第6話 サービスシーン・・・?
俺、ジム・ウェルフォードは、ポイントガードというポジションのプレーヤーは絶対に身に着けていなければならないスキルがあると考えている。それは、パス回しの技術だ。何を当然のことを、と考える人もいるかもしれない。だが、パスというのは実はかなりの技術が必要なのだ。
まず、パスを受ける相手を見つける力。パスはシュートと違ってターゲットが意思をもって動いている人間なのである。だから、そこを通すにはパスを受ける選手との意思の疎通が何より大切だ。また、ポイントガードは状況に応じていくつものパスを使いこなす。この時ワンパターンになってしまえばインターセプト(奪取)される危険も高まる。バスケではとにかくポイントガードのターンオーバーは厳禁だ。試合の流れを決定的に悪くする。
そして俺が最も重要視していることは、余裕を(・)もって(・・・)パスを通すことだ。なぜギリギリのところで通すのではだめなのか。これは前述した項目とかぶる部分があるのだが、ターンオーバーを避けるためが一つだ。ギリギリの綱渡りをいつまでも繰り返していると、いつかミスが出る。このミスをいかに減らすかが試合状況を大きく変える。そしてもう一つは、相手と味方に与える心理的影響である。ギリギリで余裕のないプレーをしていると、相手は自分チームが押していて優勢であると感じ、逆に自分のチームは押されて圧倒されていると感じるのだ。
試合では各プレーヤーの心理的状況がそのプレーヤーのパフォーマンスを大きく左右する。つまり勝っていると感じればプレーに余裕が生まれ、体から余計な力みが取れ、パフォーマンスがよくなる。逆もまたしかりだ。これが「試合の流れ」と呼ばれるものである。試合の勝敗はかなりの部分この「流れ」に左右されている。逆に言えば流れをいかに掴むかがキーポイントなのだと俺は考えている。
今日の練習の2on2でもそれを意識してプレーしていた。プレーの後、グレッグ先輩と監督が話しながらこっちを見ていたのが見える。今の2on2で使ったフェイクに気づいたのかもしれない。今回使ったのは傍から見ても気づかないようなフェイクだ。相手チームに対策を立てられないためのテクニックでもある。もし一回見ただけで気づかれたのなら、改良する必要があるかもしれない。
部活の時間が終わり、帰ろうと鞄を取りに教室に戻った。もう結構な時間だ。他のクラブもほぼ終わっていたようで、教室には誰もいなかった。なら丁度いい。一度部室に戻って着替えるのも面倒だ。シャツだけでも替えてしまおう。
と、その時、教室のドアがガラッと開いた。顔をあげてそっちに目をやる。リサだった。
「ちょっとあなた・・・!何教室で脱いでるのよっ!部室で着替えなさいよっ!」
目を吊り上げてリサが叫ぶ。頬がほんのりと赤くなっていた。
「ああ、戻るのがめんどくさかったんだ。大丈夫。もう着替え終わるところだよ」
「そういう問題じゃないっ!それになによ、めんどくさいってっ!」
リサが俺の頭にタオルを投げつける。そしてそのまま呆れた顔でさっさと帰ってしまった。
家に帰ると、俺は真っ先にシャワーを浴びる。クラブではかなりの量の汗をかくため、、シャワーは欠かせない。シャワーからあがると、ストレッチだ。これはどのスポーツにも言えることだが、体の柔軟性はそのスポーツをする上で非常に大きな武器になる。また、体が柔らかいとケガの予防にもなる。実はこのケガというものは非常に恐ろしい。とくにプロ選手などは体重が重いことも多いためちょっとしたはずみに大怪我を負う可能性が高い。このとき体が柔らかいとケガをする確率が格段に下がるのだ。
ストレッチを終え、宿題でもやるかと思いカバンを開ける。すると、カバンの中に見慣れないタオルが入っていた。不思議に思い、誰のだったかなと考える。
「あ、あの時か」
そうだった、教室で着替えていたときにリサに投げつけられたものだった。明日返さなきゃな・・・。
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