彼女は今の状況に笑みをこぼさぬ努力は無駄だと察していた。少女は笑わずにはいられない。何故なら、この計画の歩とんのが彼女の思う通りに運んでいるのだ。


 先程傀儡にした生徒会副会長の少女すら凌駕した少年。正直生徒会長かもう一人の副会長が現れると思っていたが、彼は彼で貴重な戦力とんるであろうと幼い見た目に相応しくな考えをめぐらす。


「うふふん。本当に学生は優しい子が多いわね」


 少女は高笑いしがら良壱に抱えられたままで、彼の髪を撫でる。だが良壱は動かない。何故なら少女こそがこの事件の黒幕であり、真の実行犯であるからだ。見た目は完全な少女だが、その眼の奥に宿る悪意とどす黒い感情が渦巻いていた。 


「本当に便利、私の【洗脳】は。うん、この坊やはかなり好み、またいいコレクションが増えたわ」


 少女は、くすくすの自分の能力の優良さを噛み締め、新たな命令を良壱(奴隷)に告げようとした。彼女の能力は、相手の体に触れ、相手の目を見ながら命令を下す事でその人物を操れると言うポピュラーだが強力な能力だ。彼女の力は、掛けた相手が洗脳されているとは気付かず、むしろ彼女たちにとって都合のいい自己解釈をするので裏切られる事や洗脳に逆らわれる事は通常あり得ない。


 しかし、彼女の予想に反して動いた存在がいた。


「きゃ! いた、いたたた。手を、手を離しなさい!!」


 少女が命令を下すより先に、良壱の掌が少女のこめかみを掴んで片手で持ちあげる。突然視界を奪われ、こめかみを万力のような力に締めあげられる。その鈍くも強まる刺激に耐えきれなくなり、小さな手で彼の手を掴んで引き剥がそうとし、短い脚で彼を蹴る。だがその程度の攻撃で良壱がダメージを受ける事は無い。


「なんでなんえ! いたいたい、なんで私の命令を」

「悪かったなお譲ちゃん。いや、見た目に反して俺より結構年上なのか? 思った通りの洗脳能力者だったな。」

「私の正体まで!」


 腕に力を込めて能力者である少女を完全に無力化する。痛みでもがきながら、どうにか脱出しようとする少女に向けて良壱は応える。


「お前が能力者だと気がついたのは、香水の匂いだ。楓と下にいた男から同じ匂いがし、この部屋にもその匂いが充満してる。強化した俺の嗅覚は犬以上でな、このフロアの中で最も香水の匂いが濃いのがアンタだ」 

「ち」

「小学生低学年で明らかに大人が好む薔薇の香水を掛けてる段階で怪しい。まぁ親の化粧品を悪戯で使った路線も考えたが、アンタ俺と楓が戦っている最中、ずっとこっち見て笑ってただろ? 上手く隠れたいならダダ漏れの感情を押さえる術でも磨け」

「ちくしょう! けど私の能力は確かに貴方にかけたはずなのに うわあああ.こ、これで」


 再び力を込める良壱。遂に我慢が効かなくなったのか少女?は、なり振り構わず暴れ、ポケットに隠し持っていた注射器を良壱の腕に突き刺す。それは草子のバックからくすねておいた麻酔。


「悪いが俺には、麻酔は効かない。免疫を強化すれば問題ないからな。後、俺は お前の催眠術にかかる前に自分自身にルーティンで集中力を極限まで高め、楓を救うという自己暗示をかけた。お魔前がどういう条件で能力を使うかわからないからな。故に俺には最初の命令以外、洗脳も催眠も意味をなさない。

 さて楓に掛けた催眠を解いてもらおうか?」

「ふざけんな! こうなったら人質全員利用して」

「俺の父親は、お前と似たタイプの能力者でな。対処法は大きく二つあるんだよ。殺す事で能力を解く方法と別の能力に解いてもらう方法のな」


 まさか目の前の男は自分を容赦なく殺すつもりなのかと今更ながら恐怖に震える。さらに良壱の言う通り麻酔を刺しても効果が表れない。さらに良壱は、少女を掴んだ手を大きく上に上げ、勢いよく床に振り下そうとする。少女の体が怪力で地面に叩きつけられれば、即死は免れない。


「や、やめろ! SKS学院の生徒か人を殺すのか? それに私を殺しても催眠は解除できなし、他の奴にだって」 

「けどお前解除しないだろ? じゃ殺しておいた方が楽だわ」

「いやぁああああ」


 迷いなくフルスイングした良壱に少女は、悲鳴を上げ本気の鳴き声を上げながら、床に当る直前に気失う。それを確認した良壱が少女の体を持ち上げ、直撃を回避する。かくりと力が抜けて白目をむいた少女を片手で荷物のように持ちながら楓を見る。

 心なしか寝顔が安らかになり、先程まで呻きもしなかった他の人質も少し身じろぎし、意識が戻り始めている所を見ると能力は解除されたようである。おそらく人質全員にも催眠をかけておき、手駒として利用する算段だったのだろう。


「とりあえず、これで終わったのかな? つっかれたー」


予想する限りの敵を倒した良壱はそこでようやく息を着く。片膝をついて肩で息をしながら治癒能力に強化を全てまわして回復に専念する正直、催眠術師が人質を使って攻撃してきた場合、良壱はスタミナ切れで死ぬ前に最悪何人か殺す事もあり得たのだ。だが自分から飛び込んできたお陰で被害を最小限にする事が出来た。  


「まったく不束さんは、困った人ですね」

「っ!?」


 催眠能力者の少女を床に下ろした時、さっきまで誰もいなかった背後に人が現れ思わず良壱は前に跳ぶ。強化を解除していない彼は5感も強化されているのに関わらず、後ろに現れた銀髪タキシードの男が現れるまで認識できなかった。

 良壱が距離をとると銀髪の男は、床に転がる少女を良壱が楓を担ぐのと同じようにした。そして、男は良壱を紫色の目で見る。


「!?」


 ただ、見られただけで悪寒が走る。これはヤバいと本能が全神経を瞬時に活性化させた。すぐに治療を止めて、楓を床に下ろし良壱は走った。徐々に強化するのではなく見る限りの限界突破。一撃必殺での先手必勝。それ以外に今の良壱が目の前の男に勝てる策はない。


スタートからトップまで瞬きする間に加速した良壱は、強化が間に合っていない筋肉や骨が悲鳴をあげるも無視して手に持つ石礫を指で弾く。

弾丸となった石礫は、男に向かって飛ぶが男が指先をそれに向けると指先から出た閃光によって石礫は消滅する。閃光は石礫を貫通し良壱の右肩を貫く。


「ぐっうぉおおお」


だが、良壱は、止まらない。すでに自分は打ち出された弾丸。トリガーを引いたのは自分。反撃を受けた程度では止まれない。痛みを置いてきぼりにし、男との距離を積めて渾身の左ストレートを放つ。筋肉が断裂し血管が破裂してもなお放った本気の拳である


ドォオンとフロア全体が震え、床や天井、壁に罅が入る。だが、良壱の拳は男に届いたものの……男が突きだした掌に受け止められていた。


「冗談キツイぜ」

「驚いたな。これ程までに強力な能力者がまだ無名だなんてね。私の攻撃を食らっても向かってくる覚悟、素晴らしい」


良壱の拳を受けたのにも関わらず、10センチ程彼を後退させるだけであった。男は限界突破の副作用で体の修復優先のため動けない良壱を見下ろし、驚いた顔で賞賛した。


「くっ」

「どうやら下の方でも驚くべき事が起きているようだ。それにどうやら時間もないらしい」


スタミナが切れその場に膝立ちになった良壱。そして何やらブツブツ言い始め最終的に良壱目掛けてアッパーを決めた男。

「がはっ」


良壱程ではないが人間離れした腕力で顎を討ち据えられ、吹っ飛ぶ良壱。壁にぶち当たったのを確認すると男はこう言い残して閃光を放ち消える。


「また会いましょう。今回は我々の負けのようなので次回のために準備してきます。そうだ此は言っておかないと……SKS学園の生徒さん方、我々は『選ばれし者』。我々は数十年の月日を越え今再び蘇ったと」


「化け物が」


殴られたダメージが抜けない良壱は、逃げる男を追えずに這うように動き楓のとなりでスタミナの回復に勤めた。身動きがとれなくとも楓を守るために、意識がもうろうとしながらも……。


その後、事件に遠方から駆けつけた副会長と警察が救援に駆けつけ良壱含む学園生徒と銀行内の人質を救出することで銀行強盗事件は謎や手痛い代償を孕んだまま終結した。

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