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41.助言は活かすもの


 ギデオン様と王都に出かける日がやって来た。


 今日は私が主導で、いわばギデオン様をエスコートすると言っても過言ではない。

 クリスタ姉様から教わった知識、図書館の本で調べた内容を活かしながら立てた計画が上手く行くか期待と不安が同じくらい募っていた。


(……おかげでいつもより早く目が覚めてしまった)


 わくわくして眠れないということはなかったが、その代わりにわずかな緊張で早起きすることになってしまった。侍女が部屋に来るまでの間、もう一度今日のルートを確認しながら待機した。


 綿密な計画を立てたりする性格ではないのだが、今回はあくまでもギデオン様を楽しませるための回。下手をしないように、行く予定の店や順序をリストアップしたものを紙に書き起こした。まるで遠足のしおりのようなものを必死に見つめる。


 しばらくするとノックが聞こえて、侍女達が入室した。

 部屋に入ると、私が既に起きていることに一瞬驚いたものの、ニッコリと笑った侍女達はすぐさま私の方へ近付いた。


「さっ、お嬢様。早速準備を始めましょう!」


「……よろしく頼む」


 コルセットで締められるのも、粉をはたかれるのも覚悟ができていた私は小さく頭を下げた。


 レベッカが王都を歩くのにふさわしい服装を選んだ。王都に行く訳だが、それ以前に甘いものを食べに行くという目的でもあるので、本日は華やかなドレスではなくワンピースに近い緩めのドレスになった。

着替え終わると、今度はミラが化粧と髪のセットをして、無事外出可能な装いが完成した。身支度が整うと、軽く朝食を済ませて屋敷の玄関へ向かう。


 ギデオン様が到着するまであと小一時間はかかるというのに、私は部屋で待機せずに玄関の前を右往左往していた。じっと座って待てるほど、今日の私には落ち着きがなかった。


(……駄目だな、らしくない)


 ふっと息を吐くと、首を横に振って気持ちを整えようとした。すると、背後からどこか圧のある声が聞こえた。


「お嬢様……」


 ゆっくり振り返ると、そこには作り笑顔でこちらを細い目で見つめるミラがいた。


「……ど、どうしたんだミラ」


「今何をされたかおわかりで?」


「何をって……気持ちを整理しようと」


「内面ではなく、どう動かれたのかというお話です」


「首を横に振って――あっ」


 そこでようや己の過ちに気が付いた。その瞬間、ミラの視線が突き刺さるように感じ始めた。


「整えた髪が崩れました。直しますので、そちらにお座りください」


「は、はい」


 本日は長い髪を三つ編みにした上で、肩にかからないようにまとめている。

 ドレスに合わせた可愛らしい髪型でありながら、食事メインとなる一日の邪魔にならないよう考えられた髪型だった。


「いいですかお嬢様。首を横に振るなとは言いません。ただ、勢いよく振るのはお止めください。髪が崩れます」


「うっ。すまない」


 ミラは注意をしながら、慣れた手つきで乱れた髪を整えていく。その様子を鏡で見ている間、そわそわしている自分の気持ちも、髪みたいに落ち着けばいいのにとさえ思ってしまった。


「お嬢様。落ち着かなくてよいと思いますよ」


「え?」


「楽しみにしていたのならその気持ちを前面に出せばお相手様も喜ばれますし、緊張でしたらお相手様と過ごしていれば自然と忘れます。無理になくそうとすると、返って濃くなってしまいますから、気にしないのが一番かと」


「……そっか」


「はい。……大丈夫ですよ。お嬢様の立てた計画なら、失敗することはないかと」


 ミラの優しい助言は、不思議なくらいすっと胸に入って来た。私はその言葉通り、残りの時間はなるべく気にせずに過ごすことにした。



 時間が経つと、窓の外から馬車がやって来る音が聞こえた。

 すぐさま玄関を開けて、外で待機する。


 ギデオン様がレリオーズ家に来るのはもう何度も見た光景なのに、少しだけ緊張が増していた。


「お越しいただきありがとうございます、ギデオン様」


「お待たせしました、アンジェリカ嬢」


 そう言って馬車から下りてきたギデオン様の風貌は、以前と異なっていた。


「……髪を上げられたんですね」


「はい……アンジェリカ嬢の助言を活かしました。前回は遠乗りで、髪をセットしても崩れてしまうと思いましたので。今日なら崩れないと思って」


 以前の瞳が隠れるほど長い前髪は綺麗にかき上げられていた。目付きが悪いことを気にしていたギデオン様だが、隠さないことでそれは軽減されたと思う。

 眉毛と美しい瞳が見えるようになったことで、表情がよく見えるようになった。男らしく見えるんじゃないかという予想は見事に当たり、より魅力的な男性へと様変わりした。


「……ア、アンジェリカ嬢。おかしかったでしょうか?」


 素敵な変貌ぶりに目を奪われていると、ギデオン様は不安そうに私を見た。前と変わって、今は眉が少し下がっているところまで見える。


「すみません。あまりに素敵なもので、魅入ってしまいました。おかしくなどありません、とてもお似合いです」


「……ありがとうございます」


 すぐさま賛辞を伝えれば、ギデオン様は嬉しそうに微笑んだ。





 大変お待たせ致しました。遅くなってしまい申し訳ございません。 

 本日より投稿を再開させていただきます。お待ちいただいた皆様、誠にありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。



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