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第11話

社交会にて満足のいく成果を得てホクホク顔のネイピアスは、泊っているホテルの屋上で理想流体(アイデアル)のさらなる改良を行っていた。

これまではサングラスを再現していたが、今後のために偏光機能をつけたアイセーフティの再現に本格的に着手したのである。


改良に集中していたネイピアスだったが、ふと何かに気付いたように突如ホテル前の空中に事象の地平線(ボーダーライン)を発動した。

それと同時に飛翔してきたナニカが不可視の障壁に衝突し、爆炎と轟音を撒き散らす。

放物面状に発動した障壁によりホテルや街に被害が出ていないことを確認した彼は、すぐさま攻撃についての考察を開始していた。


(凄まじい量の火属性の魔力を込めた弾による長遠距離狙撃だな。弾道からして、おそらく狙いは兄さんだろう。僕とは桁違いの魔力の遠隔操作技術と、高密度に圧縮するほどの魔力操作の腕前をもつ実力者...。)


自然と口元が歪み、意図せず三日月のような獰猛な笑みを浮かべてしまう。

戦ってみたいと、うずく身体がそう訴えかけてくる。


(そして爆発。芸術は爆発だ!極めたロマンは美しく芸術である!)

(つまり!爆発とはロマンである!)


忍び装束に身を包んだ戦闘狂が、夜空に残る赤い残滓(ざんし)が続く先へと風を身に纏いつつ音を置き去りに跳びたった。



◇ ◇



「初めまして『スナイパー』さん。なかなかに面白い演出だったね。」


(『スナイパー』と言ったか...?まさかこいつも転生者か!?)


とてもそのふざけた見た目だけで安心できるほど、フランク・アバンダントは弱くなかった。

子供ほどの身長にジャパニーズニンジャの格好など、見た目こそふざけているものの、立ち姿だけで無意識に身震いしてしまうほどに圧倒的な格上だと理解してしまった。

それに加えて、転生者であれば自身と同様に神から与えられた人外の力をもっているはずである。

だからこそ、可能ならば戦わずにニンジャを懐柔しておきたかった。


「その言葉を知っているということはお前も転生者なんだろう?俺は転生前に炎神と名乗る神に会ったが、お前は誰に会ったんだ?」

「転生者?それよりも神だって?そんな不思議な存在は会ってn...いや、まさか転生前に会ったあの筋骨隆々の脳筋悪魔は神だったのか?」


(筋骨隆々...誰のことだ?転生前に会ったならそいつが神のはずだが...。)


「...さしずめ主神か武神といったところか。まぁいい、本題に入ろう。我々は暗殺を生業としている組織だが、どうだろう?興味はないか?」

「申し訳ないが、暗殺には興味がないんだ。正面から理不尽な強さでねじ伏せるのが好きなんだよね。」


(神に脳筋とか言っておきながらお前も脳筋じゃねーか。)


「そりゃ残念だ。お前も転生者なら分かるだろうが、俺も当然規格外の能力を貰っているわけだ。ここで殺り合えば当然お前もタダじゃすまねぇわけだが...。どうだろう、ここは互いに見なかったことにしないか?」

「へぇ...。さっきの爆発以上に面白い能力があるなら早く見せて欲しいな。」


ニンジャから濃密な殺気が漂う。

どうも戦いは避けられないらしい。

その態度からフランクは説得をあきらめ、逃走ないしニンジャの殺害へと舵を切った。


突如として吹き上がる炎にニンジャの姿が飲み込まれる。

魔法発動後の状況を見ることすらせずにフランクは逃走しようとするが、いつの間にか見えない壁に囲まれていたことにようやく気付く。

立ち止まったフランクに、炎の中からひどく残念そうな声が響く。


「まさか規格外の能力ってコレのこと?こんなの人間の規格内じゃん。日本の安全法ですら規制範囲内だって。」


その声とともに強制的に炎がかき消され、中から無傷のニンジャが現れる。

姿を捉え、無傷であったことに戦慄するフランクだったが、しかしその姿が次第に暗くぼやけて見えていくことに気付く。

それと同時に自分がバランスを保てなくなり、フラフラしていることにも。


(なんだ...?やつの能力か?...いや違う、そうか酸欠だ!)


「あ、気付いた?そりゃ何も考えずに密閉空間でガンガン燃焼させてたら酸欠になるよね。」


(マズい...!なんとか状況を打開しなければ!!)

(壁を破壊できなければどのみち終わりだ!こうなったら...!!)


フランクの魔力が急激に活発化していき、巨大な火災旋風を作り出す。

ついに耐えられなくなった不可視の障壁が破壊され、外部の空気が急速に流れ込むことで大爆発が発生する。

フランク自身も火傷と爆風によるダメージを受けたものの、火属性の魔力を扱っていることに加えて身体を神によって火属性に最適化されただけあり、熱・火傷にかなり耐性がある。

一方でニンジャが扱う魔法の属性はさっぱり分からないが、火と水でないことだけは分かった。


「壁を破壊しつつ、奴を殺害できれば...!」そう思い、残りの魔力のほぼすべてを使って発動した大技だった。

魔力が急激に減少したことで眩暈が起こり、膝をつきながらも彼はニンジャの死を祈った。

...がしかし、現実は非情であった。


「技のエフェクトは悪くないと思うんだけどねー...。」


あれだけの大技だったのに、あれほどの魔力を用いたのに、そこにそいつはいた。

相変わらずふざけた格好の無傷の状態で。


「所詮は人工物ってところかね。後付けだからか、理解も、練度も、精度も、制御力もなにもかもが足りない。一言でいうと、美しくないってことだね。」


(人工物...?美しい?宝石の話でもしてるのか?)

少しでも魔力が回復するまでの時間を稼ぎたかった彼は、会話を試みた。


「...人工の何が悪いんだよ。」

「いや、別に人工物でもいいのよ。そこに美しさがあれば、だけど。」


彼の努力も空しく審判のときは訪れる。


「教えてあげよう。圧倒的なほど強く、そして美しい力というものを。」


そう言い終えた瞬間、フランクは膨大な光の奔流に飲み込まれた。

過度な光量に目を焼かれた直後、超高熱に全身を焼かれる。

地獄の業火ですらまだぬるいだろうと、そう思ってしまうほどの熱だった。

「いっそ焼死できればどれほど楽だったろうか?」そう思わずにはいられないほどに痛く苦しい。

しかし、不幸なことに熱耐性をもっていたことで、皮膚が焼け爛れた状態ながらも命は残っていた。


...永遠に続くと思われた苦しみだったが、終わりを迎えたようだ。

「ようやく解放された」と、そう安堵したフランクは、続く彼の言葉が再び地獄行きへの宣言だと気づくことができなかった。


「殺しちゃうと兄さんを狙った理由が聞けないじゃん、ギリギリセーフ...。それじゃあなぜ狙ったのか、その理由を魂に聞いてみようか。」


再び激痛が全身を駆け巡る。

ただ、先ほどまでは皮膚を焼かれる物理的な痛みだったのに対して、今回の痛みはまるで自分という根源的な部分を侵食されるような、そんな発狂してしまうような別次元の痛みだ。


「なるほど、マーダー・インクねぇ。...というかあの序盤ボスだと思ったザコって転生者だったのか。」


必要な情報を搾り取った頃には、フランク・アバンダントは既に息絶えていた。

次第に近づく足音を背に、ネイピアスは夜の闇へと消えていった。



◇ ◇



「...この度の報告は以上になります。」


国王ハイペリオンは執務室にて魔法師団の師団長から事件の詳細の報告を受けていた。


「またもマーダー・インクが殺害されたか。とすると、エルミートはマーダー・インクと敵対している可能性が高いな。」

「ええ。というかですよ!最後にほんの少しの間だけ姿を見た程度ですが、本当に子ども程度の身長でしたね...。しかも私から見ても全く魔力の行使が感じ取れないほどの隠密性!正直なところ、想像以上に化物でした!」


相変わらず呑気な師団長が少しうらやましくなったハイペリオンであった。


「...何を嬉しそうに語っておるのだ。現状我々の敵ではないというだけで、味方とは限らないのだ。敵に回れば厄介なことこの上ない。」

「まぁそれはそうですね。他国もどうやらエルミートに興味をもって探りを入れているようですし。とはいえ、噂が事実か確かめる程度で本格的に調査をしているという訳ではなさそうですが。」


「先に他国に引き抜かれるわけにはいかぬな...。」


そう呟いた国王ハイペリオンは、しばらく考え事をするかのように俯いたあとで次の命令を下した。


「エルミートの身元を割り出せ。そして可能ならば接触し、取り込め。不可能であっても、決して敵対行為を行ってはならない。なお、これは国家機密に該当する秘密任務である。」

「かしこまりました。」


普段はお調子者といった様子の師団長が、真面目に対応するほどの重い空気が漂っていた。



◇ ◇



後日、まるで神話の戦いの一コマのような光景を目にした人々により、王国内ではエルミートなる者について様々な噂が飛び交っていた。

現人神と呼び崇める人々、魔王軍の幹部だとする人、人智を超えた力をもつ魔神、魔王討伐のために神が遣わした勇者...など、噂は数えきれないほどである。


自分がエルミートだと名乗る者やエルミートの弟子と名乗る者まで出る始末だったが、それ以後は特に大きな事件もなく、王都は平和そのものだった。

そして数年もするとエルミートの噂は次第に忘れられていったのだが、それはもうちょっと先の話である。

暇なときに書いてのんびり気ままに更新します。

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