第7話 朝練と密会?
翌日、俺はいつものように朝早く家を出た。朝練のためである。俺は1年生だが次の大会ではベンチ入りを本気で狙いに行こうと考えている。2・3年生もいるためかなり競争は激しくなる。そのために自分のレベルアップを図ろうとこうして毎朝早くから練習に来ているのだ。
まだ少し肌寒い季節なので、アンダーシャツを着ているが下は動きやすいようにハーフパンツなので風が冷たい。少し急ごう。俺は軽く走りだした。ゆっくりと体があったまっていく。学校までは歩いて25分。少し遠い。だが、体力をつけるためにあえて自転車ではなく徒歩で登下校している。
10分ほど走り、学校に着き、急いでアリーナに入る。最近の練習メニューはアウトサイドシュートだ。入部初日にやったあの練習試合で、俺が中等部で通用するためには、確率の高いアウトサイドシュートが必要だと強く実感した。中等部では体格差がかなり顕著になっている。ここでインサイドからしか得点できないのは155cmの俺にとって致命的だ。だから、何としてもベンチに入り試合に出るためにはアウトサイドの正確性が大きなカギを握る。
軽くストレッチしたのち、マイボールを出す。貯めていたお小遣いをはたいて皮の公認球を中等部入学に際して買ったものだ。軽く走りながらドリブルしてレイアップを決める。うん、体はあったまっているようだ。ボールを拾いフリースローラインのあたりに移動する。この付近からのシュートを確実に決められるようになりたい。膝を曲げ、ボールをゆっくり額の上あたりに持ち上げる。もちろんワンハンドだ。軽くジャンプして俺はシュートを放った。
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私――リサ・マグレイディは実は生徒会役員だったりする。初等部のころから何かとこういう仕事を任されることが多かったため、中等部でもやってみようと思ったのだ。そして今日は昨日生徒会の先輩に任された仕事を早めに終わらせてしまおうと、学校にかなり早く来ていた。仕事の内容は、備品の確認。各部活の備品が一年の最初の段階でどういう状況かをチェックするものだ。
まずは外部活。屋外の用具庫をチェックする。さすがにこの学校はスポーツ校だけあって体育会系の部活の数が多い。屋外だけでもかなりの数がある。
何とかチェックを終え、今度はアリーナへ向かう。屋内の部活の備品のチェックだ。まだこの季節は少し肌寒いので、早く終わらせてしまいましょう。
アリーナの扉を開けようとすると、中からドン、ドン、という低い音が聞こえる。バスケットボールをつく音。こんな早くから朝練かしら?中を見てみることにする。引き戸を開けると、そこにいたのは同じクラスで隣の席のジム・ウェルフォードだった。
彼はこっちに気がついたようで。練習の手を止めこっちに来た。
「あれ?ずいぶん早く学校に来るんだね。どうしたの?」
「生徒会の仕事よ。あなたこそ、ずいぶんと早いのね」
「ああ、朝練だよ。今度の大会ではベンチに入りたいしね。毎日来てるんだ」
彼はニッコリ笑って答える。
「部活の(・)ほうは(・・・)ずいぶんと熱心なのね」
私はかすかに皮肉交じりに答える。しかし、彼はそれに全く気付かないようだ。
「あ、そう言えば昨日のタオル返さなきゃ」
そう言うとジムはカバンをごそごそと探る。そして昨日私が彼に投げつけたタオルを出してきた。実は結構お気に入りのものだったので、あの後気にしていたのだ。
「あ、ありがと。というか今度は部室で着替えなさいよ」
なんとなく昨日のことを思い出してしまう。ジムは初対面から小柄だというイメージが強かったが、昨日見た彼の背中は思ったよりずっと筋肉がついていて引き締まっていた。かなり鍛えているのだろう、まだ1年生なのに、なんだか彼が大人びて見えた・・・じゃなくて。
ほんのり頬が火照るのを感じながら、踵を返し、私はアリーナをあとにした。あ、備品チェックしてないな・・・。またあとで来なくちゃな・・・。