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温度と欠片と  作者: あゆー


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3/3

集めて、温めて

冷気が逃げないよう、博多(はかた)は外に出てから小屋の扉を閉める。コートがないと思いのほか空気は冷たく、当たる風が若干痛かった。

「…五月の気温じゃねー」

思ったより熱を孕まないその声を嘲笑していると不意に、足音が迫ってくる感覚がした。

天音(あまね)!」

蒼空(そら)

先程電話をして、新幹線を使って、走ってここまで来たにしては少し早い気がするが、そこにいるのは見間違えようのない人物だ。

斗碧(とあ)葵生(あおい)は、もう少し後方に。直に来る。朝陽(あさひ)は」

そこまで四本(よつもと)が言いかけて、再び足音のほうへ振り返ると、そこには息も絶え絶えな風野(かぜの)渡守(わたもり)が居た。

「天音…、朝陽、っ朝陽は…?」

膝に手をつき息を荒げながら風野は博多に問いかける。いつも楽し気に細められているマンダリンガーネットは、今日に限っては鋭く細められている。最近している運動のお陰で体力が付いたと言えど、元の体力がそれほどない渡守はぜぇぜぇと喋れなくなるほど息を乱しているが、タンザナイトの瞳は真剣な色になっていて博多に向けられている。

「あの小屋。あの小屋に、朝陽がいる」

博多が小屋の方を指すと四本が確かな足取りでそこへ向かい始めた。

ゆっくりと、扉が開かれる。

「っ…!」

四本の肩にかけられたコートが動揺したように揺れる。その後に続いた風野と渡守の背も少し揺れた気がした。

「…馬鹿野郎っ、なんで、なんで死にやがったっ…!置いていくなよ俺たちを!一蓮托生しようって…っ!死ぬときは一緒だって、言っただろうが…!」

四本の激昂が聞こえ、渡守がその背を支えるのが見えた。

「天音」

不意に風野が博多のほうに振り向く。

「朝陽にコート、かけてあげたんだ」

「うん。そのままは、あまりにあんまりかなって」

「そっか」

淡い髪をふわりと揺らして柔らかく風野が微笑む。垂れ目がちな瞳と爽やかな顔立ちが相まって元来の顔立ちである優しい印象が強い。博多の視界が一瞬白い布で覆われる。

「斗碧」

「寒いでしょ」

眉を伏せながら風野は笑いかける。先程博多の視界を覆ったのは風野が羽織っていたコートらしい。

「ありがとう、天音。僕らが気づいていない間に、朝陽を見つけてくれて。一人で、よく頑張ったね」

野のその言葉に博多は息を呑む。一瞬開かれた口は言葉を紡ぐことは無く、震えた息が微かに漏れ出すだけだった。

桔梗を閉じ込めた瞳から大粒の雫が零れ落ちる。微かな嗚咽が聞こえてきて、四本の傍にいた渡守が風野と入れ替わりながら博多に近づいて長身である己に抱き寄せた。

「っ、もう、もうどうやってもあいつに会えることはなくて、どうやっても声を聞くことができなくて、名前を呼んでやることも、呼んで反応してもらうことも、どこか知らないところで私たちを思ってくれることも、頭を撫でてやることもできなくて、あぁもういないんだって、思いたくなくて、割り切りたくない。でも人間の記憶力に限界はあるから、きっとだんだん忘れていくんだ。怖いよ私は。それが怖い。忘れたくない。永久にこの記憶を脳に焼き付けたい。苦しくてもいいから。辛くても、消えたくなってもいいから。私、忘れたくないよ」

ふらふらになりつつも四本が風野に付き添われつつ博多に近づいていく。押し込めた気持ちの箱から溢れ出たであろう博多のその声に、四本もぐっと声を呑んだ。

「そうだよな。俺も、俺も朝陽のこと忘れたくない。でも立ち止まり続けてたら朝陽は悲しむから、いっぱい泣いたらまた進もうな」

渡守が抱きしめた博多の背を擦りながら優しく言う。微かに聞こえる肯定の声を聞いて、渡守はさらに優し気に表情を崩した。

四本が涙でぐしゃぐしゃになった顔で博多たちの方へ向かってくる。四本の足が覚束なくなるたび支えてくれるのは風野だ。

「天音、俺からも、言わせてくれ。教えてくれて、ありがとう」

「…っ!!うん…、うん…!」


組織からの足抜けというレットベリルのような奇跡を果たした宝石は冷え込み、砕けてしまった。もう元の形状であることは無いだろう。

だから、なんだ。

砕けたなら集めてやる。歪であっても、それによって怪我をしても。

冷たくなったなら、包み込んで温めればいい。吹雪に晒されようが、冷風に吹かれようが。

そんな覚悟私は、いや、私たちは当の昔にできている。


「二十周忌だぞお前。来年はお前が生きてたより長くなっちまうよ」

私、博多天音は朝陽の墓の前でそう呟く。見た目も声も変わらない、年老いることのない私たちは朝陽が死んでから何年経ってもあの頃のままだ。

「お前がまだ生きてたら二十回目の二十歳だったんだな。時の流れがおかしいよわたしゃ。…イトスギには、まだ早かったんじゃない?朝陽」

ヒペリカムを添えながら私はそう呟いた。朝陽はイトスギの花言葉知ってるかな。知らなかったら私の言葉伝わらないけど。まあそれもそれでよしとしよう。

「じゃあまたお盆か来年に。あぁ、それと」

そこまで言って私は笑う。上手く笑えているといいけど。

「誕生日おめでとう、朝陽」


(ありがとう、天音)

声が出ない幽霊として、細やかな返事を返させてもらう。俺が死んでから、もうそんなに経ったなんて信じられないなぁ。まだまだこいつらにはここに来ないでほしいものだ。

それと、知ってるよ。イトスギの花言葉。あと、ヒペリカムの花言葉も。

(確かに、イトスギにはまだ早すぎたかも。それでもお前らがヒペリカムであってくれるなら、嬉しいことこの上ない)

またお盆か来年、顔を見せてくれるのを楽しみに、俺は五月の温かな風に吹かれた。

こんにちは。もしくはこんばんは。あゆーです。

【集めて、温めて】いかがだったでしょうか。

此れにて【温度と欠片と】完結となります。短い間でしたが、お付き合いくださった方、有難う御座いました。

この三作品を出すんだったら、今まで温めまくってた作品全部出しちゃうか、という勿体無い精神の対極思考へ陥ったので暫く作品が出続けます。時間が無い訳でもないのに焦って書いたものがいっぱいあるので悪しからず。

また、次回の作品で会いましょう。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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