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理不尽な人たち

作者: ゆるーと

私の友達は可愛らしい。


ふわふわの栗色の髪、柔らかそうな唇、白い肌。

誰もが見とれる美少女。名前は、矢羽野 めぐり(やはの めぐり)。有名な財閥のお嬢様だ。

お人形のようなかわいい子。


「千華ちゃん。あたし、委員長にキ、キスされちゃったのぉ。どうしよう....」


頬を染めて、めぐりは私に相談する。けして小さくない声は、周りの子たちにも聞こえたらしい。

こそこそと噂をし始めた。その声色には、学生特有のひやかしや、驚きもない。軽蔑の眼差しと非難する内容だ。

聞こえているはずなのにめぐりは甘い時間を話し始める。


「壁に押し付けられて、それでねぇ」

「あなた、婚約者いたでしょう」


それも、この学校の副会長。


「久人のこと?うん、そうなんだけど、あたしのせいじゃないもん。委員長が勝手にぃ。どうしよう、春崎君にも好きって言われたしー、夏野先輩も.....」


イケメンたちとの、ロマンスを聴かせてくるめぐり。

周囲はさらに眉をひそめていく。私は文庫本をめくりながら様子をうかがう。

そそろそろ、気が強い女子たちが何か言いに来るだろう。


「ねえ、矢羽野さん。流石のわたしも我慢の限界よ。あなた、調子に乗りすぎ。男を侍らすのは勝手だけど、そのせいでみんな困ることになってるの。生徒会は仕事しないしね」


長い黒髪を垂らした、後藤優妃(ごとう ゆうき)さんがめぐりに強い口調で話しかける。

彼女は凛とした美少女で、女子からのが人望も厚いいい意味での女王様だ。

これはちょっと予想外だな。

いつもは、嫉妬にかられたイケメンのファンや、自称恋人なのに。

後藤優妃さんの後ろに控える少女たちも、周りの女の子たちも期待に瞳を輝かせている。

今こそ復讐の時だとでも思っているのだろう。

なんて、滑稽。めぐりは無垢な笑顔で後藤優妃さんに微笑みかけた。


「何のこと、後藤さん」

「何のことですってぇ!!!!」


不思議そうに首を傾げためぐりに後ろ、の女子からヒステリックな悲鳴が聞こえた。

それを、後藤優妃さんが片手で制す。

私は、吹き出しそうになって、本を思わず強く握る。


「だからね、生徒会が仕事しないの。あなたのせいで」


小さい子供に言い聞かせるように、後藤優妃さんはゆっくりという。

あなたはめぐりを見下してる。それが、後藤優妃さんの欠点。

彼女の価値観も自分本位であることは変わらない。認めないだけ。

彼女は正義の後藤優妃で居たい。


めぐりは悪ではない。


愚かだと思う。みんなめぐりをヒロイン気取りと言うけど、結局後藤優妃さんも取り巻きも同じ。

いい子気取り。


「この学校って、生徒会が仕事しないと潰れるの?てゆうか、みんなやることはやってるよ。イケメンが生徒会室に入り浸って仕事してると思うなんて...。ふふっ、ずいぶん夢見てるね!」


めぐりが笑った。絶句するみんなを見てめぐりは続ける。


「わたし迷惑はかけたと思うよ?でも、無視できる範囲でしょ?後藤さんもさあ、沢山告白されてるじゃない、それは凄いで済まされるのに?」

「そこまで。行くわよ」


もっと続けそうな、めぐりを私はひっぱって誰もいない裏庭に行く。

めぐりは間違ったことは言っていない。

第一、生徒会メンバーで彼女に惚れているのは、副会長で婚約者の冬ヶ峰久人(とうがみね ひさひと)と書記の梅雨野直(つゆの なお)だけだ。

関係者は恋にうつつを抜かしてると言いそうだけど、一般性が迷惑をこうむる事態ではない。

万が一そうだとしても、最初に彼らに言うべきだ。

だって、めぐりに溶かされて、張り付くのは彼ら。

そんな存在は、もうめぐりが手を伸ばし、笑いかける存在でもない。


めぐりは、酷い子だ。優秀な美系たちの闇を見抜き、蜜のように甘い言葉でからめ捕る。

嫉妬する子たちも、縋る男にも無慈悲に笑うだけ。

本当は一番めくりが歪んでいて、一番冷めた子。

自分に抑えられないほどの感情を向けられるのを笑いながら見ているのだ。

でも、何故かみんな気づかない。

めぐりに好意を向ける男は唯一とささやきながら、上っ面しか求めていない。


「千華ちゃん、あたしの事どう思ってるの?」

「酷い女の子。めぐりは全てわかってるのに、心を弄ぶんだもん」

「千華ちゃん、あたしの事嫌い?」

「好きよ。その歪みも含めて、本当は誰よりも純粋なあなたが」

「千華ちゃんが男の子だったらなぁ」


めぐりは笑う。温かな微笑み。イケメンたちに見せたことのない本当の笑み。


本当にめぐりを知りたいなら、嫌でもわかる。

彼女の世界を見つめる冷たさに。

ほんの少し会話した、一つしたの私の弟すら見抜いたのに。


「姉さんが初めてつれてきた友達だからさあ、どんな子だと思ったら。歪んだ子だね。綺麗なものほど汚れやすい。白いハンカチは直ぐ黒ずみ、血をふき取れば残酷さを手に入れる」


私と似て本好きなためか、詩の一片のような言葉だ。

でも、きっとあの子はそんな子。

弟も私も恐らく色に例えれば黒なんだろう。何にも染まらず、どこか冷めている。

だから、汚れていても黒を染める、唯一の白に惹かれるのかもしれない。


めぐりはよく馬鹿だと罵られるが、その実後藤優妃より成績は良い。

なんたって、学年主席だ。

そして、努力家。

めぐりには地位もお金も、権力も必要ない。

彼女は一人で生きていく力がある。


この学園を乙女ゲームのようだと、漫画のようだと人は言う。


だったら、めぐりは幸せになれるんだろうか。

最後は多くの人にやさしい笑顔を知ってもらえるのだろうか。

私はめぐりを包んでくれる人を探している。

あの、いびつに歪んだ心を埋めることができるまでは、私はそばに寄り添おう。



********


あたしはヒロイン。この世界でそうなる存在。


記憶という攻略本が常にあった。

でも、あたしは思う。あたしは、矢羽野めぐりではすでにないのだ。

あたしの人格がある時点で、ヒロインじゃない。


あたしはヒロインの形をした、ただの愚かな女の子。


幼少からある記憶に人を信じられなくなった。

あたしに好意を向けるイケメンが大嫌いだった。

それは、記憶の、本来の矢羽野めぐりに向けていた思い。

ヒロインを唯一とささやき、運命を語り、闇を知ってくれたと喜ぶ。


あたしは慈悲深い女神でも、ヒロインでもないのに。

あたしの、歪みに気づかない。

なんて、おかしいんだろ。彼らは、あたし以外の女の子をさげずんだ。

自分たちの歪みを闇を知らないで、顔と地位が好きなだけだと。


あはっ、あいつらも同じなのに。

あたしの馬鹿みたいに、都合いい言葉を疑わない。


女の子には嫌われた。陰口を言われ、突き飛ばされる。

自分が正しいと思ってる。そして、あたしの価値観を否定する。

ーーー迷惑だ、人の心を弄ぶなんて、偽善者。

そういいって、映るのは嫉妬。妬み。


あの位置に行きたいって語ってる。


人は言う、持てるものはすべて使えと。知識は最強の武器だと。

だったら、あたしは間違ってない。

持てる知識を使って何が悪いの?

ただ、みんな知らなかったというだけ。勉強や政治だと正義と言われるの?


でも、結局はあたしを理解してない。あたしは彼らなんて、どうでもいい。大嫌い。

あたしは自分の知識と違うその嫉妬に染まる女の子の瞳が好き。

妬む心が好き、愚かな考えが、バカみたいに自分本位な物語が好き。


それは、あたしのどうしようもない行動が生み出した当然の結果で、あたしが確かにヒロインじゃない証拠。

愛されなんて言葉あたしには微塵も似合わない。

あたしは、あたしである証拠がほしい。

あたしはこの世界の存在。

怖いの。偽物だと失望されるのが。

だから醜く演じよう。物語が終わった時、軽蔑の瞳を、失望を。

今のあたしを守るために。



そんなあたしにも一人だけ心から好きな友達がいる。

それは、まぎれもない温かな好き。

荘院(そういん) 千華(ちか)ちゃん。それが、彼女の名前。日本人形のような和風美少女。

黒髪にほっそりした体。守りたくなるのに、その強さが伺える。


「あなたは、間違ってないわ。少なくとも私の中では」


そう、千華ちゃんは笑った。千華ちゃんは、本当にすべてに興味がなかった。

いや、誰も千華ちゃんの興味を引けなかった。


千華ちゃんはあたしの脆い部分を肯定してくれた。

どんなに、酷いことをしても、弄んでも、失望されても、彼女はあたしを見捨てなかった。


千華ちゃんにとっての矢羽野めぐりはあたしだった。


愛されでも、嫌われでもない本来の歪んだあたし。

誰かに埋めてほしい隙間。でも、あたしは千華ちゃんにその役目は担わせない。

依存はしても束縛しない。

執着しても何も求めない。


あたしの醜い所を見て、バカだと言って。

脆さを好きと言って。



あたしは、千華ちゃんをあたしから救うため、逃がすために、誰かを求める。

でも、それまではそばにいて。





めぐりは手遅れです。ヤンデレです....多分。


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― 新着の感想 ―
[一言] こういう歪んだ関係大好きです。 素敵なお話をありがとうございました。
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