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36.相性の良い人(ギデオン視点)


 目的地に到着した。

 アンジェリカ嬢は馬術にも興味があるようで、後でじっくり見ることを約束して昼食へと移行した。


 両者共に二人分の昼食を用意してしまい、事前に伝えるべきだったと後悔が芽生えた所で「あるに越したことはない」と彼女は前向きに捉えてくれた。


アンジェリカ嬢は些細なことは気にせず、前向きに考えてくれる人だった。俺がマイナス思考をしても引き上げてくれる力があると思うと、個人的には相性が良いんじゃないかと感じていた。


(でもこれは俺にとってプラスなだけだ。……何か俺が彼女のプラスになれるものがあるといいな)


 そんなことをふんわりと考えながらも、目の前に並んだ食事に集中した。

 俺が持ってきたものはミートパイで、アンジェリカ嬢が持ってきたのはベーグルサンドだった。


(凄いな、甘いものまである)


 豊富な種類に感嘆しながら、二人で昼食を楽しんだ。

 その中でもアンジェリカ嬢はミートパイが大好きという情報を得て、また一つ彼女のことを知ることができた。


 食後のデザート代わりにというアンジェリカ嬢の言葉を受けて、俺は甘いベーグルサンドを堪能していた。ブルーベリーの入ったサンドは美味しくて、気分がとても良かった。それがうっかり顔に出ていたのか、彼女に言及されてしまった。


「ギデオン様。ギデオン様が、甘いものがお好きですか?」


「え」


「美味しそうに食べてらっしゃったので、そうなのかなと」


「あ…………」


 衝撃的だった。

 正直、この見た目で甘いものが好きだなんて言うのは恥ずかしく躊躇いがあったので、一瞬誤魔化そうかとも思った。


(……でも、アンジェリカ嬢に嘘は吐きたくない)


 そう思えた俺は、恥ずかしさを堪えながら頷いた。


「実は、はい」


 まさかこの選択によって、さらなるお誘いを受けられるとは思いもしなかった。それだけでも十分嬉しく驚くことなのに、甘いものをどこか食べに行きませんか、と言われた時はまた幻聴が聞こえているのではないかと疑いたくなってしまった。


(甘いものを……アンジェリカ嬢と一緒に?)


 それは間違いなく、俺にとって幸福な時間だろう。不安になりながらも返答を始める。問題ないか確認も含めて尋ねれば、アンジェリカ嬢は俺の不安を全て消し去ってくれた。


(俺が甘いものを好きでも全くおかしくない、か)


 アンジェリカ嬢が真っすぐな瞳で肯定してくれたので、甘いもの好きに自信が持てた。是非ともご一緒させてほしいという旨を伝えると、彼女は笑顔で返してくれた。


(今、この瞬間が幸せなのに、これ以上幸福を感じられるなんて……いいのだろうか、そんな贅沢をして)


 贅沢な不安を抱えながらも、俺達は昼食を終わらせて馬術を見ることにした。すると、そこでは予想外にもヒューバート殿下と遭遇することになったのだ。


 アンジェリカ嬢を紹介できる良い機会だと思いながら、殿下は意外にも困惑した表情をしていた。何かあったのだろうと察していれば、殿下に少し話をしたいと呼ばれた。アンジェリカ嬢と来ているので、彼女を一人にすることは何としてでも避けたかった。しかし、アンジェリカ嬢が送り出してくれた以上、断る理由がなくなってしまった。


 殿下について行けば、どこか深刻そうな顔をしていた。


「実はだな、今公務でここに来ているんだ」


「公務ですか」


「あぁ。他国の王族の接待みたいなものだ」


「外交関連ですか」


 殿下はこくりと頷いたものの、次の言葉を選んでいる様子だった。俺は自分が呼び出された理由と重ねて考えた結果、一つの推測が出た。


「それでは、あそこにいると外交の邪魔になってしまいますね。私達は別の場所で残りの時間を楽しもうかと」


「……すまないな、ギデオン」


 どうやら正解だったようで、殿下は俺達にこの場から離れてほしい様子だった。


「他にもできることはありますので、気になさらないでください」


「あぁ。……それにしても、彼女がレリオーズ嬢か」


「初めてお会いしますか?」


「まともに話したのは初めてだな。あの赤髪だけは印象的だからな、覚えていたが……そうか、彼女だったか」


「はい」


「まだほんの数分しか交流していないから、今度は是非しっかりと紹介してくれないか?」


「もちろんです」


 殿下に紹介する、その時には今よりも彼女との関係が明確になっているとよいなという願望が浮かんだ。


 こうして、殿下との会話を終えてアンジェリカ嬢の元と戻るのだった。


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