第四話「この一球で、証明する」
恋してるひと良いな〜
地区一年生大会、男子ソフトテニス部門。
会場となった県立総合スポーツセンターには、朝から独特の緊張感が漂っていた。
ユニフォーム姿の高校生たちが、各校のエリアに集まり、ラケットを手にウォームアップに励んでいる。
その中に、湊と智也の姿もあった。
「……気持ち悪いくらい晴れてるな」
智也がボールをつつきながら空を見上げる。
「夏の始まりって、こういう天気多いよな」
「氷室が季節語るとかレアすぎて、逆に天気より気になるんだけど」
湊は無言でボールをキャッチした。
それが合図のように、ふたりはラリーを始める。
智也のフォームはリラックスしていて、どこか遊びがある。
対して湊は、静かに、だが芯をぶらさず打ち返していた。
言葉は少ないが、打球の応酬がすでに会話になっている。
それがこのふたりの“いつもの調子”だった。
「おーい、氷室くん、試合前に水分ちゃんと摂っとけよー!」
別のコートから叫ぶ声がした。
振り向くと、ロングの高身長の女子が居た彼女はソフテニ部の1年女子、隣のクラスの西園寺 凛だった。
彼女は試合運営の手伝いとして今日は会場に来ていた。
「……ったく、あいつ声でかいな」
「でも、ありがたいタイプではある」
「お、珍しく素直」
湊は無言で水を飲んだ。
その時だった。
「本庄、氷室。次の試合、コート3番に移動して」
試合係が声をかけてきた。
「来たな。2回戦、あの“鷲掴”ってとこと当たるんだっけ?」
「……ああ。初戦からやばいやつらしい」
「いいじゃん、強いとことやんの楽しいっしょ?」
智也がラケットを肩に乗せ、湊に向かって小さく笑う。
「いこうぜ、“一球ずつ証明”してやろう」
湊もわずかに頷き、ふたりはコートへ向かって歩き出した。
鷲掴高校のペアは、噂通りの存在感だった。
前衛・**飛鷹 蓮**は目を細め、相手を観察するように見てくる。
その隣の後衛・**真島 要**は無言でラケットを構え、フォームに一分の無駄もなかった。
「氷室 湊、本庄 智也ペア、対、飛鷹 蓮、真島 要ペア。5ゲームマッチプレイボール!」
開始のコール
第一セットの立ち上がり、鷲掴のサーブから。
真島のサーブだが、滅茶苦茶早い!
しかしそれ以上に、読みづらいコース取りと回転に特徴があった。
「チェンジサイズ!」(コートチェンジして、サーブとレシーブが変わる)
あっという間に一ゲームを奪われる。
湊が、ロブを上げて相手を崩そうとするが、そんなのお構い無しに打ってくる
智也は、得意の回転を使いつつ立ち回るがまた一ゲームを取られた
——2-0。
(次のサーブは鷲掴高なので先にカウントが呼ばれます)
「……やるな。さすが強豪」
「連携、めっちゃ作り込まれてるな。息ぴったり……ってより、精密機械みたい」
湊は深く息を吐いた。だがその目に迷いはない。
「でも、それだけだ」
「……は?」
「“正確”だけじゃ崩せない。どこかで、必ずズレる」
「そういうの、俺けっこう好きだよ」
次はレシーブ湊。ラケットを持つ手に、力が入る。
——ここからが、俺たちのラリーだ。
「チェンジサイズ!」
審判の声が響く。
湊は静かにボールをセンター側に打ち返し、力まず、狙い澄ましたコースへ打ち込む。
――スッ。
「ゲームカウント1−2!」(さっきのゲームは氷室達が取ったから)
相手後衛・真島の構えたラケットのギリギリを狙う低空サーブ。
「っ……!」
真島の返球は僅かに浅くなる。
即座に湊がネット際に詰め、コンパクトなスマッシュ。
「ナイサー!智也!」(ナイスサーブの略)
声と同時に湊と智也が視線を交わす。
——でも、それで十分だった。
「今の、完全に計算してたよな」
「湊のタイミング、わかるから合わせれたよ!」
「智也、調子いいな。体調でもわるいんか?」
智也が吹き出す。「褒めてんのか、それ?」
二人の呼吸は合っていた。
そこからの1ゲームは、徐々に湊と智也の“空気”がコートを支配していく。
・お互いを信じて飛び込むポーチ
・声を出さずにスイッチするフォーメーション
・湊の読みに、智也の反射神経が乗る連携
「チェンジサービス!」(コートチェンジせず、サーブとレシーブだけ変わる)
「なんだあの連携……アイコンタクトだけで動いてんのか?」
鷲掴の飛鷹がぼそりとつぶやいた。
「感情を捨てたお前が、一番驚いてるようじゃ……勝てねぇよ」
智也が後ろのベーススラインに立ち湊がサービスラインに立ち相手のサーブに備える
「ゲームカウント、2-2。ファイナルゲーム」
観客席のざわめきが静まり、風の音が際立つ。
緊張感が張り詰める中、カウントが6−4になった(湊と智也が優先してる)
彼の目は、まっすぐネットの向こうを射抜いていた。
「……いけるな?」
湊の問いに、智也はひと言。
「合わせる。お前が、信じて打てば」
湊はふっと口元を緩めた。
「了解。じゃあ、任せた」
真島がサーブを打ち!智也がそれに合わせるように少ないスピンのボール
真島のラケットが反応する。だが――
「浅っさ!」
湊が全速力で前へ。
わずかに浮いた返球を、身体ごと踏み込んで叩き込む。
「…ッシャ!」(この一発で、決める!!)
スマッシュはラインのギリギリを突いた。
審判の声が響く。
「ゲームセット!」
一瞬の沈黙のあと、観客席がざわめきと拍手で包まれた。
智也が手を上げる。「おらっ、やったぞ!」
湊はいつものように無言。
だが、智也とすれ違いざま、小さく拳を合わせた。
それが彼らにとっての、最大のハイタッチだった。
コート脇。
観客席の一角、紬が静かに立ち上がる。
拍手もしない。ただ、ほんのわずかに、口元が綻んでいた。
「……やっぱり、かっこいいな」
誰に言うでもなく、小さくそうつぶやいた。
――その声は届かない。
でも湊は、試合後ふと観客席を見上げ、
風に揺れる制服の影に、彼女の姿を確かに見ていた。
ソフトテニス部女子
高3,0名
高2,4名
高1,4名
高2の代で復活した部活(男子も)
次回「何も言われなかったけど」