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気風の魔女─レディ・グレア─  作者: 智慧砂猫
第二部 レディ・グレアと小さな島の少女

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第19話「頼みたい仕事」

 突然のマリオンの行動にマクフィンが思わず目を剥く。男は彼の友人で、暇なときはいつも一緒になって酒を飲むほど仲が良い。グレアたちを追う理由も『綺麗で少し気になってる』と言うので、仕方なく付き添っていただけだ。


 いつまで経っても声を掛ける気配がないのに、どこまでも追いかけていくのは少し変だなとは思っていたが、いきなりマリオンが転ばせたので、ぎょっとして「何をしてんだ、マリオンちゃん!?」と彼女の腕を掴む。


 しかし、すぐにパッと放してしまった。


「おう、賢いじゃねえか、おっちゃん。そのまま掴んでたら顔面に一発入れてやろうかと思ってたところだよ」


「あ、いや、それより、俺の友達に何をして──」


 男は二人が話している隙に、山を降りようとする。明らかに逃げようとしているのが分かったマクフィンは、とにかくどちらからも話を聞くべきだろうと、滑り降りて男をあっという間に捕まえてみせた。


 マリオンがぱちぱちと手を叩く。


「へえ、やるじゃん。そいつ捕まえといてくれよ」


「いやいや! ここじゃ危ないし、まず降りてから……」


 そんなマクフィンの言葉を無視するように、今度はグレアが滑り降りてきた。「ごめんね、ここで済ませないといけないんだ」と、首から提げたネックレスを外し、手に持って男の前に突き出して宝石をみせつける。


「落ち着いて、よく見て。それから深く息を吸って」


 宝石が淡く輝き、男の表情がとろんとし始めた。さきほどまではいやに抵抗していたはずが、すっかり力が抜けて、グレアはマクフィンに「もう放してあげていいよ」と伝える。ほどなく目を覚まして「俺はここで何を……!?」とぼんやりした寝起きのような顔で、慌てて座り直す。グレアはマリオンと目を合わせて頷く。


「詳しい説明をしてあげたいんだけど、その代わりに色々と頼まれてほしいことがあるんだ。疲れているとは思うけど、もう少しだけ付き合ってもらえるかな」


 マクフィンたちも何がなんだか分からず、詳しい事情を知るために彼女たちを追いかけて山を登り始める。本当なら誰にも教えるべきではない、とリリナに申し訳なく思いつつも、島の背中が最も他者の目を避けるに適していた。


「この場所のことは他言無用で頼むよ。リリナにとって大切な場所だから、他人を連れてきたなんて知られたくないんだ」


 マクフィンは当然だと頷く。自分も島の背中にある小さな浜辺を教えて、もし自分以外の誰かと一緒だったら、少し悲しくなるから。


「……で、あんたらはいったい何なんだ?」


「魔女の代理人ってご存知かな」


 グレアが傍に落ちている尖った石ころを拾って尋ねた。流石に、小さな島の外を知らないと言えども、マクフィンも彼の友人も揃って頷いて「誰でも耳にしたことはある」と返す。彼女は満足げにニコッと笑うと──。


「私たちが、その魔女の代理人なんだ」


 拾った小石の尖った先で手のひらを傷つける。つうっと血が垂れた直後、彼女の傷口はゆっくり塞がった。不老不死の肉体は、彼らに余計な言葉もなしに信じさせるに手っ取り早い。目の前で幻覚でも見ているんじゃないのかと思うような出来事があって、それを〝魔女の代理だから〟と理由を付けられては、否定のしようもなかった。


「ほら、マリオン。君もやってよ」


「ええ……オレもやんのか」


「信用はいくら得ても良いものだからね」


「ちぇっ、仕方ねえなあ」


 嫌々ながら受け取った小石で、マリオンも同じように手を傷つけて、治っていく様子を二人にみせる。垂れた血を、マクフィンが指で触れてみて、その感触にゾッとする。本物の血。もう疑いようもなかった。


「あ、ああ、俺たち、随分馴れ馴れしく……」


「んなこたあオレらは気にしてねえよ」


 顔を青ざめさせるマクフィンたちに、くっくっとマリオンが笑う。


「いいか、あんたら。特に、そっちの……」


「ああ、俺はヤックです。ヤック・ハイゼ」


「そうか、じゃあヤックさんよ。オレたちは、あんたらにしかできねえ仕事を頼みたいわけだ。報酬は……そうだな、多少は弾むぜ?」


 指を擦り合わせてマリオンが言うと、捕捉するようにグレアが前に出て「今回の件なんだけど」と小さく咳払いをする。


「裏で糸を引いているのは、この島の教祖……ペイテンだ。既に確信もある。なんらかの方法で島の人間を意のままに操り、好き放題してると言えばいいのかな。リリナちゃんが呪いを受けてるなんて話を聞いたことは?」


 ヤックが禿げ頭をさすって、うーん、と難しい顔をする。


「そういやあ、聞いたことがありますね。ペイテンさんが島にやってきた頃に……ああ、そうだ。それで挨拶にと顔を合わせたときに、なんか妙な煙の臭いがして、それから、色んなことを、あんまり覚えてないです」


 話を聞いて、グレアはやはりそれが魔法によるものだと分かり、あらためてペイテンを捕える方法を考え始めた。


「ではお二人に頼みたいことがあります。彼は、おそらく島民のほぼ全員を味方につけている状況です。証拠隠滅もお手の物でしょう。特に自分の身を守ることには徹底しているはずだ。少しリスクはありますが、彼の行動を逆に監視できませんか?」

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