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気風の魔女─レディ・グレア─  作者: 智慧砂猫
第二部 レディ・グレアと小さな島の少女

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第31話「悪あがき」

 洗脳を解いた島民たちに事情を説明し、グレアは他の人々も教会に集めてもらい、全員がまともに戻ったところで主要な人々を教会の中に招いた。


 ペイテンを小さな聖卓の前で、会衆席に向かって跪かせる。そして彼女は長々と、これまでペイテンが重ねてきた悪行を大まかにではあったが、分かりやすく丁寧に説明した。腹立たしさに誰かが声をあげないよう、何度も言い聞かせながら。


「──さて、島民の皆さん。ここまで聞いてペイテンが全てを認めたうえで、心中を察するには余りあるけれど、まずは落ち着いて私の頼みを聞いてほしい。まずは教会の外で待っている人たちにも話して、事情を理解してもらってくれないかな」


 もうペイテンは言い逃れのできないところまで来ている。教会の中で囚われていたマクフィンが良い証人だ。救出されたあとの、彼のひどく憤慨した様子ときたら、今にもペイテンに殴り掛かりそうなくらいだったが、マリオンに制止されていた。


 これでは島民たちも擁護のひとつする気にならず、呆れたり、恨んだりするような冷たい視線が何度も向けられた。


「すみません、魔女の代理人様と言いましたか」


 島民の老人がひとり残り、杖をつきながら柔和な表情をみせる。


「えっと、すみません。あなたは……」


「島民代表の者で、エルオと申します」


「エルオさんですね。何か聞きたいことが?」


 彼は項垂れたままのペイテンをちらと横目に見て言った。


「礼を言いたかっただけです。我々は小さな島の人間ですから、この閉鎖的なコミュニティでは少しでも皆が助け合えるように努力してきました。もちろん、島に移住してくる方とも信頼関係を築くのが当然だと思っています」


 グレアは素晴らしいことだと同調したが、エルオは肩を落としてしまう。


「ですが、今回のような結果を招くこともあるのですね。非常に残念でなりません。もしあなた方のような清い心を持つ方々が現れなければ、今も私たちは彼の言いなりだったでしょう。か弱いリリナまで守って頂いて、本当にありがとうございます」


 心からの言葉。エルオはグレアの手を握って、震えながら深く頭をさげた。彼女たちを島の救世主だとまで言って。


「大げさですよ。私たちも偶然に知り得たことですから、こうして皆様が無事であったことが何よりの感謝として受け取らせて頂きます。なので頭をあげてください。これからも愛されるリゾート地として頑張ってくれれば嬉しいです」


 そう言った直後だった。それまで項垂れていたペイテンが、がばっと顔をあげてエルオに飛び掛かった。あまりにも意表を突いた行動にはさすがのマリオンも反応が追い付かず、「てめえ、いきなりなんのつもりだ!」と声を荒げるにとどまった。


 彼はエルオの首に腕を回して、汗だくになって怒鳴った。


「う、う、うるさい! お前らのせいで、こっちが重ねてきた苦労が水の泡だ! 魔道具もないんじゃあ大したことは出来なくても、この爺の首を圧し折るくらいなら簡単にやってやる! 分かったら退け、近寄るんじゃねえ!」


 怒号に驚いて島民たちも集まってきたが、事態を理解すると彼に道をあけるしかない。グレアだけは


「やめておいたほうがいいと思うけどねぇ」と落ち着いた様子だった。もう日も昇っていて、よくそこまで元気なものだと感心すらしている。


「いいか、てめえら。必要以上についてくるんじゃねえぞ……。港で船に乗るときには爺も解放してやる。だが、俺の邪魔をしようとする奴がいればどうなるかまでは言わなくても分かってんだろ? 二度は言わないからそのつもりでいろよ」


 してやったとばかりにへらへら笑う。ペイテンはエルオを人質に逃げようとして、うまくいったことが可笑しくてたまらなかった。最後の最後まで希望を手放さなくてよかった、と。俺の勝利だ、と叫びたい気持ちになった。


「じゃあ、みんなで見送ることにしよう」


 グレアがにこやかに言い放ってみせた。誰もが驚く提案だった。平然とそれを聞いていたのは、いつも傍にいるマリオンだけだ。


「エルオさんが無事に解放されるかどうかも分からないだろ? もし私たちがここで見逃して、彼を海にでも突き落とされたら助けられないじゃないか。もちろん、それくらいのことはペイテンも理解してるさ。なあ、そうだよね?」


 何を目的として話しているのか分からず、彼も「そ、そうだな……。だけど、あまり近付くなよ」と戸惑いの濃い返事をする。正式に許可を得た、とグレアはニコニコと喜んで、軽くぱんぱん、と手を叩いて──。


「では出発するとしよう、彼を盛大に送り出しにね」

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