表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/60

具現化した炎5

・三神 教我――高校二年生。〈調停者〉のこども。〈ギア〉エグゼキューターに誘われ、他世界へ渡る。

・エグゼ――〈ギア〉エグゼキューターの生体(バイオメトリクス)インタフェイス。機械知性と人間知性の両方を獲得している。

・本郷 璃々――教我の従姉。

・エマ=レッドフォード――第一機動戦隊即時戦、少佐。アメリカ人。

・エグゼキューター――教我の前に現れたエクスの超兵器。

 機体を覆う光は炎を完全に防いでいた。ある種のエネルギーフィールドのようだが、詳細は不明だ。しかし、この膨大な熱量――数千度の熱をシャットするだけの力があるようだった。

 モニタを一瞬見る。すさまじい勢いで動力を消費していた。あまりもたないだろう。

 ペダルを思い切り踏み込み、爆炎に最大速度で向かう。中核にイフリエスの姿が見えた。火の騎士に激突すると、さすがのエグゼキューターでも抑えきれなかった振動がコクピットとおれを襲う。当機の外装が徐々に融解していく。さすがのフィールドでも抑えきれていないようだ。しかしカウントは終わろうとしている。

「エグゼキューター、もちません」とエグゼ。声は平坦なまま、事務的なままだ。「このままでは、爆散します。あなたが死んでしまう」

「いいや、死なない」おれは上を向き、エグゼに向かって笑ってみせる。「見ろ、エグゼ」

 レーダーには新たな機体が二機、表示されている。識別信号はカルォーシュア即時戦、戦隊機。いまは味方だ。さきほどオペレータが言っていた、サイレントとオーダー。

『よく持ちこたえた、〈ギア〉パイロット。砲狙撃戦を開始する』男の声が通信で入る。『一瞬でいい、火を散らしてくれ。即座に狙撃する。当たるなよ』

「了解した」返答する。「エグゼ、テュポーンを選択。適当でいい、撃て」

「了解。エネルギー残量、注意して下さい。離脱準備を」

 光線が暴れ狂うように乱れ出る。紅蓮の騎士がその姿を現した。目的は達した、即座にレバーを引き、射撃軸線上から逸れるよう機体をひねる。瞬間、イフリエスの身体がハンマーで殴られたように、ぐらりと揺らめく。

『着弾、確認。いい腕だ、三神教我』

 そちらもだ、と心の中で思う。すでに照準はあわせていたのだろうが、複雑な状況の中、即座に当てて見せた。狙撃機体だと想像できるが、しかしパイロットの腕に依存されているだろう。相当な狙撃手だと予想できた。

「イフリエス、機体の姿のまま、固定」

 エグゼの言葉で我に返る。イフリエスを見ると、表面が白くなっていた。凍結している。

 まさか、弾の中になにかを仕込んでいたのか、と即時戦機のパイロットに確認を取っている時間はなかった。新しく通信が入る。

『弾幕支援機、オーダー、ミサイル支援を開始します。……驚かないで下さいね』

 今度は穏やかな声の、女性パイロットだ。ミサイル支援、という言葉ののち、レーダー上に凄まじい数の光点が表示される。その数は百を超えていた。

 目を剥いている暇はなかった。最大戦速で離脱を開始する。モニタが演算を終えた結果を表示、二百八十の冷凍弾頭がイフリエスに殺到していた。着弾、爆発。火は吹き上がらない。白い粉……蒸気に似たものが四散を繰り返す。弾け、空気中の水分を凍結させていく。即席の白いステージができあがった。

「むちゃくちゃだ」とおれ。「フィールドを張っていなかったら、こちらも凍っていた」

『むしろ、それを防ぐ〈ギア〉に驚きだぜ』狙撃手が口笛を吹きながら、調子のいい声を上げる。『普通は回避できんよ』

『オーダー、弾幕支援を終了。ごめんなさい、そういう機体なの』

 なにがそういう機体だ、だ。そう心の中で毒づきながらも、しかし同時に助かったとも思う。おれひとりでは、決して勝てない相手だった。支援がなければ負けていたのは、こちらだっただろう。

 凍結したイフリエスが落下していく。が、すぐにその機動は止まり、再び浮かび上がった。

 氷が砕ける。それを確認した次には、赤い光が戦場を離れていった。

「イフリエス、撤退しました」

「鮮やかだな。まるで、撤退を前提にしていたようにも思える」

「おそらく、そうでしょう。相手はこちらの実力を測っていたと予想できます」

「ともあれ……生き延びたわけだな」

『エグゼキューター、三神、聞こえるか』エマ少佐から通信。

「聞こえてる」

『イフリエスが撤退した。そちらも帰還しろ、よくやった』

「了解した」

 短く返答し、通信を切る。

 当面の脅威は、去った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ