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三相の聖刻騎士と呪われし乙女たち ―ショタ聖者が「装備変更不可」の呪具ヒロインを愛して救うまで―  作者: 寝不足魔王


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第8話:鉄壁の内側に眠る孤独

 嵐冠鳥ストーム・ガルーダとの激闘が終わり、断絶の渓谷に真の静寂が訪れた。

 荒れ狂っていた暴風は凪ぎ、夕闇が迫る空には、宝石を散りばめたような星々が顔を出し始めている。


 渓谷の岩陰、風を避けられる天然の洞窟の中で、一行は焚き火を囲んでいた。

「……はぁ、死ぬかと思ったわ。エル、アンタの魔力供給、あんなに一気に流し込んだら私の回路が焼けちゃうじゃない!」

 ルミナが真っ赤な顔で、エルの隣でぷりぷりと怒っている。だが、その手はしっかりとエルの左腕を抱え込んでいた。


「すみません、ルミナさん。でも、あの時はあれしか方法がなくて……」

 エルは苦笑しながら、パチパチとはぜる炎を見つめる。彼の膝の上には、今や白銀に輝く重厚なフルフェイスの兜が置かれていた。


「……シャットダウン……。……外の世界、まぶしい……」

 エルの右側にぴたりと密着しているのは、首から下を鎧で固めたミスティだ。彼女は兜を脱ぎ、エルの肩に銀髪の頭を預けていた。

 バイザーの奥に隠されていた素顔は、驚くほど色白で、吸い込まれるような灰色の瞳を湛えている。眠たげなジト目は、どことなく小動物のような愛らしさを感じさせた。


「ミスティさん、少しは落ち着きましたか? ずっと鎧の中にいるのは疲れるでしょう」

「……主様……。……ここ、安全。……あなたの隣、一番、重力が安定する……」

 ミスティはボソボソと呟きながら、さらにエルの腕に体を押し付ける。


 その時、鎧の隙間から溢れる彼女の「素体」の感触が、エルの右腕にダイレクトに伝わってきた。

 鎧に包まれている時は分からなかったが、彼女の肢体は驚くほど肉感的だ。エルの細い腕を包み込む胸元の膨らみは、ルミナやリィンを凌駕するほどの圧倒的な存在感を主張していた。


「なっ……!? ちょっと、ミスティ! アンタ、エルの腕に何を押し付けてんのよ!」

 敏感に察知したルミナが立ち上がる。

「……効率的な、防衛。……主様の右半身は、私が守る。……邪魔、拡声器……」

「誰が拡声器よ! この鉄クズ、脱いだら意外とあざとい体しやがって……!」


「はいはい、そこまでにしなさいな。エル様が困っているでしょう?」

 エレナが温かいスープの入った器を持って、三人の前に座った。

 彼女は母親のような、あるいは教師のような落ち着いた微笑みを浮かべているが、その瞳の奥には、エルに密着する二人の少女に対する、言葉にできない複雑な色が混じっていた。


「エル様、お疲れ様でした。……右手の聖刻、見せていただけますか?」

 エレナがエルの右手をそっと取り、自分の膝の上に乗せる。

 そこには、激しい浄化と連戦の代償として、赤黒く腫れ上がった紋章があった。


「……あう。……主様、痛そう……。……代わってあげたい……」

 ミスティがエルの手を覗き込み、悲しげに瞳を伏せる。

「大丈夫ですよ、二人とも。これが僕の役割ですから。浄化した呪いは、僕の中で光に変わっていきます。だから、心配しないでください」


 エルのその言葉に、エレナの手が一瞬止まった。

「……『役割』、ですか。あなたはいつも、自分の痛みを後回しにするのですね。先代勇者も……夫も、そうでした。自分を削って世界を照らそうとして、最後には燃え尽きてしまった」


 エレナの指先が、エルの聖刻をなぞる。

「私は、それが怖いのよ。あなたが救った彼女たちが、最後にはあなたを追い詰める刃にならないか……それが、たまらなく不安になるの」


 洞窟内に、沈黙が流れる。

 焚き火の爆ぜる音だけが、エルの鼓動のように響いていた。


「エレナさん。僕は……」

 エルが何かを言いかけた時、ミスティが不意に顔を上げた。

「……エレナ。……主様は、折れない。……私が、折らせない。……私は壁。絶望を、全部弾き返すから……」


 ミスティはエルの手を握るエレナの手の上に、自分の冷たい、けれど意志の宿った鋼の手を重ねた。

「……みんなで、支えればいい。……主様が光なら、私たちは、それを囲む影になればいい……」


 内気な彼女が口にした、精一杯の誓い。

 ルミナもまた、バツが悪そうに視線を逸らしながらも、エルの左腕を握る力を強めた。

「……そうよ。アンタ一人で全部抱え込むなんて、私の所有物として許さないんだからね!」


 三者三様の想いが、エルの小さな体を通じて繋がっていく。

 エレナは小さく溜息をつき、ようやく憑き物が落ちたような顔で微笑んだ。

「……ふふ。降参だわ。こんなに心強い『娘たち』がいるなら、私が心配しすぎるのも無粋かしらね」


 夜が深まり、疲れ果てた少女たちがエルの左右で眠りについた。

 ルミナはエルの肩を抱き枕のようにし、ミスティは兜を被り直して(恥ずかしくなったらしい)、エルの膝元に丸まっている。


「……エル、寝てる?」

 ピコがエルの頭の上で、小さな声で囁いた。

「いえ、まだ起きていますよ。……不思議ですね。呪いのはずの彼女たちが、こんなに温かいなんて」


「それがエルの力だよ。でもね、忘れないで。呪具はあと五つある。それぞれがルミナやミスティと同じくらい、あるいはそれ以上に重い背景を持ってるの」

 ピコはエルの聖刻を見つめ、少しだけ羽を曇らせた。

「……次は、エレナに関係のある場所に行くことになると思う。エルの光が、どこまで過去の闇を照らせるか、見守らせてもらうよ」


 エルの意識が、深い眠りへと落ちていく。

 夢の中で、彼は見知らぬ銀髪の少女が、血に濡れた古文書を抱えて泣いている姿を見た。

 

「……死なないで、救済者……」


 それはセレスの声だったのか、あるいは未来の誰かの声だったのか。

 エルの旅は、まだ始まったばかりだった。


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