第11話 一人夜の公園で
水飲み場から戻ってきたジム君は、さっき友達と話していたときに束の間見せた表情を全く感じさせない、いつものジム君に戻っていた。そのことに僕――グレッグ・ハワードは安心していた。
さっきは驚いた。入学から1カ月、彼はいつも入学したてとは思えないほど落ち着いていた。その彼がはじめてのぞかせた表情、それはまるで放心しているように、怒っているように、泣いているように見えた。初等部を出たばかりの子があんな表情を見せるものなのか?
彼と話していたトーマス君も平常運転に戻った彼にホッとしているようだ。笑顔で会話を始めた。
さっきジム君たちが話しているときにちらっと聞こえた、クリスマストーナメント、という単語。バスケットは世界でも最も人気のあるスポーツのひとつなのもあって、学生バスケットの最大の大会であるクリスマストーナメントはバスケをしない人も知っているほどの知名度を誇る。
もしかしたら、ジム君はクリスマストーナメントで何かあったのかもしれない。負けた、それだけにしてはずいぶんとショックを受けていたようだ。
クリスマストーナメントの試合データなどはネットにでも落ちているだろうから、家に帰ったら少し調べてみようかな・・・。まあ、お節介かもしれないけどね。
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部活を終えて家に帰った俺は部屋にカバンを置くと、夕食の前にボールを持って近くの公園に向かう。もう外は暗くなってきている。この時間になると日中は人の多い公園もすく。この公園にはバスケットゴールがあるので、自主連のときには重宝している。
いつものように軽く屈伸をする。夜に近付いていることを肌寒い風が知らせる。でも、俺はそれを無視してボールをつかむ。フリースローラインまで来ると、そこで止まって軽く膝を曲げる。ボールは高く、柔らかく。初等部のときから意識していることだ。ボールは優しく接すれば、素直にゴールリングに吸い込まれていく。大丈夫、今日もしっかりシュートが決まった。最初のシュートというのは本当に大事だ。初等部に入ってミドルシュートを打つ機会が多くなって気づいたことの一つだ。最初のシュートが決まるとその後のシュートも驚くほど簡単に決まる。よし。今日も幸先がいいな。
30本ほどシュートを打っただろうか?だいぶ腕も疲れてきた。部活の後のシュート練習はなかなかにタイトなメニューだ。それでも俺は毎日この練習を欠かしていない。練習中毒のようだと言われていたケビン先輩がいつも言っていた。体力がある1・2・3クオーターにシュートが決まるのは当たり前。体力が切れつつあって、試合の勝敗を決める第4クオーターにシュートを沈めるのが一流選手なんだ、と。彼が大ファンだったWPBAプレーヤーの大スターは、勝負の決まるラスト数分でビッグショットを決めるクラッチシューターだった。俺もそんなプレーヤーになりたい、そう思ったのだ。その話を聞いた次の日から、練習後のシュート練習は日課になっている。
いったんシュート練習を止める。さすがに疲れた。ほてった体にすっかり日が沈んで冷たくなった風が気持ちいい。
少し欠けた月を眺めていると、不意にトーマスとの会話が思い出される。クリスマストーナメント。俺の4年間を全否定したあの大会。俺はかぶりを振り、頭からそれを追い出す。もう終わったんだ。振り返っても仕方がない。
なんだか、なじみ深いはずの公園で、俺は世界にたった一人でいるような感じがしていた。
なんだか最近暗めになってるかもしれませんが、ハッピーエンドですよー