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55.口喧嘩ってのはなれない


 手を出してはいけないのは、テイラー嬢の暴挙を止めた私が一番わかっている。挑発かもしれないとわかっていても、怒りを抑えられずにはいられなかった。


「……訂正いただけますか」


「はい?」


 こんな奴相手にしないのが吉だとはわかっている。低レベルな喧嘩を売られているのも理解していた。それでもクリスタ姉様への侮辱を取り消させたいという思いが強かった。手を出してはいけないのなら、口で戦うしかない。そう判断した私は、静かな怒りをテイラー嬢へとぶつけた。


「野蛮な令嬢は……レリオーズ侯爵家の令嬢ではなく、私……アンジェリカのみの話だと」


「あら、事実じゃない」


(事実って……んなわけねぇだろ)


 はっと嘲るように笑うテイラー嬢は、自分が吐いた言葉に悪びれる様子は全くなかった。それどころか、余裕のある様子で私を見下していた。何を言っても屁理屈で返してくるテイラー嬢。社交界経験が浅いからか、デビューしたてだからか、上手く言葉を返せなかった。


(淑女教育で姉様から、挑発や嫌味に対して文句で返すのは違うって教えられたんだよな……そういう時こそ品よく立ち回れなんて言われたけど、どうすればいいんだ?)


 そもそもテイラー嬢が口にした〝野蛮〟という言葉は、もはや隠せてない。直接的な悪口と言える。ただ、だからと言って私がここで悪口を返すと、同じレベルとなってレリオーズ侯爵家の評判に響く可能性があるのだ。


(本当貴族ってめんどくさいよな。今の状況、どう考えたってタイマンだろ。なら手を出して決着つけた方が早いってのに。……体裁か。仕方ねぇな。世話になってる実家に泥を塗るような真似はしちゃいけない。よし、やるぞ)


 意を決すると、私はテイラー嬢に返す言葉を考え始めた。品よく嫌味をいうことを冒頭に、悲し気な表情を浮かべて口を開く。


「事実だなんて……もしや、テイラー嬢は視力が悪いんでしょうか。心配ですね。おすすめの医者を紹介しますよ」


「……何ですって?」


「遠慮しないでください。教えるのは無料なんで」


「はぁ?」


 嫌味になっているかわからないものの、同じ土俵に立たずに言い返すことはできている……と信じたい。


「ぶ、無礼な……掴むだけでなく、侮辱までするだなんて。このことは、しっかりとレリオーズ侯爵家宛てに抗議させていただきますわ!」


(えっ。思ってたのと違う)


 てっきりまた何か言い返されるとばかり思っていた私は、抗議という言葉を耳にして内心驚いていた。


(こ、抗議っていうのはあれか? 告げ口みたいなもんなのか? だとしたら、なんて言い返すのが正しいんだ……。あぁ、こんなことになるなら、もう少し姉様の授業をまともに聞いとくべきだったな)


 動揺する私と比べて、テイラー嬢はしてやったと言わんばかりに、相変わらず見下すような視線を私に向けていた。


「掴んだ上に侮辱。誰がどう見ても、問題があるのは貴女だと判断するでしょうね。レリオーズ嬢。……もちろん、アーヴィング公爵様も」


「‼」


 テイラー嬢の口からギデオン様の名前が出てくるとは思いもしなかったので、思わず目を見開いてしまった。驚きのあまり体が固まっていると、テイラー嬢はそっと近付いて耳元で囁いた。


「アーヴィング公爵様の隣に貴女みたいな人は相応しくないのよ」


 ばっとテイラー嬢の顔を見れば、クスリと嫌な笑みを浮かべていた。


「そういうことですから。きちんと抗議させていただきますね?」


(抗議とかまだよくわかんねぇけど、ギデオン様の耳に届くのは嫌だ……!)


 心の中で浮かんだのは、ギデオン様に悪く思われたくないという一心だった。どうにかもう少しテイラー嬢に言い返せないか、事を収められないか考えた、その時だった。


「それでは私達レリオーズ侯爵家の方からも、正式に抗議をさせていただきますね、テイラー嬢」


 声がした階段の方を見上げば、そこにはお淑やかな笑みを浮かべるクリスタ姉様がこちらを見つめていた。


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