【もう一つの出会い】
「聞いた場所はどうやらここのようだな」
「何ここ?」
「さっき俺が電話で聞いた場所だ。アンティークショップらしいんだが…」
「そうみたいですね、ここに貼ってある紙にもそう書いてありますし」
「何だこのふざけた貼り紙は。まぁ…あの人が言うんだから大丈夫だろうが…」
〈カランカラン〉
「ん~?あら~、いらっしゃ~い。こんな真夜中にしかも三人も来るとはね~」
「ある人にここを紹介されてきた。早速だが武器になるような物が欲しいんだが」
「あらあら~これまた単刀直入だね~」
そう言うとレジカウンターへ預けていた体を起こし少女の風貌をした者はこちらに歩いてくる。
「でもさ~初めましてでいきなりハイそうですかでうちの武器は売れないなぁ~」
「望みは何だ?金なら持っているぞ」
「ん~それよりも先ずは自己紹介、からだよね~?あたしはリリィ~、で、君は~?」
スッと差し出された手に対し、腕組みで拒むようにして言う。
「俺のはいらない。こっちの二人の分だ」
「…ふ~ん、そっかそっか…じゃあそちらのお二人さん、名前を聞いても~?」
二人の間に立ち同様に手を差し出す少女。
「は、初めまして私は、ひさ…天地阿莉抄です」
「はじめまして、僕は天地抄」
名前を聞き二人と握手を交わした少女は、
聞き取れないほどの小声で「なるほどね」と言うと「さてと、それでどんな武器がお望みかな~?」と話しを続ける。
「お前達、何が得意だ?」
「え?いや武器なんて全然触ったこともないし…ねぇちゃんもでしょ?」
「はい、私も」
「あ~…武器といってもさ~剣とか銃とかじゃなくて~…それじゃ聞き方を変えようかな~得意なことってある~?」
「得意なことですか?えっと、私は料理と裁縫が」
「あ、そういうことなら僕は掃除と…あとはねぇちゃんの手伝いで包丁研いだりとかしてたけど」
「そんなの役に立たないだろうが」
「ふむふむ…なるほどなるほど…」
俺とは違い何かを考えるように顎を指でつまみながら少女は目を閉じている。
「うん、ちょうどいいものがあるな~ちょっと待っててね~」
言い終えると同時に奥へと戻っていきテーブルの向こう側に座り込み何やら探しているようだった。
暫くして再びこっちに戻ってきた少女は朱塗りの箱と黒塗りの箱を持っていた。
「こっちの赤いのが彼女のほうで~こっちは君のね~」と二人にそれぞれ渡す。
箱を渡され困惑する二人に少女は開けてみなと促す。
姉の方の箱の中には裁縫セットが、弟の方にはいくつかの研石のような物が数個入っていた。
「こんなもの武器になるわけないだろ」
「はぁ~分かってないなぁ、君はあれでしょ~相手を倒せなければ武器じゃない!とか思ってるでしょ~」
「当たり前だろ」
人差し指を左右に振りながら言う。
「ちっちっちっ、倒すだけが武器じゃないの~それに彼女達にはこういうものの方が合っているしね~」
「…よく分からないし納得は出来かねないが、とりあえず理解はしてやる。で、どう使うんだこれらは」
「へぇ~頭固いと思ってたけど柔軟に切り替えられるんだね~」
「うるさいぞ女」
「リリィ!って自己紹介したんだからそう呼んでね~」
「わかった…でリリィ、これらはどう使うんだ?」
「見たまんまだよ~裁縫と研ぎ」
「それじゃ分からん」
「ていうか二人はまだ目覚めたばかりでしょ~?」
「そこまで分かっているんだな。こいつらが力を使いこなせる程度までは俺が教える」
「…まぁ君なら大丈夫そうだね~なら道具の特性、というか彼女達の能力だけは教えておくよ~」
「能力まで分かるのか?」
「分かっているからこの道具選んできたんですけど~?」
「リリィ、お前の能力は……まぁそんなことはいいか。教えてくれ二人の能力を」
「君は賢いね…最初に言っておくけど、二人の能力は基本的にはとても似ているものだよ。彼女の方は裁縫した物に、弟くんの方は研いだものに力を付与するもの」
「なるほど…どちらかが【結界タイプ】だったら良かったんだがな」
「話はまだ終わってないよ~」
「結構珍しいタイプなんだよ二人とも~私も久しぶりに見たくらいだしね~」
「どういうことだ?」
「二人ともが[どちらのタイプ]にも対応できる」
「両方だと?」
「ウンウン、非常に珍しいことだけど、たま~にいるんだよね~。まぁどちらか一方じゃない分、それぞれの能力の上限は高くないかもだけど、それでも育て方によって汎用性は多くなるから」
「そうか、それが分かっただけでも十分だ」
「それじゃ話を続けるね~。これは二人で共通していると思うんだけど、二人とも手掛けたものに【想いの力】が付与されるっぽいね~。力を付与した物を点在して張り巡らせれば結界としても使えるだろうね~」
「想いの力…?」
「これは私の憶測…だけど、二人の境遇が強く反映されているんだと思うよ~」
「…そうか」
「あとは君次第じゃないかな~?まぁでも、二人の性格的には君のサポートとして動くのが一番理想的かなって」
「そうか…とりあえずやれることはやってみるさ」
「あの…話の内容はよく分からなかったのですが、私達お金を持っていなくて」
「気にするな、俺が払う」
「…う~ん君なら代金もらうより、替わりに1つ仕事を頼まれてくれないかな~?」
「そっちがいいなら俺は構わないが…それは俺にしか出来ないことなのか?」
「今は人手不足だからね~君が依頼受けてくれると助かる~」
「わかった話を聞こう。それと今更だが迷惑をかけてすまない」
「急にしおらしくされると調子狂うから俺様キャラでいいって~」
「一言余計だ…迷惑ついでにもう1ついいか?」
「な~に?まだ何かあるの~?」
「この二人を安全な場所に住まわせてやりたい、どこかないか?」
「…君が優しいってのは何となく分かってたけど、まだ出会って一日も経ってないような人達のことをそこまで気にかけるのは何故?」
「それも分かっているのか」
「今はそんなことはどーでもいいんじゃない~?」
「…俺が気紛れで助けた命だ。云わば…そう、俺のものだ。それに手を出され…」
「あ~ハイハイ、守りたいって話ね~」
「別に守りたいなんて」
「クスクス…まっ冗談はこのへんにして、彼女達が安全に過ごせるようなところね~…まぁ【六区】のどこかがいいだろうね~」
「六区だと?」
「ふ~ん、それも知ってるっぽい反応だね~」
「六月晦大祓だろ?」
「へぇ~そこまで知ってるのは普通にスゴいね~」
「まぁ由来くらいしか知らないがな。俺を育てた人が前に話してくれただけだ」
「あたしもその人に会ってみたいものだね~」
「会ったことあるんじゃないのか?」
「ん~?名前は?」
「知らん」
「名前も素顔さえも知らない。けど俺をここまで育てて戦い方を教えてくれた人だ」
「で、なんで私が会ったことがあると?」
「最初に話しただろ、ある人にここを教えてもらったって。それがその人だ」
「ふ~ん……まぁいっか。単純に案内されただけじゃどうせここには入れなかった訳だし」
「さて話を戻すけども、やっぱり彼女達は六区に連れていくのがいいかな…彼女らに罪がないことは分かっているけど、悪いモノは早めに断ち切っといた方が良いからね」
「そうか…それで六区のどこがいいんだ?」
「うーん、気休めかもだけど1区だけわたしの知り合いがいるから、少しは話通せるよ」
「何区だ?」
「確か4区だったかな」
「4区の名称は?」
「生契」
「…贄だったか確か」
「一般的に言えば【生贄捧げ】。けど、それと同時に命のつながり、いわゆる[宿縁]って意味もある」
「それは知らなかった。なるほどな…だから断ち切ると言ったのか。それならこいつらには丁度良いかもな」
「まぁね。しかも【赦祓】さえ済ませられれば一番安全な区だしね」
「シャバツ?」
「まぁそれは時間がある時にでも教えるよ、要はお祓いと思っておけばいいよ」
「…わかった。そこに話を通してもらえるのか?」
「わたしの依頼受けてくれるなら~」
「受けよう、それで仕事の内容は?」
「先に言っておくけど、うちの仕事は依頼内容を見聞きした時点で必ず受けてもらうことになるけど?」
「今更だろ。それにこっちとしても好条件なんだ、構わないから教えてくれ」
「わかったよ」と言いながらレジカウンターに戻り一枚の紙を持ってきて差し出された。
「久松利夫の殺害?」
その言葉を聞いた姉弟は驚きの表情になる。
「そ、君達姉弟を引き取った叔父の殺害が依頼だよ」
「待て、人間の殺害なら裏家業のやつにでも任せればいいだろうが」
「ごもっともな意見だね~わたしもそう思う~人間だったらね~」
「人間…じゃないのか?」
「人間だったってのが正解かな」
「【瘴気】蓄積の影響か?」
「い~やイオとの契約だね」
「…もう手遅れなのか?」
「君はある程度知ってそうだから、もう分かってるんじゃない?イオとの契約に早いも遅いもないっことは」
「あぁ…そうだったな…」
「続けても?」
「ああ」
「契約したのはつい最近だと思うから力的に言えば問題なく対処は出来ると思う。逆に時間が経つほど厄介になるかもしれない、その前に消しておきたいんだ」
「そうか…能力は分かっているのか?」
「そこまではまだ~」
「まぁ所詮は使い捨て前提の契約だし、家系・フィジカル・メンタルもろもろ調べてみたけど、普通の人間だったよ。どっちかというとこの依頼の一番の問題はイオがどう関係しているかの方だね~」
「というと?」
「このイオによる被害が最近多くてね~色んな人と契約してるっぽくてさ~こいつ自体は尻尾を掴ませないように動いてるから被害は増える一方なのが現状」
「もしかしてだが、最近この辺で起きてる事件はこれのせいか?」
「そ~ゆ~こと」
「そうか、ならばもし見つけたらついでに消しといてやる」
「そっちのイオの能力は分かってないから深追いはしないほうがいいよ~」
「自分と相手の力量は見極められる、それにこれがあればある程度格上でも…」
目の前に出された刀を見たリリィは「あれ?その刀って」と思うところがあるような物言いをする。
「ん?これは俺の師匠から貰ったものだが何かあったか?」と返され「ん~や、何でもないよ~」とはぐらかすように言った。
「あ、そうそう、依頼は今日から3日以内で終わらせてね~」
「分かった。終わったらまたここに来ればいいのか?」
「それは君もあたしも面倒くさいから…ハイこれ」と小さな紙を手渡される。
「リリィの番号か?」
「そ。まっ何かあればいつでも電話してくれていいから~」
「わかった、とりあえず依頼が終わったら一度連絡する」
姉弟はリリィに何度も頭を下げ、三人で店を出た。
「不思議な場所と、変な奴だったな…」
「兄ちゃん、僕達はこれからどうなるの?」
「悪いなお前達に話を聞かずに勝手に決めてしまったが、今よりは住みやすい所を教えてもらえた」
「はい、話の内容全ては分かりませんでしたが、私達のために話してくれていたのは分かりましたから」
「暫くは俺もお前達と共にいるから安心しろ」
「暫くっていつまで?」
「お前達次第だ、さっきの話を聴いていただろ?自分の身を守れる程度には教えてやる」
「んー?よく分かんないけど頑張るよ!」
「私も出来る限りのことをやってみます!」
「それとな、先に話しておくがさっきの話の通り俺はお前達の叔父を殺す」
姉弟は繋がれた手に力が入る。
「返事はいらない。これは俺が受けた依頼だ。ただ…既に人でないならこれは俺の役目でもあるからな」
「よろしく…おねがいします…」
「ああ」
無言で夜道を歩く三人を未だ月は照らしている。
- 同日同刻 人見総合中央病院 -
医師であろう人物が部屋に入ろうとドアノブを回しきると、中から吹いてきた風が扉を押し開けてくる。
「おや、窓が開け放しになっていましたか」
開けっぱなしの窓際まで寄ると、吹き込む風を全身で感じるかのように両腕を広げ目を瞑る。
「良い風ですね……それで、貴方は誰でしょうか?」
振り向かないまま誰かに向けて言葉を投げ掛ける。
「あんたからしたら初めましてだな」
先程医師が入ってきた扉の横、背中を壁につけ腕組みした者が立っていた。
「ふむ、その物言いだと貴方は私と面識があるということですか?」
「その辺はどうとらえてもらっても構わない。ただ少し話がしたくてな」
「…その話には聞くだけの価値が?」
「あんたにとっても悪い話ではないと思うが」
「一つ質問をしてもいいでしょうか?」
「ああ」
「どうやってここに入って来たんですか?」
「そこの窓からだが」
「ここ8階なんですがね…それに…。これ以上聞いたところで教えてもらえそうに有りませんね。…分かりました話を聞きましょう。こちらへどうぞ」
隣にある部屋に移ると、その部屋の半分を占めるほど大きな机を挟んで座る二人。
「急な来客だったのでそのような物しかご用意出来なく申し訳ありません」
目元まで隠れるフードを被る男は出されたティーカップに口をつける。
「いや、十分においしい。ありがとう」
「ハハハ、貴方は常識があるのかないのか分かりませんね。と、無駄話をしたい訳でもないようですし早速お話を聞かせてもらっても?」
カチャッと置かれたティーカップから出ていた湯気がいつしか無くなる頃、それまでフード男の話を黙って聞いていた医師は口を開く。
「あなたの話は分かりました。少々…いえ、ここ数年で一番驚かせられましたよ、それが本当の話ならですが。それで…その話の真偽はともかくとして、あなたと組んだ場合、私にどんなメリットが?」
「メリットね…あんたはそう言うと思って用意はしてきてある」
男が差し出した紙へと視線を落とした医師はこれまでの話の中で一番の驚き見せる。
「こ、これは事実なのですか!?」
「あんたが今までの話を信じるなら」
「先程までの話は本当のことだと何か証明できますか?」
「[道を示す]ことは出来ないが、自分を証明することは出来る」
「それで十分です」
フード男はいつの間にか手にしていた物を机に置く。
「それはまさか…いや、見間違えるハズもない」
「そう、あんたはこれを知っている」
「…なるほど、あなたが話されたことをようやく納得できましたよ。何せ計画の一番の要でしたからねソレは」
「信じてもらえたようだな」
「ハハハ、それを見せられては信じるしかありませんからね。あなたからはもっと色々な話を聞いてみたいものです」
「…まだ話したことに至るまでに時間はある。その内少しずつだが話すこともあるだろう。けど一つ約束してくれ」
「聞きましょう」
「俺のことはあんたと・・・…他には存在もバレたくはない」
「まぁ…そうでしょうね。ちなみに彼には既に?」
「いやまだ時期じゃない。それは追々とな」
「分かりました。こちらの方は最後にもらった情報を有用に使わせてもらいますからね?」
「あぁ、それについてはあんたの好きにしてもらって構わない。どの道避けられないんだ、それならあんたの方が、早く上手く出来るだろうしな」
「あなたが私を選んだのには驚きましたが、ここは素直に謝意を伝えておきます」
最初の部屋に戻り窓際に手をかけるフード男。
「…さてそろそろ行くわ。今度会うときはもう少し砕けた話し方にしといてくれよ」
そう言い残し男は窓から飛び出すとフッと姿を消した。
「砕けた話し方ですか…善処しましょう」
着ていた白衣を脱ぎ椅子の背もたれにかけると、再び外に目を向ける。
「結界…もう少し強いのに張り直しておかないとダメですね」
白衣に付けられている名札に書かれた「人見 了」という名を、どこかを歩く三人のように月明かりが照らしていた。




