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勝利の絶対条件  作者: 高原 朝穂
中等部編――勝利への鍵――
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第2話 中等部最初の試合1

 アンドリューとキャプテンのグレッグ先輩のジャンプボールから試合が始まった。キャプテンが競り勝ち、三年生PGにボールが回る。1年生は即席のチームのため、ディフェンスは相手一人につき味方一人がつくマンツーマン・ディフェンスだ。マンツーマンにはコート全域まで守備がつくフルコートマンツーとコートの自ゴール側の半分の範囲でつくハーフコートマンツーとがある。今回行うのはもちろんハーフコートマンツーだ。序盤からフルコートでつくのは体力的にもきつすぎる。

 俺が三年生PGにつくと、三年生PGはボールをゆっくりキープしながらこっちを見ている。身長は170cmほどだろう。試すつもりだな、と直感的に感じる。ならば、受けて立とうじゃないか。

 三年生PGはゆっくり左右に切り返しながら迫ってくる。こっちも腰を落として少し引き、ドライブに備える。

 来た。テンポを変え、突如スピードを上げ右から抜こうとしてくる。おそらくこちらのスピードを測っているのだろう。だが、こっちもスピードには自信がある。

 ぴたりと正面につき、その動きを観察する。ふむ、次はどうくる?俺はその眼をじっと見つめる。三年生PGはちらっと一瞬右を見る。だがこれは間違いなくフェイク。その証拠にボールの右側に手が添えてある。この姿勢で右から抜きに来るのは無理だ。狙いはおそらくクロスオーバーで左に切り返すことだ。

 だが、甘い。おそらく一年生相手だということで油断しているのだろう。フェイクをかけ、相手を抜き去ろうという瞬間、それはまさにディフェンスにとってはスティールを狙うチャンスでもあるのだ。

 案の定彼は左に切り返した。よし、これならいける。切り返したボールが左手に移る瞬間、俺は飛び出しボールを奪った。

 ポイントガードのスティール。それは試合の流れを失う典型的なターンオーバーの一つだ。その理由は2つ。1つはパスの供給点であるPGがボールを取られると、ボールを安定してチームで回すための流れが断ち切られ、他の選手がボールを触ることなくオフェンスが終わってしまうこと。そしてもう一つが、まず間違いなくファストブレイク、速攻を食らうことが確定するためである。

 速攻には、他の得点とは異なる点がある。それは自分のチームに勢いを与え、流れを引き寄せることだ。試合には流れがある。どんな偉大な選手でもチームの流れが悪ければ、シュートの成功率は下がる。逆に、流れが自分のチームにあるのなら、どの選手もシュートの成功率は上がる。バスケでは野球のように攻守交替制もなければサッカーのような得点の少ないスポーツでもないので、流れの影響が顕著なのだ。

 俺は一気に無人の相手コートを駆け、レイアップを決めた。


 一年生にスティールされ、さすがに真剣になったか、今度は隙がない。さすがはそれなりの強さを誇る中等部のチームだ。俺はスティールを諦め、抜かれないようにすることに専念することにした。

 三年生PGはどうやらドライブではなくパスで攻めるようにゲームプランを変えたようだ。俺がかなり引いて守っているためだろう。となるとアウトサイドシュートはそれほど得意でないのだろうか。

 三年生PGは高い位置に出てきたグレッグ先輩にボールを回した。グレッグ先輩が頭の上でボールをキープする。周りの先輩達もそれほど驚いていないようだ。つまり長身センターのグレッグ先輩はパスの供給役にもなれる、いわゆるポイントセンター(PC)などと呼ばれるような役割もできるのか。万能だな、グレッグ先輩。

 グレッグ先輩は2年生SGの先輩に高い位置でボールをもらった。グレッグ先輩がペイントエリア(インサイド)に戻る。そしてすぐさまそのグレッグ先輩にボールを入れる。

 グレッグ先輩をインサイドに一人残すような形でほかの相手プレーヤーはアウトサイドよりに動いた。アイソレーションだ。傑出したプレーヤーがいる場合にとることの多い戦法だ。一人のプレーヤーにボールを持たせ、その他のプレーヤーはその周りから離れるように動く。つまり、グレッグ先輩は相当信頼されているのだろう。

 グレッグ先輩がペイントエリアでポストアップする。インサイドで相手に背を向け背中で押し込んでいくポストアップはボールも取られにくくそこからフックシュートなどにも派生させることのできる、パワータイプの選手に向いているプレイだ。あれだけサイズのあるアンドリューが押されている。そしてそのまま体をうまく預け柔らかくシュートを沈めた。

 うまい。パワーや高さもあるが、それに加えて柔らかさとうまさを兼ね備えている。全国的にもなかなかのセンターなのではないだろうか。

 ゴールが決まり、アンドリューからボールをもらう。三年生ポイントガードのチェックが厳しい。ここはパスを回して相手の出方を窺おう。

 ペイントエリアでジョシュがボールをもらおうとしているが、そこはチェックが厳しい。高い位置にいるトーマスにボールを入れる。さあ、トーマスはどんなプレイを選択してくるのだろうか。

 トーマスがスクリーンを要求している。自分のマークを引きはがすために用いられるスクリーンは、味方プレーヤーがボールを持ったプレーヤーの前で壁となる、というもので、バスケの基本戦術の一つである。スクリーナーがディフェンダーの動きを止めることを「ピック」というが、ピックした後スクリーナー自身もペイントエリアに切れ込んでボールをもらう「ピック&ロール」につなげることができ、シンプルだが非常に強力な作戦である。

 ジョシュがピックに行く。サイズのあるジョシュに二年生のSFが引っかかりトーマスのマークが外れる。その隙にトーマスは一気にペネトレイトする。が、すぐに三年生PFがスイッチする。三年生のPFはサイズこそそれほど大きくはないが、スピードがある。トーマスも苦しそうだ。そして、トーマスがいったんボールを後ろに切り返したその時、トーマスの手から不意にボールが消えた。

 2年生のSGの先輩だ。なぜこんなところにいるんだ?俺は頭をフルに回転させる。相手ディフェンスはマンツーマンだ。それにもかかわらずトーマスにダブルチームに行けたのはなぜだ?フリーの選手が出るはずだ。そこまで考えて、答えがわかった。なるほど、こっちのSGはマイク、初心者だ。フリーにしてもそれほどの脅威ではない。

 それほど高い位置のスティールではなかったからだろう。俺とトーマスが戻っている。相手方のファストブレイクで2on2の形だ。それにしてもトーマスは足が速い。スティールされてもすぐに追いついている。

 相手方は二年生SGと二年生SFのコンビだ。俺はSFに、トーマスはSGについている。さあ、どうくる。

 二年生SGがSFにパスを出す素振りを見せる。来るか。俺はパスカットのためにSFの前に手を出す。トーマスもパスコースをふさごうと体を寄せていく。

 次の瞬間、二年生SGが大きくトーマスと逆サイドにステップを踏んだ。しまった、フェイクだ。そう思った時には、二年生SGは大きくジャンプし、柔らかなタッチでレイアップを沈めていた。


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