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49.宝石よりも価値のあるもの(ギデオン視点)


 アンジェリカ嬢と王都で一日を過ごしてきた。

 細かく言うと半日なのだが、非常に濃い時間だった――。 


 アンジェリカ嬢と過ごす日々で、自分の目に対する認識が段々変わっていた。だからこそ今日は前髪を上げた。アンジェリカ嬢なら受け入れてくれる、そう淡い期待を抱いて迎えに行った。


「すみません。あまりに素敵なもので、魅入ってしまいました。おかしくなどありません、とてもお似合いです」


「……ありがとうございます」


 期待以上の言葉に嬉しさがこみ上げてきた。アンジェリカ嬢のおかげで、少しずつ自分の目が好きになっていった。


 出会い早々気分が上がると、そのまま胸が躍る時間が続いた。

 その後は一人では行く勇気のなかったお店を巡ったり、彼女と甘い物を食べたりと、本当に幸せだった。しかし、途中女性に誤解をされるというハプニングがあって、俺の気持ちは沈んでいた。


 ――俺は何か勘違いをしていたのかもしれない。

 

遠く離れた場所からでもわかるほど、圧を感じるほど、鋭い眼光なのだ。決してそんな意図はなくても、相手にそう思われてしまう。この瞳は変わらないのだ。暗い感情がどんどん重く苦しくのしかかってくる。


 それでも今はアンジェリカ嬢と一緒に過ごしているのだから、切り替えなくては。購入した甘い物を入れていた紙袋を覗きながら、気持ちの整理をしていた。彼女を心配させないように振る舞ったつもりだったのだが、それを見抜かれてしまった。


 下を向いている俺を覗き込むように、アンジェリカ嬢は目を合わせてくれた。その瞬間、嬉しさがこみ上げてきたのと同時に鼓動が速くなったのがわかった。


「私はギデオン様の瞳が好きなので。ギデオン様が気にしてしまったり、嫌になってしまったりする度、私が魅力を伝えます」


「‼」


アンジェリカ嬢から伝えられた言葉は一生忘れられないものになった。

 どんな宝石よりも価値のある、かけがえのない贈り物を受け取った。


「だから大丈夫です。気になったらいつでも言ってください」


(……あぁ、俺はアンジェリカ嬢のことが好きだ)


 この屈託のない笑顔と、真剣な声に何度も沈んだ心を救われてきた。そしてまた今日も、アンジェリカ嬢への気持ちが膨らんでいった。


 その後は何事もなかったかのように甘い物を食べ始めた。和やかな時間を過ごすと、今日はそれでお開きになった。馬車の中で今日食べた物を話していた。その傍らで、一人反省をしていた。


(凄く充実した一日だった。……けどそれはあくまでも、俺の視点だけ)


 もちろん、今日はアンジェリカ嬢主導ということもあるので、楽しませる側と楽しむ側としてわずかに立場が異なる。それでもこの一日、俺は何もできなかった自覚があったので、後悔の残る日でもあった。


 スイーツを食べた感想を語り合っていると、ふとあることに気が付いた。


(……なんだか、観劇に行った時と似ているな)


 時間を重ねてきたものの、距離感が大きく変わったかと聞かれれば自信を持って頷けなかった。ハッキリとわかったのは、このままではいけないということだった。


 こうして会って時間を過ごしてくれるだけで、満足するべきなのかもしれない。でも俺の中で、欲が生まれてしまった。このままアンジェリカ嬢にずっとそばにいてほしいと。


 今後どう立ち回るべきかは屋敷に戻り次第考えることにした。今はアンジェリカ嬢を無事送り届けることが最重要なので、そちらに集中する。屋敷に到着したところで、一つ気になっていたことを思い出した。


 噴水の前に到着した時女性に遮られてしまった話があったので、アンジェリカ嬢に話の真意を尋ねた。アンジェリカ嬢は隠すことなく、真っすぐな瞳で教えてくれた。


「あの時噴水を眺めていたと言いましたが、本当は違うんです」


 申し訳なさそうにする姿を見ると、真っすぐなのは瞳だけでなくアンジェリカ嬢の内面もそうなのだろうと感じる。


「誤魔化してすみません。……あの時、広場にはたくさんの男女がいたじゃないですか」


「……えぇ、いましたね」


 急に話が飛んだような気がしたので、どうしたのだろうかと思考をめぐらせた。


「実は彼らを見て、私達の関係に疑問が生まれて。もやもやって言うんですかね……あの人達は恋人同士なんだろうけど、私達の関係には何も名前がないのだと思うと、どこか気分が晴れなかったんです」


(……………………………………うん?)


 アンジェリカ嬢の説明は、にわかに信じがたい言葉だった。まるで自分に都合のよい言葉が並んだようにしか思えなくて、幻聴が聞こえたのではないかと疑った。それ以降はもう自分がどう立ち回ったのか覚えていない。


「だけど大丈夫です。今はとても楽しい一日を過ごせたと思っていて、気分も晴れているので!」


「そ、そう、ですか……?」


「はいっ。今日は本当にありがとうございました。またどこか一緒に出掛けましょう」


「は、はい」


 動揺を隠しきれないままアンジェリカ嬢を送り届けると、アーヴィング公爵邸に向かう屋敷に向かう馬車で、こんがらがった思考が頭の中をぐるぐると回り続けていた。


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