第28話「先回り」
ペイテンが教会からリリナを連れて出ていったあと、不安は抱えつつも、ひとまず計画は進んだと安堵もした。
教会へ入る直前、彼女はある計画を立てた。それは、リリナを使って島の背中へペイテンを誘導すること。容易に逃げられないようにするための策略。そのために必要不可欠だったのが、目的地までの遠回りだ。
しばらく寛いで待っていると、誰かが駆けてくる足音がする。
「遅かったね。危うく眠ってしまうかと思ったよ」
「ハッ、言ってくれるじゃねえか。こっちは必死だったっての」
ぜえぜえと息を切らしながらも、毅然と笑ったマリオンがグレアに背後から抱き着いて、すうっと深く息を吸い込んだ。
「あ~、落ち着く。そっちはどうだ、ここにいるってことは何か企んでたからだろ。そのうち誰かがここに来ちまうから、手短にいこうぜ」
「もう少し汗を掻いてもらうことになるかも」
マリオンがうげえっと嫌そうな顔を浮かべて舌を出す。
「まだこっから忙しくなんのかよ?」
「ちょっとだけね。マクフィンさんたちには安全のために、もうしばらく教会にいてもらうことにしたよ。鍵はあとで見つけられる」
探す手段はあった。だが、グレアのネックレスに残る魔力で優先すべき事は、無事だと分かっている彼らを救い出すことではなかった。
「まずは裏山を登ろう。そこから島の背中にあるマクフィンさんたちと降りた砂浜へ向かう。今頃はペイテンがリリナを連れて宝探しのために船着き場へのんびり歩いてるだろうし、私たちが先回りして彼を待ち伏せしようと思う」
マリオンの腕を優しく退けて立ち上がり、首を傾けてぽきりと鳴らして小さくさすり、疲れた顔で歩きだす。
「少し暗いけど、君のネックレスで照らそう」
「おう。それくらいならオレでも出来るから問題ねえ」
遠くからマリオンたちを探す島民の声がして、二人は気付かれないうちに裏山を登り始めた。暗くて足場も悪いが、マリオンが照らすおかげで、慎重にゆっくりではあるが、怪我のひとつもせずに順調に進めた。
リリナやマクフィン以外の島民は知らない裏山の秘密。彼女たちは、月明かりの照らす広い景色を見て体についた土を払いながら、ふうっと息を吐く。
「綺麗だねえ。夜は夜で、違った趣きがある」
「ここで酒飲んだら美味いだろうなぁ」
「全部終わったら、それもいいかもね」
崖ぎりぎりまで来て、グレアは下を見る。人影はない。
「よし、じゃあ、のんびりしてもいられない。そろそろ決着をつけに行くとしようか? ちょっと高いけど。まあそんなに怖がる必要もない」
「おいおい、まさか飛び降りんのか」
さすがのマリオンもぞっとする高さだ。いくら不死身で傷がすぐ治るとはいえ、自分の身体が潰れる感触はトラウマになりそうだったし、一度は死ぬようなものだ。気を失ったままという可能性もあった。
グレアはやれやれとわざとらしく肩をすくめた。
「君はそういうところが、いつも無茶な発想へ向かうよね。私はそんな危ない橋を渡るつもりはないから大丈夫だよ。ほら、これがあるから」
銀荊の腕輪を指差す。きらりと月明かりを反射したそれは、途端にうごめき、形を巨大に変えていく。グレアの意思通りにうねり、絡み合って長椅子のようになると、彼女はすとんと腰を下ろして、隣をぽんぽんと叩く。
「さあ、座って。このままゆっくり降りるよ」
「……これ大丈夫なのか、疲れねえか?」
「案外疲れないよ。それに降りたあとは君の仕事だし」
隣に座ったマリオンが、ごろんと横になってグレアの膝に頭を置く。
「そういやあ、オレは降りたあとに何すりゃいいんだ」
「何さらっと横になってるんだ。……まあいいか」
「気にすんなよ、ちょっと疲れてんだって」
「ま、あれだけ走り回ればそうだね。ともかく、」
遠くに小さく、ぼんやりと船が見える。のろのろとしていて、まだ着くまでに時間が掛かりそうだ。暗いので危険を回避するためなのだろう、と眺めながら。
「ペイテンの体型から考えて、喧嘩を売るのは分が悪い。取り押さえるのは楽じゃないだろう。……ただし、私やリリナみたいな非力な人間にとっては」
「ああ、なるほど。おっさんの家での仕返しするつもりだな?」
グレアはそっと彼女の顔に手を置いて視界を塞ぐ。
「ハハハ、なんのことかな。まあでも、一番の目的は彼から魔道具を奪い取って島民たちの目を覚まさせることだ。私にはできないが、君は得意だろ?」
「おう。任せとけよ、お姫様。完璧な仕事ってのを見せてやるよ」




