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気風の魔女─レディ・グレア─  作者: 智慧砂猫
第二部 レディ・グレアと小さな島の少女

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第33話「何も言われなくたって」

 遠い過去の誰かの財産であれ、今は島民たちのもの。大量にある財宝は彼らのより良い未来への投資にもなるし、今後に他の誰かが財宝を狙って現れないように、早くに運び出してしまったほうがいい。


 そうと決まれば食事も早くに済ませ、夕刻になる頃には手の空いた島民の男たちを港に集めて事情を説明して、運び出す手伝いをしてもらうことになった。本当に財宝があったのかと驚きの声がいくつもあがった。


 場所が場所というのもあって、運び出すのは少量で時間を掛けて行う。網に入れて運べそうなものは、数人で限界まで詰めて船に持ち上げた。そうして何度か繰り返し、マクフィンが秘密にしていた砂浜に置き、あとは日暮れまでに積めるだけ積んで港へ戻った。何があったのかと気になって眺めに来た貴族たちも「なんと、本当に海賊の財宝はあったのか」と、歴史的な瞬間を目に焼き付けて喜んだ。


 幸い、貴族たちは財宝の所在について興味はあっても、それを手に入れたいと思う者はいなかった。そもそもからして彼らの多くは莫大な富を築いているし、バカンスに来て贅沢に過ごす余裕があるのだ。大陸に戻ればパーティで自慢できる話がひとつできた、と面白がっている程度にとどまった。


「暗くなっちまったけど、間に合ってよかったな」


「一日仕事だったね。私たちはなんにもしてないけど」


 場所を教えただけで、手伝おうとしても誰もが『あんたたちはゆっくりしてくれ』と、手伝わせなかった。なにしろペイテンのことで世話になっているのに、これ以上の何を望むものかと彼らは出来る限りは自分たちでやる気概だった。


「結局、ペイテンは財宝も手に入れられず、魔道具も取り上げられちまって、五年間を無駄にしたわけだ。なんとも哀れな奴だよな」


「積み重ねてきた悪事の報いを受けるときが来たんだ」


 箱に山と積まれた金貨を一枚つまんで太陽にかざす。


「こんなもののために神の目を欺こうとしたって無理さ。大陸から離れた小さい島国にはこんな言葉があるそうだよ。『天網恢恢疎にして漏らさず』。悪事を行った者は天罰から逃げられない……という意味だそうだ。彼にはぴったりだね」


 指で弾いて金貨を箱に戻し、小さく笑った。


「ハッ、あいつらしい結末じゃねえの。ところでクートは?」


「男衆に引っ張られて飲みに行ったよ、すごく嫌そうに」


 すっかり暗くなって、細身のわりに意外な働き者ぶりで最後まで手伝ったクートを「貴族の跡継ぎなのに根性がある」と褒めちぎり、男衆は喜んで肩を組み、歌を歌いながら彼をどこかへ連れて行ってしまった。本人はグレアたちと一緒にいたかったようだが、断り切れずに諦めていた、とグレアはくっくっと軽く腹を抱えた。


「あっ、二人共ー! やっと帰って来た!」


 リリナが手を振りながら駆けてくる。彼女の傍には母親の姿もあった。


「やあ。あんなことがあったのに元気そうだね?」


「うん、二人のおかげ。それでね、お母さんが話があるんだって」


「構わないよ。時間は全然あるから」


 リリナの母親が深く頭を下げ、それから娘にしばらく離れて待っているように言って、深呼吸をすると

「まずは改めてお礼を言わせてください」と微笑んだ。


 今回のことで、リリナが怪我のひとつしなかったのは、まさしくグレアたちが傍にいてくれたおかげだ、と。それを二人はあっさり否定する。


「私たちのほうこそ礼を言わせてください、リリナのお母さん。あの子が勇気を出して私たちと一緒に戦ってくれたから、こうして島の未来を守れたんですから。おかげで私たちも少し楽をさせてもらいましたからね」


「そうそう、まじで良い娘さんだよ。えっと、あんたは……」


 マリオンが名前を呼ぼうとして戸惑う。リリナの母親がくすっと笑った。


「私はカロナです、マリオンさん」


「悪いな、カロナさん。とにかくあんたの娘は良い子だ」


 照れ隠しにもう一回褒める横で、グレアが咳払いをする。


「ところで私たちに話というのは?」


「ええ、そのことなんですけど……」


 こんなことを頼んでいいものか、と一瞬だけ躊躇いながら。


「あの子を、リリナを連れて行っていただけませんか。もちろんずっと、とは言いません。大陸へ渡って、旅の仕方を教えてあげてほしいんです。お金も払います。ですから、どうかお願いできませんか。あの子に島の外を見せてあげたいんです」


 ずっと島の中で大切に育ててきた。元からそれほど強い身体でもなく、他の子に比べれば弱い。そう思っていたが、今回の一件で彼女が一役買ったと聞いて、自分が思っていたよりもずっと娘は強いのだとカロナは思い直した。


 いまさらかもしれない。そう感じつつも、娘の願いを叶えたがった。


「知ってはいたんです。あの子が島の外へ出たいこと。でも、そんなの無理だって勝手に決めつけて……後悔してるんです。それで、どうにか魔女の代理人様にお願いできないかと。図々しいのは重々承知です」


 彼女が深く頭を下げるのを見て、グレアとマリオンは──。


「んなことで頭なんか下げなくていいっつーの」


「そうそう、とりあえず顔をあげて」


 そっと手を差し出して、グレアは握手を求めた。


「何も頼まれなくたってそうするつもりだったんだ。もうとっくの昔にリリナと約束してるからね。──君の願いは何がなんでも叶えてあげる、ってさ」

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