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46.雑念は捨てるべきだ


 ギデオン様の願いを叶えるべく、私達はスイーツ巡りを始めた。


 塩キャラメルプリン専門店を離れると、次はスイーツ店中心に並ぶ通りに向かった。店内で食べられるお店もあったが、何種類か買って噴水広場のベンチへ戻ることにした。


「思わずたくさん買ってしまいました……」


 各店舗で購入したスイーツを茶色い紙袋にまとめて入れており、それを大切そうに抱えるギデオン様の姿が幸せそうに見えた。嬉しそうな声色は聞いている私も口角が上がってしまう。


「迷ったもの全部買いましたからね」


「すみません」


「謝る理由はないですよ。迷ったら買うと言ったのは私ですから」


 申し訳なさそうに俯くギデオン様に対して、私はすぐさま首を横に振った。


「それに色々なスイーツを食べられるのは、私も楽しみなので」


「……ありがとうございます」


 本音を口に出すと、ギデオン様は顔を上げて微笑を浮かべた。


 スイーツ店メインの通りを抜けて広場に向かっていると、噴水が見えてきた。


「よかった。先程座っていたベンチが空いていますね」


「本当ですね。同じ場所に座りましょう」


 ギデオン様の言葉を受けて目線を向ければ、誰も座っていないベンチが目に入った。


(お昼すぎだからか、人が増えてきたな)


 塩キャラメルプリンを食べた時に比べると、噴水付近の人口が増えていた。


(心なしか、恋人が多い気がする)


 噴水前でのんびりと過ごす男女や、付近の屋台でスイーツを購入する男女など、各所に恋人らしき二人組が見えた。噴水周辺で賑わう様子を見ていると、少し意識してしまう。


(私達はまだその関係じゃない……)


 心の中で言語化してみると、いい気分にはならなかった。なんだかもやもやした気持ちになったが、その理由はわからなかった。


「アンジェリカ嬢。大丈夫ですか?」


「えっ」


「どこか体調が悪かったりしますか?」


「いえ。大丈夫です。噴水に気を取られただけなので」


「そうでしたか……よかった」


 本当に気を取られたのは噴水の〝周辺〟なのだが、反射的に濁してしまった。


(変に心配させちゃいけない。それにしっかりしないと)


 今日はギデオン様に楽しんでもらう日なのだ。雑念は捨てるべきだと切り替えながら、ベンチの方へ近付いた。


「すみません、紛らわしいことをしてしまって」


「とんでもない。王都の噴水は美しいことで有名ですから」


 穏やかにフォローをしてくれるギデオン様に、申し訳なさを覚える。


(噴水なんてさっきプリンを食べた時いくらでも見たから言い分としてはおかしいはずなのに、言及しないでくれた)


 それがギデオン様の優しさとわかると同時に、誤魔化そうとした自分が恥ずかしくなってきた。そして、追及しなかった上にフォローしてくれたというのは、少なくとも私が変な顔をしていたのは事実なのだ。もしかしたら何か誤解を与えてしまったかもしれないという可能性に気が付いた。


(……集中できなかったのは自分の落ち度なのに、濁している場合じゃない)


 そう意を決すると、ベンチに座る前に本当のことを伝えようと口を動かした。


「ギデオン様、あの――」


「すみません……!」


 私の声は女性の声に遮られた。

 ギデオン様と二人、ベンチの前に立っている状況で、女性はギデオン様に声をかけているように見えた。


「えっ……」


 ギデオン様からは困惑気味の声が漏れる。その様子から知り合いではないことはわかったのだが、女性は声をかけた状態で止まっていた。


「どうかなさいましたか」


「あっ。あの」


 沈黙が流れる中ギデオン様が尋ね返すと、女性は緊張した様子で頭を下げた。


「先程はありがとうございました……!」


「……え?」


 唐突に感謝を告げられたことで、ギデオン様の困惑はより一層深まった。


「すみません。何かお礼を言われるようなことはしていないのですが」


 何があったのだろうと私も横で疑問を抱いていると、女性は一生懸命話し始めた。


「じ、実は先程まで男性に絡まれていたのですが、その男性を睨んでくださったおかげで解放されたので……」


「睨んだ……すみません、貴女と男性はどちらにいらっしゃったんですか」


 女性の言い分を聞いた瞬間、私は何となく起こった出来事を悟った。


「私、このベンチの近くで絡まれて……」


「……申し訳ないですが、決して貴女を助けようと男性を睨んだわけではありません」


「えっ。そ、そうだったのですか?」


 再び女性が困惑し始めたため、私は隣でうんうんと頷いた。


「はい。誤解を与えてしまったようで申し訳ないのですが」


「あ……それでも助けていただいたことにかわりはないので……」


 そう言いつつ、女性が気まずい雰囲気になるのを察した。


「助けになれたのならよかったです」


 最後まで紳士的な対応をするギデオン様だったが、結局雰囲気が直ることはないまま女性はベンチを後にするのだった。




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