第1話 中等部入学
ついにこの時が来た。俺は高鳴る鼓動を抑え、そっと足を進める。中等部入学。ずっとこの時を待っていたのだ。湧き上がる歓喜に思わずほほが緩む。もちろん俺が楽しみにしていたのは高度な授業などではない。バスケ部である。リチャード国立教育機関中等部。全国に数ある中等部の中でも、中堅と強豪の間、という評判を持つバスケ部のある学校である。
本当のことを言えば、もっとバスケ部の強い高校に行きたかったが、学費の関係で家から通える範囲の学校しか選べなかったため、この学校に進学することにした。まあ、ぶっちゃけた話をすると、初等部6年生の最後の大会で初戦敗退という結果に終わってしまったため、奨学金の出るスポーツ校から推薦が得られなかったというのが大きい。
それでも十分だ。バスケさえできればいい。俺はそう考えている。
入学式がやっと終わり、部活勧誘の時間である。そこそこのスポーツ校なだけあって、運動系の部活が多い。俺はもちろんバスケ部へ直行した。
「すいません、入部希望者なんですけど」
そうバスケ部の人に声をかけると嬉々として振り向いたその先輩であったが、俺の姿を認めると、あからさまにがっかりしやがった。おい、失礼じゃないか。
「ああ、この紙に名前書いて提出してくれ」
そういうと、その先輩はさっさと次の勧誘に行ってしまった。
まあ、無理もないかも知れない。俺の身長は155cmしかない。バスケットをやる上で、身長はとても重要なのは間違いない。
まあいい。そんなことよりもバスケ部に入部できたのだ。それで十分だ。俺は自分に言い聞かせる。もう癖になった行動。欲望は果て無いのだ。ならば早めに割り切るのが得策だ。
そんなことを考えていると、勧誘の時間がいつの間にか終わっていた。やばい、戻ろう。
次の日、学校の授業が終わるとすぐ、俺はアリーナへ向かった。今日が中等部バスケ部の記念すべき第一日目だ。気分が高揚してくる。
アリーナに着くと既に先輩たちが数人来ていた。早速声をかけてみるとその先輩が答えた。
「新入部員はそこに集まっていてくれ」
周りを見ると、すでに何人か新入部員が集まってきていた。なるほど、さすがスポーツ校。部活初日から新入部員が集まってくるのか。
十分ほどして、だいたい集まったと判断したのか、先輩が話し始めた。
「初めまして、バスケ部キャプテンの3年のグレッグ・ハワードだ。これから1年間、よろしく頼む」
キャプテンのグレッグ先輩は、とても背の高いナイスガイでした。おそらく、身長190cmに達しているのではないだろうか。おそらく、ポジションはセンター(C)だろう。背が高いだけでなく肩幅もがっちりしているため、パワーもあるのだろう。そして、グレッグ先輩が続ける。
「これからの大雑把なスケジュールを説明する。まず、大会の日程だが、6月に最初の大会がある。この大会に向け、ベンチ入りできるように練習に励んでくれ。2年生や3年生もいるので厳しい争いになるだろうが、可能性はある。大会では、まず地区大会の優勝、そして全国大会での1勝だ。これの実現のために、1年生は基礎練習とチームプレイの確認。2年生は戦術的な動きのマスターと個人技術の向上。3年生は高度なチームプレイや連携を安定してできるように頑張ってくれ」
なるほど、なかなか実践的な練習を行うようだ。
「じゃあ、新入部員のほうから一人一言ずつ自己紹介してくれ」
誰から話すか、1年生同士でちらっとアイコンタクトをとる。
「スモールフォワード(SF)希望のトーマス・ウィギンズっす。よろしくお願いするっす」
浅黒い肌の人懐っこい顔の男が先陣を切った。なかなか高身長だ。180cm弱といったところか。
「パワーフォワード(PF)希望のジョシュ・ウォーレスです。初等部4年からバスケをやってます。よろしく」
こちらも180cmほどの男だ。だがこっちはもっと横のサイズがある。髪を短くしていて、割といかつい顔をしている。かなりのパワーがありそうだ。
「センター(C)希望のアンドリュー・カズンズです・・・。一応経験者です・・・。よろしく・・・」
こいつは・・・。でかい。でかいぞ。190cmに達しているのではないだろうか。さらにこいつも横のサイズがある。中等部一年でこの体格か・・・。155cmの俺にとっては羨ましい限りだ。それにしてもこいつはなぜこんなに声が小さいのだろう。体のサイズとの釣り合いがとれていなさすぎる。
これで全員か?いやまだ一人いるようだ。こいつはなかなか身長が低くてひょろっとしているな。160cmくらいだろうか。
「えーと・・・、マイク・ロイです。初心者ですが、よろしくお願いします」
見るからにおどおどしている。まあ、仕方ないかもしれない。周りはデカい奴ばかりだ。まあ、俺という例外はいるが。
最後となった。俺の番だ。
「ポイントガード(PG)希望のジム・ウェルフォードです。初等部三年生からバスケを始めました。よろしくお願いします」
キャプテンが俺たちをぐるっと見回して言った。
「よし。じゃあそれぞれの現段階でのレベルを見るために、軽い練習試合を行いたいと思う。時間は20分チーム分けは、1年対2・3年だ。まあ、学年の差はあるが、練習試合なので気楽にいけよ」
そういってキャプテンは白い歯を見せる。さわやかな人だ。
そして、ついに俺の記念すべき中等部初の試合が始まる。