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温度と欠片と  作者: あゆー


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冷たくなったレッドベリル

人を選ぶ内容ではあるので、苦手だと思ったら直ぐに引き返して下さい。

それはあまりに唐突で、あまりに残酷に起こった。

朝陽(あさひ)が消えた」

「…は?」

四本(よつもと)蒼空(そら)の口から発せられたそれは信じがたく、同時に嘘と言うには現実味がありすぎた。

「蒼空、どういうこと?朝陽が、消えたって」

博多(はかた)天音(あまね)の隣にいた風野(かぜの)斗碧(とあ)が四本にむかって問いかける。風野の隣に座っていた渡守(わたもり)葵生(あおい)も真剣な表情で一文一句漏らさぬよう聞きの姿勢にはいっていた。

四本は、己も俄かに信じがたい、といった様子で語り出した。

今回の任務自体はそこまで難易度の高いものではなく、中園(なかその)朝陽の手によってあっという間に解決された。

しかし、任務が終了して無線で四本に中園が報告をし、いつものような雑談を繰り広げているタイミングで中園の昔の同業者、つまりは、暗殺者と鉢合わせたそうだ。

「俺は中園に撤退の指示を出したし、中園もそれに応じてその場から身を引くことを選んだよ。でも、相手もプロだ。数名巻き切ることができなくて応戦することになった」

相手も手だれで中園がギリギリの戦いを強いられるほどだったそうだ。その戦闘中に通信が切れ、消息がつかめなくなった。

「捜索をし始めているんだが…俺一人では手が回りきらなく…」

「僕らもしよう、捜索」

「だな。俺も探せる情報探してくるわ」

「私も探すよ。蒼空、何がどこまで進んでる?」

博多が四本を見て言うと、ありがとう、と少し嬉しそうな顔で言った。


情報を集めるためにパソコンに向き合う、とスマホの通知音が聞こえた。

「?誰から…。は…?」

博多は桔梗色の目を大きく見開く。

「なんで、朝陽、から」

その通知音は今ちょうど探している人間、中園朝陽からだった。

『このメールが送信されていると言う事は俺が姿をくらませたのだと思います。一回言ってみたかったんだよねぇ、これ。

このメールは俺が死なないと送信されないようになっています。どうやっているかとかの説明を省くけど、本当のことです。

この話は置いておいて、このメールの下にある地図と同じ場所に向かってほしいです。俺が残したもの、伝えたかったもの、捨ててほしいものがあります。

俺が死んだこと、このメールのこと蒼空や斗碧、葵生には言わないでね。あいつらには死んだってこと今は知らないでほしいから。

p.s.どんな任務か知らないけど、俺は死ぬつもりはなかったよ』

博多は一度画面を伏せてスマホを置く。

机に突っ伏しながら口から言葉を漏らした。

「…ははっ、一人で背負えってか?お前の死をさぁ…」

声が震えたのには気づいていた。


「蒼空」

「天音。どうした?」

「…情報屋の友達の力、借りてくる。だから暫く連絡とかできないかもしれない」

そう言うと四本は気の抜けたような顔をした。

「そっか。…わざわざ伝えるか?」

「報連相って大事」

「あー…たしかに。うん、了解。斗碧と葵生にも伝えておくな」

ありがとぉ、と言い博多は白の外套を翻していった。


(申し訳ないなぁ、嘘ついて。さてと、朝陽が送ってきた場所はどこだ?)

博多はスマホの画面を開くと場所を確認する。

「…とおっ」

関東から出でいることに、げっ、という顔をしてから何が待ってんのかなぁ、と呟いた。


聖永(せいな)

「!いらっしゃい」

振り絞るような声で呟いた博多に魅樹(みき)聖永は小首を傾げる。

「天音」

「…ん?」

「…あたしで良けりゃ、話聞くぞ?」

「っ、うんっ…」

耐えに耐えたその末に博多はくしゃりと破顔させた。

「仲間がっ…、朝陽が、死んじゃったって…。っ、絶対はないんだって、思い知らされてさぁ…。朝陽、ほんとは死んでないんじゃないかって、思いたくて…ごめん」

涙を袖で拭いながら博多は深く深呼吸をする。とんとん、と背中を優しく叩きながら魅樹は、ありがとな、話してくれて、と言いながら飲み物を渡した。

「それで、あたしに生存確認をしてほしいのか?」

魅樹がそう問うと博多は首を横に振った。

「この場所について調べてほしくて」

それは中園から送られてきた地図だった。

魅樹は右目だけ色素が抜けた双眼を細めてから、待ってろ、と奥へ歩いて行った。

「あったあった。ほいこれ」

中園の示した場所付近の資料を見せ、指をさしながら話し始める。

「ここの土地の海岸付近だと思う。ここらは鬱蒼とした森林があって身を隠しやすいな。小屋とかも隠せそうなサイズだ。地形的にちょい危険目で人が寄り付かないっぽいな。隠しごとするにはぴったりだ」

そう言ってから魅樹は己の灰色の髪を結い直す。博多を覗き込みながら、ほしい情報は得れたか?と聞いた。

「うん。ありがとう、聖永」

「お前の頼みならいつでも聞くよ」

二人は顔を見合わせてカラカラ笑った。


「新幹線代、朝陽のポケットマネーからこっそり抜いてやろうかな」

犯罪になるし止めとくか、と言ってから博多は券売機で新幹線の切符を買う。カショ、と音を立てて吐き出された切符を取り出しながら目を細めた。

(…。私に何を見せたいんだろ、朝陽は)

幽霊になった朝陽が居たりして、と微笑を溢してから博多はため息を吐いた。

そうだったら、うんと説教を食らわせてやろう。もうわかったよぅ、なんて言われても、絶対に満足いくまで言ってやる。その場にいないメンバーの分までたっぷり。そんな夢物語を思い浮かべているあいだに、博多は眠りに落ちていた。


「やべっ、もう着くじゃん」

いそいそと荷物を纏めて、といってもそれほどの量はないが、博多は飛び出すように外に出た。

(慎重に行ったほうがいいよな、ここからは。朝陽がわざわざ隠れるようなところをメールで伝えてんだから)

長い髪を払ってから博多は地図の示す場所に着実に歩みを進める。

田舎道を超え、獣道を超え、最早道ですらない場所を驚異的な身体能力で超える。

木々を伝っていると隙間から小屋のようなものが見えた。

「もしかしてあれか…?あれだ。地図と一致してるしっかり」

よいしょ、と言いながら博多は小屋の方へ体を滑らせる。

小屋の前は意外にも広めの空間が広がっていた。

すん、と鼻を動かす。

「血の臭い…?」

言うが早いか博多は小屋に向かって駆け出していた。

意外に立て付けの良い扉を開けると血がこびりついた封筒が落ちていた。

「少し乾いてる…。ちょっと前のやつか?これ」

くるりと手紙を回して博多は息を呑む。

(私宛…。しかも、朝陽の字)

恐る恐る封筒を開けて便箋を取り出す。

丸く控えめな字。それも確かに中園の字だった。

『わざわざここまで来てくれてありがとう。

実は、メールが送られた時、なぜか俺は一命をとりとめていました。暫く意識は飛んでたみたいだけどねぇ。

俺を襲ってきた暗殺者との決着はちゃんと付けました。大丈夫、殺してないよ。だからその点は心配しないで。

傷の処置はちゃんとしたんだけど、それじゃ間に合わせが効かないみたいなので、手紙を残させてもらいます。

俺が手に入れた日々は幸せで、手放したくない、掛け替えのない大切なものでした。あの時蒼空に逃げようって言ってもらえたことで手に入れることができて、ほんとに退屈なんて言葉とかけ離れた温かい日々でした。

天音があの時、俺が何者でもいれなかった幼いときに、いつか名前を教えてって言ってくれたおかげで俺はそこまで行くことができたんだと思う。ありがとう。

どうか、俺のことは忘れて生きてください。一足先に俺は地獄に行くけど、君たちのことを待ってる。

俺が残していく小物はどう扱ってもらっても大丈夫です。

中園朝陽』

手が震える。

先程漂ってきた悪臭はここからしていたものではない。

まさかと思っていたが、そこの小さい机で鈍く光っているものは…。

「…これ、朝陽の指輪型暗器…。それにこれって…、朝陽がつけてたピアスたち…」

息が震える。

血の臭いの根源は…。

「っ、まさか」

小屋から飛び出して裏に回る。

氷室のような、冷気の漂っている場所の扉を開ける。

「!っ、あぁ、ああ…」

元々赤みのある外套は血を吸って更に赤くなっていて重たげに地面へついている。

ズボンとブーツには血がこびりついている。

大きな手は力なく下ろされていて、ぷつんと切れたようにそれは首を垂らしていた。

「朝陽…。朝陽っ、…嘘、だって、言ってくれ…」

博多は中園の首元へ手を伸ばす。

脈はない。

死体は見慣れていたはずなのに、親しい人のそれは脳が拒んでいるようだ。

(くそ、くっそ…。夢であってくれ。夢であってほしかった…。夢でもいいから、せめて、せめて)

「名前を呼んで…」

辛うじて音になったそれに応えるものはいなかった。

ゆっくり博多はスマホに手を伸ばして電話を掛ける。

「っ、…もしもし、蒼空」

『天音。朝陽は見つかったか?』

「うん、見つけたよ」

『!代われそうなら朝陽に…』

嬉しそうな声で言う四本の声を遮って博多は口を開く。

「死んでた」

『…は?今、死んでたって、言ったか?朝陽が?』

「もらった情報の場所行ったら、朝陽が付けてたアクセサリーがあって、血の臭いをたどったら…っ、朝陽が、っごめん、蒼空」

『っ…。そっちに向かわさせてくれ。場所を送って。すぐに斗碧と葵生も連れていく』

「うん」

四本に現在地を送り博多はスマホをその場に置く。

光が失われた夕焼けの瞳をそっと手で閉じてやり、己の真っ白な外套をかけてやる。乾ききっていない血がにじんだのは気にしないことにした。

「気長に待っててよ、朝陽」

中園の緑青の髪をふわりと撫でる。

「…おやすみ、中園朝陽」

五月には不釣り合いな冷たい空気が漂っていた。

お久しぶりです。あゆーです。【冷たくなったレッドベリル】を読んでくださり、有難う御座います。これを投稿する数ヶ月前より前あたりにこれを書き殴った為、読み苦しいところ多々あると思います。

レッドベリルという宝石、皆様ご存知でしょうか?Wikipedia君曰く、赤色を呈する稀産の緑柱石ベリルだそうです。石言葉は、サイトによって違いがあるので確証持って言えませんが、『誠実』や『幸福』などだそう。

因みに、続編があと二つほど出る予定ですので時間があれば是非。

ではまた、次回の作品で会いましょう。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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