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勝利の絶対条件  作者: 高原 朝穂
中等部編――勝利への鍵――
10/14

第9話 追憶

過去編です。少し短いです。

 「ナイスパスだったぞ!ジム!」

 SFのポジションのケビン・ウォール先輩が声を掛けてくる。

 「先輩こそナイスシュートでしたよ」

 笑って返すと、ケビン先輩は俺の頭をくしゃっと撫でる。

 クリスマストーナメント本戦の初戦、ケビン先輩の代の引退のかかった試合で俺たちは第三クオーターを22点差という大差で終えていた。

 今年のうちのチームは全国的に見てもかなり強い。クリスマストーナメントの予選でもケビン先輩と俺のコンビを原動力に順調に勝ち抜いた。中でもケビン先輩はどのポジションもこなせるオールマイティーなプレーヤーで、その得点力は同じ初等部の生徒とは思えないほどのものがあった。

彼の武器は一歩目の踏み出しのスピード、瞬発力にある。そのため一歩目の踏み出しが速く、オフボール(ボールを持っていない状態)の状態でマークを振り切りインサイドにカットしていくプレーを得意としているケビン先輩とパスの正確さを武器にしている俺のコンビの相性は抜群だった。ケビン先輩と俺は、今日の試合でもこのスタイルで得点を量産していた。

お前たちは少し休んで、第2回戦に備えておけよ」

監督が満足そうな笑みを浮かべて言う。


第四クオーターは俺たちのコンビはベンチでお休みとなった。うちのベンチメンバーはケビン先輩のようなスコアラータイプこそいないが、ディフェンシブで堅実なプレーを持ち味とするプレーヤーがそろっている。低身長の俺が抜ける分、かえってディフェンスが落ち着くほどだ。こういうプレーヤーは、目立たないがチームに大きく貢献する。うちのチームがいつも安定した強さを誇れていたのも彼らによるところが大きい。

結局、第四クオーターは俺たちが出ることなくリードを守りきり、うちのチームが快勝した。






クリスマストーナメントは初等部から高等部までの大会が一斉に行われる学生バスケット最大の大会だ。全国で行われる予選を勝ち抜いた64校が全国制覇をかけて争う。この大会で、俺たちは過去最高の成績を狙ってこの大会に臨んでいた。今年はケビン先輩とコンビを組んで挑める最後の試合だ。何としても好成績を残したい。チームは、第2戦も順調に勝利し第3戦へ駒を進めていた。



 



 「負けちゃったな」

 ケビン先輩の言葉にうつむくチームメイトからすすり泣きの声が聞こえる。俺も胸がいっぱいで何も言えない。

 強かった。相手チームは全国的にも超有名校で、全員の技術が高く、うちのチームはじりじりと押されていって、結局突破口を見いだせないまま、試合が終わってしまった。頼みの綱だったケビン先輩もディフェンスのいい選手にダブルチームでつかれてなかなか思ったようなプレーをさせてもらえなかった。完敗だった。

 「みんな、今までありがとな。楽しかったよ」

 違う。聞きたいのはこんな言葉じゃなかった。

 「みんなとプレーできて楽しかったよ」

 もっと、もっと一緒にプレーしたかった。勝って笑ってお別れしたかった。

 「ジム、次のチームはお前に・・・お前に・・・」

 ケビン先輩の顔が不意にゆがむ。うつむく先輩から嗚咽が漏れる。

 「お前に・・・お前に任せたからな・・・!」

 いつも楽しげに笑っていて、意地っ張りで、先輩風を吹かすのが大好きなケビン先輩の、俺の見た初めての涙だった。


次回も過去編です。

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